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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-69 異世界の人類がほぼ絶滅した理由についての考察

 かつて佐賀と呼ばれていたイナエカロは自然豊かな場所であり――というよりも時の流れで必然的にそうなったのだが、悪く言えば時代に取り残された、よく言えばレトロな市街地が植物によって浸食され趣のある町並みに変貌していた。


 砂漠地帯のアシュラッドにはあまり植物は生えていなかったが、おそらくこの世界では自然で浄化された町並みこそが普通の光景なのだろう。


 一番の理由はアンジョの遺構は保護されているので手を付けられず、あえて人が住まない場所を手入れする必要もないからなんだろうけど。


 このあたりは子供達の遊び場になっているらしく、先ほど別れたマタンゴさんが友達のロボットやディーパとかくれんぼをして遊んでいる。隠れる場所はたくさんあるのでこの類の遊びには最適だろう。


「ギィギィ!」

「ミツカッター」

「こそこそ」

「……………」


 少しだけ気になったのはその友達のロボットが物凄く見覚えのある姿をしていた事か。


 確かあれはつい最近実戦投入されたばかりのロボット兵器だが、密林地帯でもすぐに敵を発見出来る優秀なセンサーを持つ彼はかくれんぼという最も得意とする戦場で無双し、錆びついたボディを無理やり動かして歪な声で喜んでいた。


 備え付けのガトリングは長らく使っていないのかすっかり錆びついている。きっと彼はとっくの昔に自分の役目を忘れてしまったのだろう。俺はそんな彼の姿を見て羨ましいな、と思ってしまった。


 やはりここもその辺に兵器の残骸がある。あちらは雰囲気的には俺達の世界で開発中だったステルス戦闘機っぽいが、かなり損傷が激しくかつての姿を想像する事は難しかった。


 兵器は冷戦時代の骨董品から最先端の機神兵まで様々な種類が存在し、大昔にここで激しい戦闘が行われていたと推測出来る。


 推測だが途中で兵器が無くなり使えそうなものを引っ張り出した結果こうなったのだろう。最終的には石と棍棒も使ったのかもな。


 だがどの兵器にも花が咲き乱れ、新たに世界に生まれ落ちた子供たちが遊び場にしている。それは終末の世界だというのに、何一つ絶望など存在しない優しく幸せな光景だった。


『なにそんなに熱い眼差しで子供たちを見ているんだい? マタンゴさんのキュートなおケツに欲情したのかな。その性癖は流石に』

「しんみりしたムードをぶち壊すな、ったく」


 空気の読めないまれっちは俺をおちょくるが本音を言えば有難かった。きっとこれ以上こんなにも幸せな光景を見ていれば涙を流していただろうから。


「アンジョの遺構ばっかだから歴史マニア以外はそんな見ていて楽しくなるもんでもないけど、一応ここもそれなりに人気の観光地だ。役に立たない大昔の事よりも最近の歴史を勉強すべきだと思うけどなあ。おっと、トモキには失言だったな」

「いいさ、ザキラ。その通りだから。もちろん俺たちの世界でもゾンビとかプチ氷河期とかいろんな外的要因はあったけど、世界が滅びに向かう事になった一番の理由は人間の自業自得さ。戦争はある日突然起こるんじゃない。少しずつ壊れて奪われていくんだよ」


 ザキラの言葉の意味を俺は身をもって知っていた。人は過去の過ちを学ばなかった結果歴史を繰り返してしまい、自ら破滅の道を選んでしまったのだから。


「地元の有名な歌手の人も世の中が不幸になっていく時最初に奪われるのは音楽だって言ってたけど、結局その通りになっちまったな」

「……音楽か。確かにそうかもな」


 ザキラは音楽というワードに反応して何かを考えこむ。


 悪徳大臣のクライが噴水広場のショーの廃止を提案した際かなり不機嫌そうにしていたし、彼女は音楽というものに特別な思い入れがあるのかもしれない。もしかしたらこの世界でも同じような事が昔あったのかもしれないけど。


「自由に何も言えなくなって、不自由が当たり前になって、気付いたらいつの間にか世界中が独裁国家になっちまった。戦争に勝つためならすべてが許される、それを否定する事は悪だって昔の連中が戦争の出来る国に変えて、俺達はそのツケを払う羽目になったんだ」

「そうかあ? そこまでされて若い奴らは何も抵抗しなかったのか? ならそっちにも責任はあると思うぞ」

「残念ながら何もしなかったどころか賛同した奴もいた。当時の奴らは当たり前の様に平和な毎日が続くと思っていたからな」


 リアンは俺の主張に疑問を抱いた様だが、それに対して俺は何一つ言い訳をする事が出来なかった。


「政治家もそういう奴らから票を集めて権力を維持するためにどんどん過激になっていったんだ。群衆を扇動するのは向こうのほうが一枚も二枚も上手だ。行動を起こした若者もいたが、結局右も左もいい様に利用されただけだった」


 とある独裁者は国民が政治に無関心である事は最も独裁者にとって都合がいいという言葉を残したが、悲しい事に何十年も経ってその言葉は現実の物となってしまったのだ。


「んで、ジジババ連中は若者を戦争に行かせて悠々自適に暮らしていると」

「いいや。自分たちは戦争に行かずに安全だって思っていたそいつらも年金やら医療費がごっそり削られたよ。戦争が起こればあらゆる福祉制度は一瞬で崩壊する。戦争が起こったのは軍事費を削って自分たちの年金や医療費を優先したお前らの責任なんだから、国家のために全てを捧げろって連中が作り出した風潮がそのまま適用されてな。今じゃお国のために3Kの仕事をこなす奴隷、もとい労働力になってるよ。そうしなかったら安楽死させられて異世界転生するからな」

「安楽死って」


 ハードな話にサスケはびくん、と怯えた。あまり楽しい話じゃないがここまで話したんだし最後まで続けるか。


「法律でそうなったんだ。本人の同意がなくても家族の同意や医者の判断で安楽死させる事が出来るって」


 もちろん急激な社会の変化に対して当時はかなり高齢者から抗議の声が上がったが、その頃には世間はもう彼らの味方ではなくなり、戦争で勝利をするためなら全てが許されるという世論が完全に構築されあっさり切り捨てられてしまった。


「苦しい状態で生かし続ける事は残酷だって世論が作られてそうなったんだけど、実際はほとんど審査なんかしてなくて医者がサインを書けば安楽死させる事が出来るんだ。感動的な安楽死を描いたお涙頂戴の小説やドラマも作られまくって、それが本人にとっても幸せだって政府も広報しているし反対する奴はまずいない。本音はとっとと死んでもらって医療費を削減して軍事費とかに回したいだけなんだが」


 若者にも責任はあるので因果応報とは言いたくないが、もしもちゃんと考えて行動してくれたのなら違った未来もあったのかもしれない。たらればの話なんて無意味だけどさ。


「同じ理由で障害者も大体生まれた時に生まれた時に選択を突きつけられる。脳に怪しいチップを埋め込む手術をして機能を改善するとか、障害者でも操作出来る兵器の訓練を受けるか戦闘用の義肢を付けて軍人になればそうならなくても済む、っていうか大体の奴はそうする。生まれた時から英才教育を受けて勝ち組の高給取りになれる運命が決まっているわけだけど、逆に言えばそれ以外の道は存在しないんだよ」

「ふぅん」


 もう一人、義手のリアンもその話に思う所があったらしく不愉快そうな顔になってしまった。もしも彼女が俺たちの世界に生まれていれば同じ様な運命を辿っていただろう。


「だけど人類は滅んで正解だったんだろうな。割と皆幸せに暮らしているみたいだし」

「かもな。アンジョの子孫の支配もどこまで続く事やら。昔はたくさんいたらしいけど、今はどこの領主もほとんどグリードだ」


 リアンは嫌味ったらしく言い放ち、俺はイナエカロに来て一人も人間を見ていない事に気が付いた。


「そういえばそうだな。地域によって住んでいる人種に差があるのは当たり前の事だが、それでも極端すぎる。まれっちはわかったりするか?」

『そうだねぇ。バナナと病気のトリビアは知ってるかい?』

「バナナ?」


 ふと気になったその質問をまれっちに尋ねると彼女は変化球を返した。俺はしばらく考え、どこかで聞いた話を思い出した。


「市場に出回るバナナはほとんど生産性を重視したクローンだから、病気になれば爆発的に感染が拡大してすぐに絶滅するんだっけ」

『そう、この世界の人間も同じだった。智樹ちゃんの世界でも人類が誕生した頃、いろんな所に小規模なコミュニティがあったけど、大体は近親交配やらで似た様な遺伝子になって、んで病気に弱くなって文明を作る前に絶滅しちゃったんだよね』


 それはバナナや人間に限ったことではない。全ての生き物に言えることだ。人間が文明を築く事が出来たのは、コミュニケーション能力に特化した生き物になった事が理由の一つにあげられるだろう。


『多様性っていうのはその言葉を聞くだけで拒絶反応を示す人もいるけど生物学的には結構重要なのよ。終末世界でコールドスリープから目覚めて生き残ったたった一人の男がハーレムなんてしてもまず人類の存続は無理ってわけね、遺伝子的なアレでいつか詰むから。口先だけで多様性って言っていても、結局同じ人種同士で結婚してたら生物学的には意味はないのよぉ』

「つまり残り少ない人類で近親交配を繰り返した結果、病気とかに弱くなって絶滅危惧種になったってわけか。清めの儀はひょっとして」


 俺はアシュラッドに入国した際強制的に受けさせられた清めの儀の理由に気が付いてしまった。


 あの入念な殺菌も街を覆う巨大なドームも、全て外部からウィルスなどを持ち込ませない様にするためだったのか。


『そゆ事。一応この世界にも昔はたくさんいたけど閉鎖的な世界で殺し合って数を減らして、もう戦争するくらいならお互い関わるのは止めようってなって、同じ考えや人種の奴がそれぞれの地域に引きこもって……ってわけさ。ノーザンホークのコミュニティも少し前の戦争で滅んで、今じゃアンジョの子孫のほとんどはアシュラッドにしかいない。あそこにいる連中が外に出る事は絶対にないだろう。彼らはアシュラッドの中でしか生きられないからね』

「……なんか虚しくなってくるな」

『結局いくら社会が変化して高度な文明を築いたとしても、生物である以上人間は遺伝子という螺旋の鎖の呪縛から逃れられない。人類は知識を手にしたが故に特別な存在と勘違いしてしまったんだ。人はサルから進化なんてしていない。人はサルよりも愚かな生き物だからね。あ、これ俺っちの座右の銘ね』


 まれっちの話にはいろいろ考えさせられるものがあった。


 きっと俺たちの世界もそう遠くないうちに同じ未来に辿り着くのだろう。天災でも異世界からの侵略でもなく、ただの自業自得で。


「……アタシも同感だが、この世界の住民が知らない歴史をベラベラと喋るのは止めた方がいいぞ。多分連中はそういうのを滅茶苦茶嫌がるから」

『あらら、メンゴメンゴ』

「メンゴメンゴって。古っ」


 ただ彼女の話は正史には語られていない消された禁断の歴史だったらしく、ザキラは険しい表情で苦言を呈した。


 確かにこの話は今の支配者の権力を揺るがしかねないものだし是が非でも隠したいに違いない。きっとトール教会の教えではその辺の歴史は全カットしているんだろうな。


「ポ、ポン! 鳥肌が立ちましたポン!」

「信じるか信じないかはあなた次第でヤンス!」


 モリンさんとサスケは都市伝説の番組を見るノリでビビッていた。


 俺は人間だから思う所はあるけど関係者以外からすればこんな感じなのだろう。彼らからすればアンジョは近くて遠い存在なのだから。


「まあ本当の事だとしてもオレたちにはあまり関係ないけどな。でもトモキは病気になったりしないのか?」

『お前さんもそうだけど引きこもり続けたアシュラッド以外の人間アンジョは普通に生活しているでしょ。あんま気にしなくていいよ』

「いやオレはナーゴ人だから」


 唯一リアンだけはその歴史が気になった様だけど、その理由が俺の身を案じての事だったので少し嬉しかった。病気に弱いのはあくまでもこの世界の一部の地域に住む人類だけでありあまり気にしなくていい様だ。


『だらだら話しちゃったけど結局難しい事はなーんも考えなくていいよぉ。今智樹ちゃんやこの世界に生きている奴がすべき事は、かつて栄華を誇り滅んでしまった古代文明に想いを馳せて自由気ままに観光する事さ』

「それもそうだな」


 まれっちは最後にそんな総括をして俺は全面的に同意する。


 この世界に残された人類の子孫は何かをしようとしまいとやがて滅ぶだろうし、護るべき特段の理由もない。


 自ら滅びの選択をした人類は潔く身を引き、今を生きる人々にこの世界を明け渡すべきなのだ。


 俺もまたそう結論付け周辺を観光する事に決めた。追っ手も当分来ないだろうし、時間に余裕があるうちに人類滅亡後の廃墟探索ツアーと行きますかね。

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