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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-62 変態の生贄になったサスケの純心

 アンジョの遺構はスペイン風の建物が並ぶ区画で、ヤシの木や白い塔らしき建物が特徴的な場所だった。


 一見異国の小さな町に見えるが、多分ここは九州最大級のアウトレットモールの跡地だろう。廃墟となり建物も劣化しているがこんな特徴的な場所はそんなにはないし。


 元々の場所が場所だったので使えそうな物資もたくさんある。けれどこの場所は文化財に指定されているらしいし、勝手に持って帰れば捕まってしまうだろう。そもそもお尋ね者なので別にそこまで気にしなくてもいいだろうけど。


 俺達は今晩の宿に損傷が激しくない建物をチョイスした。屋根もあるしここならば敵に見つかる事は無い。いい感じに天井が壊れて通気性のいい場所もあるし料理も出来そうだ。


 楽しいキャンプ飯、と行きたかったが必要な道具があまりなかったのでまずは鍋を使って米を炊き、そこに既にタレの味が付いている焼き鳥の缶詰と適当に市場で入手した根菜をぶっこんだ。


 佐賀である事を意識したわけじゃないが、かしわ飯は簡単に出来るしキャンプ飯にはぴったりだろう。


「ハッハッハッハ!」


 サスケは鍋から立ち上るかしわ飯の湯気を存分に堪能し勢いよくしっぽを振る。このタレと野菜と鶏肉が合わさる事で誕生する極上のニオイにこのわんこは耐えられなかったらしい。


「サスケ、犬みたいだぞ」

「失敬な! オイラは犬じゃなくてオオカミでヤンスよ!」

「あ、そうだったの」


 その勘違いはサスケにとってかなり侮辱的な事だったのかぷんすかと怒ってしまい、俺は今更ながら彼がオオカミである事を知った。てっきり黒っぽい柴犬がモチーフかと思ってたけど。


「ふーん、鍋で炊くんだ」

「兵隊らしく飯盒で炊いてもよかったが残念ながら発見する事が出来なくてな。ぶっちゃけ今時飯盒なんて使わなくても便利な道具はたくさんあるし、敵に見つかるリスクがなく火を起こせる程度に余裕がある状況でわざわざ使わないけど」

「道楽じゃないほうのキャンプは楽しいものじゃないからな。オレも野宿する時は缶詰を食べたり固い干し肉とかをかじってたよ」


 リアンはマズそうな干し肉を食べながらこの世界でのキャンプ事情を教えてくれる。俺には無尽蔵のアイテムボックスというチートがあるが普通はそんなものだろう。


 鐘やベッド等かなりデカいものも収納出来るし、あらゆる物資を簡単に運べるアイテムボックス機能は地味に最強クラスのチートだ。


 兵站の確保はいつの時代の戦争でも最優先だけど、武器や弾薬はもちろん戦車や戦闘機も簡単に移動させられるし、その気になれば条約で禁止されている兵器とかもバレずに運びたい放題なのだから。それこそ核兵器だろうと……。


「ついでに味噌汁でも作っておくか。これ食べられるよな?」

「そこにある奴は全部普通に食べられる奴だ。虫とかじゃなければなんでもいいぞ。本当に入れてないよな?」

「別にその辺で食材を調達してもよかったけど、まだこの世界の野草の知識がないし今は止めておくよ。あと俺は虫を食べられるタイプの人間だけど別に好きなわけじゃないぞ」


 先ほどのやりとりを引きずっていたザキラは警戒しながら具材を眺めた。サバイバルの知識は基本的に物が無い状況で真価を発揮するが、アイテムボックス機能があればもう使う事は無いだろう。


「でも市場で味噌を発見した時は驚いたよ。海外に行った際味噌汁が恋しくなるとは言うが、まさか異世界ライフ初日で日本人の魂である味噌を発見するとはな。味噌は保存もきくし栄養価も高いし便利な万能食材なんだ」

「お、わかってるじゃん。オレもナーゴ族として常にマイ味噌は持ってるぞ」

「はは、ナーゴ族。つけてみーそ」

「かけてみーそ! ってなんでお前がナーゴ族に昔から伝わる祝詞を知ってるんだ?」


 スティックタイプの味噌の袋をカバンから取り出したリアンは俺がローカルネタを知っていた事にかなり驚いていたが、どうやらあのCMソングはナーゴ族では神聖な祝詞として伝わっているらしい。


 ナゴヤ人にとっては某球団の応援歌と並び立つ国歌みたいなものだけど、もう何でもありだな。


「まだでヤンスか!? まだでヤンスか!?」

「焦るなって。もう少しすれば出来るから」

『フッ。あの時と同じだねぇ。鳥頭はいないけど』


 味噌汁が合わさった事でニオイはさらに強くなりサスケはしっぽがちぎれそうなほど激しく振った。


 その愛らしさにまれっちですら笑みをこぼしてしまったが、その際彼女はなにやら思わせぶりな事を呟いてしまう。


「鳥頭? 頭が悪そうな鳥のヤンキーならいるけど」

「殺すぞ」

『何でもないよ』


 その発言が気になったのでつい聞き返してしまったが、彼女ははぐらかすだけで教えてくれずザキラの好感度が下がっただけだった。


「後は待つだけだな。さて、この空き時間をどうするか」


 大方の調理作業を済ませする事がなくなった俺は無意味にぼーっとしてしまう。こうしてだらっと出来るのは追っ手に怯える必要がないからであり、贅沢で幸せな悩みとは言えるけど。


「……………」


 俺は地べたに座りながらぼんやりと揺らめく焚火の炎を眺めた。


 パチパチと音を鳴らしながら燃える炎からは灰色の煙が立ち上っており、その澱んだニオイは無性に不安を掻き立ててしまった。


 何もする事がないとどうしても先ほどサンドワームと遭遇した際の凄惨な光景を思い出してしまう。楽しいムードで誤魔化せるかと思ったがそう上手くはいかなかった様だ。


 俺にとって炎は戦争とトラウマの象徴であり、昔は見るだけで『あの日』の恐怖を呼び起こしパニックになってしまったのものだが、今はもうそうでもなくなった。


 やがて人の死に対しても慣れてしまうのだろうか。先の戦争では新兵に捕虜を撃たせて人を殺す事に慣れさせたそうだが、俺も一線を越えてしまえば何も感じなくなるのだろうか。


「じー」


 無の表情で不安にさせてしまったせいだろうか、じっと俺を見ていたサスケは何かを考えこむ仕草をし、意を決してこう告げた。


「あの、アニキ! オイラはオオカミの姿になれるでヤンスけど、もふもふしてみるでヤンスか?」

「え、ああ」

「じゃちょっと待って欲しいでヤンス!」


 思わずしてしまった俺の気のない返事をサスケは肯定と解釈し、ぽてちてと物陰に移動してしまう。


「はあ、サスケさんは何を考えているのでしょうか?」

『なんか面白そうだし泳がせてみれば?』


 モリンさんとまれっちもその突然の行動の理由がわからなかったけど、もちろん俺にもわかるはずがない。しかしどうせ待っている間は暇なので彼の相手をしてあげる事にしよう。


「んしょ、んしょ」


 そのまま彼が隠れている物陰を眺めていると布がこすれる音がした。


 どうやら服を脱いでいるらしい。肉体が動物の姿になるというのならばそりゃ服を脱ぐ必要があるのだろうが、俺は一糸まとわぬサスケの姿を想像してしまいイケナイ感情を抱いてしまう。


「終わったでヤンス! もふもふするでヤンス!」

「ああうん」


 そしてサスケはオオカミの姿に変身、タッタと俺の下に駆け寄った。


 だがその姿はやはりどこからどう見ても黒っぽい柴犬であり、かつて神として信仰されたオオカミとは似ても似つかず勇猛果敢さも偉大さも微塵も感じられなかった。


「ていてい」

「やーん」


 ただ愛らしい事には違いない。俺は目の前にいる愛玩動物を撫でまわし、もちの様に柔らかいほっぺをぐにんぐにんと動かした。


「で、なんでいきなりこんな提案をしたんだ?」


 しかしやはり俺はどうしてこんな唐突な提案をしたのかが気になり質問してしまう。


 彼は犬扱いされた事をさっきは怒っていたのに、真逆の事を促したのでそれがどうしても理解出来なかったからだ。


「いえ、モリンさんみたいにもふもふしてアニキを励ませたらなと……でもやっぱりなんか違ったでヤンスね」


 そしてしっぽをシュンとさせたサスケが教えてくれた答えは、そんなとてつもなくいじらしいものだった。


 俺はそのアニキを思う舎弟の気持ちに胸がいっぱいになり、もふもふする手をさらに激しくしてしまう。


「あの、アニキ、ちょっと激しいでヤンス……!」

「誘ってきたのはお前だろうが。こうなりゃとことんもふってやる!」

「ひゃ、ああ~! こんなつもりじゃ~! アッーーー!」


 サスケは羞恥で嬌声を上げるも俺は一切気にしなかった。ただひたすらに彼の身体を貪るようにもふもふし、俺は狂ったように余すところなく犬吸いをしたんだ。


「うわあ……」

「うわあ……」

「うわあ……」

『うわあ……』


 もちろんその完璧にアウトな絵面に他のメンツはドン引きしていたけども。


 これは愛玩動物を愛でているだけで決してそういうのではない。だからお願い、そんな目で見ないで。

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