1-68 イナエカロの探索開始
中規模の市街地エリアに到着し、牛車から降りた俺はまれっちの指示を仰ぐため連絡を取った。
「まれっち、市街地エリアに来たが目的地まではどうやって行けばいいんだ」
『んごーんごー……ん、おう。なに?』
「寝てただろ」
『寝てない寝てない』
しばらく連絡が来なかったが彼女は眠っていた様だ。
そりゃ人間だから二十四時間起きているわけじゃないし仕方がない事だけど、いざという時に連絡しても何らかの理由でサポートが受けられない可能性もあるので頼り過ぎない様にしたほうがいいかな。
『目的地は市街地エリアから離れている辺鄙な所だ。バスや牛車の定期便はないから自分で移動手段を調達するか歩いて向かいな』
「わかった」
『現地に向かったら気球を手に入れるんだ。俺っちがいる場所には気球や空を飛べる乗り物でしかたどり着けないからね。気球はそこで起こっている揉め事を解決すれば手に入るだろう。ついでにディーパの観光客もいるから真珠のネックレスも返すといい』
「揉め事ねえ。やってみるか」
俺は目的の場所に関してはあえて深く聞かずやるべき事を確認した。
出来れば危険な揉め事でなければいいが、やはり目的地はあの場所だろうな。
「なあ、飛べないとたどり着けないってやっぱあそこなのか?」
『そうだ。こっちからお前さんの姿ははっきり見えてるよ』
空を見上げると遠く離れた蒼穹に巨大な大地が浮かんでおり、明らかに異質だったけれど街行く人々は一切気にせず歩いているので、あの空中に浮かぶ島はこの世界の人にとって何の変哲もない当たり前の存在なのだろう。
闇市でディーパの店主と話をした時にキヨウの下の方で釣りをしたと言っていたけど、あれは南のあたりで釣りをしたという意味ではなく高さ的な意味だったのか。一応ファンタジー世界なんだし空に浮かぶ島くらいあるか。
『俺っちが裏工作で時間稼ぎをしておいたけど一応タイムリミットはある。急ぎ過ぎる必要はないけど追手が来る前にこっちに来るんだ』
「わかった。佐賀は気球の祭りで有名だったし、この世界でも文化が残っているのなら見つける事は出来そうだな」
「気球かあ。そんな骨董品を使わなくてもいいのに。アタシなら普通に飛べるし、トビブタとかじゃ駄目なのか?」
ザキラはすぐに考え付く方法を提示したが、まれっちはうーん、と悩ましげな声で唸ってしまう。
『他の手段でも出来ない事は無いけど、これはお前さんがたを試すための試練みたいなもんなんだよ。気球以外でやってきたら防衛システムで撃ち落とすからそのつもりでね。クエストの途中で冒険に役立つお宝も手に入るだろう。何度も言うけどこっちにも事情があるんだ』
「ったく、わかったよ」
「いいんじゃね? お宝が手に入るならついでに貰っとこうぜ」
「楽しそうな冒険なら大歓迎でヤンス!」
彼女は乗り気ではなさそうだったが、アグレッシブなリアンとサスケは概ね好意的にこのクエストを受け入れた。
「あれ? でも気球のお祭りは今はもうやってなかった気がしますポ」
「え、マジっすか」
「いえ、記憶違いかもしれません。お祭りはなくても気球はあるかもしれませんし、ディーパの集落に行けば何かわかるかもしれませポン」
「そうですね、そうしましょうか」
モリンさんは情報提供をし、目的地が定まった所で俺たちはディーパの集落へと向かった。
マップを開いても王国兵の影も形もないし、しばらくはのんびり出来そうだ。




