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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-64 逃れられない悪夢

 睡眠とは疲れを癒すためにする行為だ。地球上に存在するあらゆる生命体は眠らなければ肉体を維持する事が出来ず、人間もまたその例外ではない。


 だが俺は毎晩必ず訪れる闇が苦痛で仕方がなかった。夢は強制的に深層心理に引きずり込み、心の奥底に無理矢理しまい込んだ記憶は元に戻ろうと黒い手を深淵から延ばして来る。


 血のニオイ、黒煙のニオイ、建物が焼けるニオイ、人肉が焼けるニオイ――決して忘れる事の出来ない生々しい戦争のニオイは今でも鮮明に思い出せる。


 かつてとある人は嬉しそうに言った。アメリカは日本の伝統的な建物を護るために京都を攻撃しなかったと。


 しかしそれは日本占領後に米軍のイメージをよくするために作られたただの後付け設定であり、実際は原爆を落とした際の威力を確かめるためあえて攻撃しなかっただけだったらしい。


 結局ヒロシマとナガサキが実験の場に選ばれ京都は難を逃れたが、もしも京都に原爆が落とされていたらきっとこうなっていたのだろう。


 日本は原爆を落とされてもなお戦おうとしていたし、十分に有り得た未来のはずだ。


 風光明媚な古都は地獄の業火に包まれ何もかもを焼き尽くしていく。耳や鼻や眼球や声帯を失いながら、哀れにも死ぬ事が出来なかった黒い何かは苦悶の声を上げうごめきやがてばたばたと息絶えていく。


 人種も年齢も性別も関係ない。彼らはその時そこにいたというだけでこの様な地獄の責め苦を与えられた。


 戦争は元来理不尽なものであるが、その絶望的な光景はあまりにも狂っていた。


 熱い、痛い、熱い痛い痛い痛いッッ!!


 黒い肉塊はもだえ苦しむ俺を壊れるほどに抱きしめ、その身を焦がしながら炎から護ろうとしてくれたが、恐怖で気が狂っていた俺にその海よりも深い優しさを感じる事は出来なかった。


 この耐え難い苦しみから抜け出すにはどうすればいい。


 そうか、これは夢だ。夢ならばすぐに目を覚ませばいい。


 俺はいつもの様にその思考に帰結、無我夢中で黒い泥の様な肉塊を掻き分けながら現実の世界へと帰還した。


 だが意識が覚醒する直前、いつか現実に二度と戻れなくなって悪夢の世界に永遠に閉じ込められてしまうのではないかと、ふとそんな事を思ってしまった。



「ッ!」


 俺は素早く体を持ち起こし周囲の状況を確認した。見覚えのない廃墟らしき建物内部には脅威となる敵はどこにも存在せず、燃え盛る炎も存在しない。そしてもちろん戦争特有のニオイも……。


(ああ、そっか。異世界に来たんだっけ)


 意識が次第にはっきりしてきた俺はしばらくして異世界転移した事を思い出した。と言ってもこの建物は廃墟とはいえ現代の建築物なのであまりその実感は湧かないけど。


『おはよー』

「俺はどのくらい眠っていたんだ」

『君の世界の感覚なら二時間くらいだね』

「そうか、薬なしならまあまあ寝れたほうだな」


 まれっちは約束通りちゃんと見張っていてくれたらしい。あれだけ疲れていたのにそんなに眠れなかったな。


「もし合流出来たら強烈な睡眠薬もくれないか。夢を見ない程度にぐっすり熟睡出来る奴を」

『もちろんそれくらいなら調達出来るけど薬の飲み過ぎは良くないよぉ。焼酎とかにしておきな。酒は美味いだけじゃなくてよく眠れるし、酔っぱらって夢見心地になれば大抵の辛い事は忘れられるよ』

「そうだな、それも良さそうだ」


 アウトローな彼女は健全な青少年には推奨出来ないアドバイスをしてくれた。


 前の世界では未成年の飲酒は信用スコアが下がるのでやめておいた方がいいが、それで安らぎを得られるのならば浴びる様に酒を飲むのも一つの手だろう。たとえそれが現実逃避だとしても。


 陰鬱な気分を誤魔化すために新鮮な外の空気が吸いたくなった俺は、マップを確認してから建物の外に出る。


 静寂の夜空には無数の星々が瞬き暗闇の世界を照らす。それは文明の光と消える事のない戦火によって闇が奪われた現代では決して見られない優しい光だった。


 星の配置はこちらの世界と似ているが、かつての栄華を誇っていた文明が崩壊してからどれくらいの時間が経っているのだろうか。


 春夏秋冬、様々な時期の星座が見られまるでプラネタリウムを見上げている様だ。


 世界の中央には昴らしき星も見受けられ、手の届かない虚空から人々を見守っていた。けれどその光がどこか寂しそうだったのは俺の気のせいだろうか。


「?」


 星を眺めていると切なげな音色が聞こえ、俺は兵士の本能で耳を澄まし音の正体を確認したが、すぐにマップ機能という便利なものを使える事を思い出し展開する。


 どうやらリアンが独り寂しくガレキに腰掛けて早速チャランゴ(っぽい楽器)を演奏している様だ。


 もしも日本で深夜に弦楽器を弾いていれば隣人に壁ドンされてしまうが、ここは廃墟なので何も問題はないだろう。


 ……ちょっと顔を合わせづらいけど、彼女とは話したい事もあるし会いに行くか。

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