1-59 禍々しい影と大地より呼び起こされる怪物
仕方ない、追っ手でも探してみるか。俺は同様にマップを開き索敵をしていたが、その際上空を飛び回る飛竜を発見してしまう。
カムナも乗っていたがあれはワイバーンと呼ばれる魔物だろうか。飛竜の上には武装した兵士が乗って地面を隈なく眺めているが、きっと偵察機よろしく逃走中の俺を探しているに違いない。こっちはすぐ近くにいるし、見つかるリスクはかなり高い。
索敵範囲を広げると竜騎士はその一人だけではなく砂漠の至る所にいた。別の場所では急降下の後牛車を止めて職務質問の様な事をしており、数に物を言わせてローラー作戦で虱潰しに探し回っているらしい。
身を隠せる山岳地帯ならまだしもこのあたりは何もなくとても見晴らしが良い砂漠だ。
戦車等が砂漠地帯を移動する際は地形に合わせて塗装を黄土色っぽいものに変えカモフラージュをするが、この緑色の牛車はもちろんそんな事を想定しておらず、むしろ緊急時に発見されやすい様に目立つ塗装だったので、訓練を受けた人間なら即座に発見されてしまうだろう。
『気付いたね。このままでは発見されるのは時間の問題だ。ピンチを打開出来る方法はいくらかあるけどどれがお好みだい?』
「血が流れない奴で頼む。俺達にも民間人にも敵にもだ」
まれっちもまた当然連中の存在を把握しており、俺はいつでもM9を使えるように準備をしておいた。強そうなうえに結構数も多いし、最悪空を飛んでいる敵を眠らせて墜落させる事も考えたほうがよさそうだな。
『うぃ。何がいいかなー。お?』
「ん」
参謀役の彼女に作戦を委ね、引き続き警戒しながら敵の様子を伺うと奇妙なものを発見する。
砂漠にポツンと存在する天に向かって斜めに突き出したその岩は、獣の王が力を誇示するには適しているが頂上に乗ると折れてしまいそうだった。
その不安定で危うい王座のある場所に揺らぎが生じ、そこから黒い靄の様な何かが出現する。
それは人の様にも、鬼の様にも、鹿の様にも見えた。まれっちも何も言わなくなったのでその何かを認識をしている様だ。
得体の知れない影は大地に向かって手を伸ばす。何をしているのかはわからなかったが、俺はその行為に言いようのない不安を感じてしまった。
「って竜騎士が」
またそれと同じくらいのタイミングで先ほどの竜騎士もこちらの存在に気付いてしまい、他の仲間と共に上空から接近してきたので、俺はついそちらの方に気を取られ影から意識をそらしてしまった。
『ふーむ。さっきの交通事故のアクシデントもあいつの仕業か』
「まれっち?」
『気にしなくていい。竜騎士はあいつが勝手に倒してくれるから逃げる事を優先しな。ホレ、ぼさっとしてないでとっとと銃を取り出すんだ。死ぬよ』
「あ、ああ!」
「ポン?」
まれっちにはあの影の正体に心当たりがあったらしいが何も教えてくれず、一方的に戦う準備をする様に告げる。このやり取りは他のメンツには聞こえていなかったので、突然俺が大きな声を出して銃を構えたためモリンさんは驚いてしまった。
「アニキ、どうしたでヤンス?」
「な、何だ? 何かヤバい事でも――」
不穏な空気を察したリアンが俺に尋ねると地響きがして牛車は大きく揺れてしまう。悪魔の唸り声の様な重低音は全身を震わせ、生物の本能に刻み込まれた恐怖を否が応でも呼び起こしてしまった。
「わー、あばれないでー!」
「ぶもっ!」
「ぶもー!」
もちろんそれは人間だけではなく牛車を動かしている牛もだった。得体の知れない何かに牛たちはひどく怯えて砂の大地を蹴り、少しでも早くその場から逃げ出そうと乗客や荷物の事も考えずに全速力で走りだした。
「ふぎゃポっ!?」
「モリンさん!」
激しい揺れで荷車は上下に跳ね、身体の小さなモリンさんは空中に投げ出され後方から落下しそうになるも、サスケはすかさず身を乗りしてキャッチする。
粗すぎる運転にクレームの一つでも入れたいが、今は乗り心地を気にしている場合ではないだろう。




