1-63 智樹のサバイバルキャンプ飯(初心者向け)
いよいよ楽しいキャンプ飯、となるはずが皆は俺から距離を置いて食事をとっていた。というよりも正確には俺が独りだけ離れた場所に隔離された、というほうが適切か。
「ぐすん、ぐすん」
「よしよし、怖かったねー。ほら、これあげるから泣き止むポン」
モリンさんはすすり泣くサスケに非常食の焼きまんじゅうを与える。焼きまんじゅうなんてものは群馬くらいでしか食べられていないが、この世界では割とポピュラーな食べ物なのだろうか。
「まあまあ、犬に噛まれたと思いな。ハッ○ーターンも食え」
「皮肉でヤンスか? ぐすっ」
変態に蹂躙された彼は文句を言いながらもザキラからお菓子を受け取り、犬耳をしょんぼりさせ泣きながら優しさの籠ったお菓子を頬張った。ううむ、これは俺もなにかしらのフォローをしたほうがいいかな。
「サスケ、ごめんなあ~? お兄ちゃんがお菓子をあげるから悪戯した事を許してくれよ。お小遣いもあげるからパパとかママにも内緒にして欲しいかな、ひゅえ!?」
しかし市場で購入した落花生入りの焼き菓子を渡そうとした際、パシュンとリアン姐さんが放った怒りのニードルがカツラを掠めてしまう。
「口開くなクソペド野郎」
「やあん。うふぅ。そんなブタを見る様な眼で見ないで」
お叱りの言葉で俺が気持ちよく怯んでいる隙に彼女は義手を射出しお菓子を強奪、自分の口元まで引き寄せ昔懐かし素朴な味わいの太○せんべいをバリバリと音を立てながら胃袋の中に収めた。
『智樹ちゃん、この世界ではブタは神聖な生き物だからその表現は適切じゃないよお。ブタさんはこの世界の神話では英雄を助けた神獣で、敵と戦ったり、大地を浄化したり、パスワードを解除して国家機密を手に入れたり、フリーな石工組合のトップからアメリカの影の大統領になってエアフォースワンを用意してくれたりいろいろ凄い生き物なんだよ?』
「後半トンでもないのが混ざってないか」
まれっちはこの世界のブタさんの神話について教えてくれたが、おおよそ神話とは思えない単語がポンポンと飛び出してしまった。
「つっても流石にブタがそんな芸当を出来るはずがないし、実在した奴かブタっぽいポーク族をブタに例えただけだとは思うがな」
『まあ普通はそう思うよね』
にわかには信じられない話だったが、シスターのザキラですらそう解釈しているのでこのリアクションでちゃんと合っているらしい。真相がどうだったのかは確かめようがないけどまれっちはそれを知っているのだろうか。
「……ごちそうさん。俺は先に寝床の準備をしておくよ」
「建物は分けろよ」
「へいへい」
俺は気まずい時間を終わらせるため兵士の基礎スキルである早食いで素早くかしわ飯と異世界味噌汁を完食、リアンから忠告され仕方なく外に出て別の建物に移動した。
『部屋を分けろじゃなくて建物を分けろか。すっかり性犯罪者として認識されてるねぇ。明日の朝サスケが涙ながらにアニキが布団の中に入って変な事してきて怖かったでヤンス、なんて言われたらもうゲームオーバーだからね。そういう変則バッドエンドはやめてよね?』
「うるせー。いや実際そう解釈されても仕方がないけどさ」
アイテムボックスから寝袋を取り出し支度をしている最中、からかうネタを手に入れたまれっちはこれでもかと小馬鹿にしてくる。しばらくはこいつにおちょくられるだろうなあ。
『初日だから今夜は特別サービスだ、見張りは俺っちがしておこう。敵はやって来ないとは思うけどね』
「頼む。じゃあ寝るわ……」
やるせない気分で返事をした後俺は素早く就寝の用意を済ませ、もぞもぞと寝袋に入って瞳を閉じた。
初めての場所で寝れるかなあ、とかそんなしょうもない事は言わない。俺はいろんな所で演習をしてきたので道路だろうが山だろうが海だろうがどこでも眠る事が出来る。なによりもこの猛烈な疲労感があれば誰であろうとすぐに眠る事が出来るだろう。
だが眠る事は出来ても熟睡は出来ない。今日は確実に途中で目を覚ますだろうな、とげんなりしながら俺は世界から意識を遮断した。




