1-67 癒し系不思議生物マタンゴさんの生態
――聖智樹の視点から――
多くの麻薬は使用した際一時的に高揚感を与えるが、効果が切れると代償として一気に疲労が押し寄せてしまう。
ある人は元気の前借と形容していたが、マタンゴさんとのパーリナイもまたその類のものだったのだろう。
「いきてるー? つんつん」
「お、おう……」
「むにゃむにゃ」
一晩中踊り明かしたせいで俺たちは疲労がポン、と飛んでいくどころか疲労困憊になってしまう。
原因を作ったマタンゴさんズは全くもって平気な様だが、俺達は全員半分眠りながら再度牛車で移動していた。
「全くもう、子供は夜更かししちゃ駄目ですポン」
「面目ないでヤンス~」
「ごめんなさいー」
唯一巻き込まれる前に避難して無事だったモリンさんはお母さん役としてめっ、とサスケを叱りつけた。
マタンゴさんも悪い事をしてしまったと理解しているのかしょんぼりしながら素直に頭を下げ、何かしらの感情が萌芽せざるを得ない愛くるしい姿に俺の眠気は一瞬で吹き飛んでしまった。
「ところで今更だがマタンゴさんってなんなんだ?」
「ぼくはきのこだよー?」
「いや、そうなんだが」
俺が何の気なしに尋ねた質問は彼らを困らせるものだった。
それは人間に対し人間とはなんだ、と聞くようなものなのですぐには答えられないだろう。人間ですら古代より多くの哲学者や宗教家が議論しても明確な答えは未だに導き出せていないのだし。
「ぼくたちはかんづめがだいすきだよ!」
「くらくてじめじめしてるところがだいすき!」
「でもおひさまやあかるいところもすきだよ!」
「いちばんすきなのはおともだち!」
マタンゴさんズはわいわいがやがやと自分たちの紹介をする。
この愛らしい生き物がとてつもなく友好的な存在である事はわかったが、残念ながらそれ以上の事はわからなかった。
「マタンゴさんはその辺にいるがそんな事考えた事もなかったな。ただ今の説明で想像はつくと思うがどこの種族とも友好的だ。たまに悪戯好きな奴はいるが、ゴミや樹木を魔力が籠った燃料に変えて、大怪我をした時なんかはキノコ胞子で痛みを和らげてくれるし心の病気になった奴もすぐに元気になる。この世界にこいつらが嫌いって奴はいないだろうな」
「ほー、お前ら結構凄い奴だったんだな」
「えっへん」
ザキラはこの世界におけるマタンゴさんの立ち位置を説明し、ベタ褒めされたマタンゴさんは誇らしげに胸を張った。この世界において彼らは人々の生活に欠かせない存在らしい。
もしも彼らを絶え間なく戦争をしている現実世界に持って帰れば最強のチートになるだろう。彼らのキノコ胞子があれば戦争による恐怖や心の傷を消失させ、四肢が欠損する様な重傷でも痛みを感じる事無く治療が可能なのだから。
けれどそんな役割を心優しい彼らに与える事はとても残酷な事に違いない。もし向こうの世界に戻る事があっても、彼らだけはあの世界に連れて行ってはならないだろうな。
「どうしたのー? にらめっこ? あっぷっぷー」
「いや」
急に黙り込んだ俺をマタンゴさんは不思議そうに見つめ、無邪気な笑顔で変顔をしきゃっきゃとはしゃぎ始めた。
所詮これは限りなく可能性の低いもしもの話だし、考えた所で意味などないか。
「じゃあマタンゴさんはどうしてさん付けなんだ? マタンゴじゃなくて」
「それは……なんでだろうな。そういうものだからじゃないか。今言った通り医者いらずみたいな側面があって、愛玩動物的な存在であると同時に敬意の対象っていうかそんな理由じゃないか。知らんけど」
「ふむふむ」
「ごろごろー」
また呼称についての考察も聞かされたが、その敬意の対象であるマタンゴさんは牛車の揺れを楽しみごろごろと転がって遊んでいた。
多くの土着の神がさん付けで親戚の様に親しまれる様に、マタンゴさんもまたそういう立ち位置の生命体なのだろう。
ひょっとしたらマタンゴさんの力を借りれば俺の睡眠障害も解消出来るのだろうか。無論多少抵抗感はあるが長年の悩みが解消出来るのなら試してみるのもいいかもしれない。
しかし彼らもまた人格のある存在なのでその辺で捕まえ無理矢理一緒に暮らす、というのは好ましくないだろう。うーん、なんかいい方法はないかなあ。




