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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-58 牛車でガッタンゴットン砂漠旅

 一通り買い物を済ませた後、俺達は牛車に乗って佐賀に相当する場所へと向かっていた。


 運転手のマタンゴさんは上手に手綱を操り、禍々しい角とぽけーっとした顔がミスマッチな牛さんはせっせとソリの荷車を引いて砂地を走り砂漠地帯を進んでいく。


 あらゆる生命を拒絶する砂の大地に二本の鉄の板によって軌跡が刻まれるが、灼熱の風は砂を巻き上げながら牛車が通った跡を消していく。


 明日、いや数時間後には人がいた痕跡の何もかもが消えてしまうのだろう。


「楽ちん楽ちーん」

「久しぶりに牛車に乗ったでヤンス。やっぱ文明の利器は良いでヤンスね!」

「だな。ちょっと遅くて滅茶苦茶揺れるけど」


 リアンとサスケは身体を小刻みに揺らし全身でささやかな幸せを謳歌した。料金は決して高くはなかったが、慢性的に金欠な二人からすれば気軽に利用出来ない乗り物だったに違いない。


 前方には別の牛車が数台走っており、俺達が向かう先――イナエカロに様々な物資を輸送する様だ。


 この牛車は人を乗せるためではなく荷物を運ぶついでに人も運ぶ、という感じだったので乗り心地の悪さは致し方ないか。


 俺達が乗る幌付きの荷車は前後がなく、大きく揺れてしまえばそのまま後方から落下してしまいそうだ。俺は軍用トラックの荷台に乗った事もあるので平気だが、この解放感に慣れていない人はかなり怖いだろう。


 あちらの牛車にも乗客が乗っているがトータルで人数は十人程度だ。この世界では気軽に旅行は出来ないし、田舎である佐賀に行く人間はそんなにいないのかもしれない。現実世界でも特に何もない佐賀は長崎に行くための通り道って感じだったし。


「このくらいの乗り心地は普通ですポン。でも世の中にはもっと速くて楽な移動手段がありますポン。お金はかかりますけど」

「俺が学校で車に乗る時は大体舗装されていない悪路を進むから慣れていますけど、普通の人はすぐに酔いそうですね」

「うっぷ、料金はそのままでいいからアタシだけ牛車から降りて空飛んでいいか?」

「わたた、袋いりますポ?」


 どうやら家柄だけは良いお嬢様なザキラにとってもまた縁遠い乗り物だったらしく、モリンさんはいそいそとエチケット袋を取り出しリバースしそうな彼女の背中をさすった。


「モリンさん、なんだかお母さんみたいでヤンス」

「お母さんですポ。子育てをしていればこういう事には慣れっこですポン。よしよし、無理しないで気持ち悪かったら吐いてもいいですポン」

「あざっす、楽になりました……」


 輩は母親の愛情で大人しくなり、その溢れんばかりの母性についさっき釘バットで殴ろうとしていたザキラはすっかり飼いならされてしまった。あの暴力女を従順にさせるなんてバブミ恐るべし。


「そわそわ。そわそわ」

「トイレに行きたいのか、サスケ」

「違うでヤンス! でもなんだか羨ましいっていうか、そのぉ……なんでもないでヤンス」


 反抗的なヤンキーですらこうなってしまうのだから、元々人懐っこいわんこのサスケはなおの事だった。彼はせわしなくしっぽを振って甘えたそうにしていたが、流石に世間体を気にして自重したようだ。


「ふふ、いいですポ。なでなで」

「わふーん」


 しかしモリンさんはもちろんそんな彼にも分け隔てなく愛情を注ぐ。彼女に撫でられたサスケはとろけそうな顔になり、ゆっくりとしっぽを振ってその至福のひと時を堪能していた。


 サスケがどういった経緯で盗人家業をする様になったのかはわからないが、本来は甘えたい盛りの年頃だろう。


 悪意がなく純粋な彼は本来そちら側の住人ではないはずだが、犯罪者なんてまともに育ってきた奴のほうが少ないし、盗人にならざるを得なかった何かしらのやむにやまれぬ事情があった事は容易に想像がつく。


「えへへ」


 まったく、こんなにふにゃふにゃと幸せそうに微笑んで愛おしいにも程がある。俺も兄貴分として時々サスケの面倒を見てあげたほうがいいかな。


「しかし暇だなー。なんかこうハラハラドキドキなチェイスバトルとか始まらないのかね」

「縁起でもない事言うなよ。大体どう考えても安全運転な牛車じゃスピード感が足りないだろ」


 リアンはひどく退屈そうにあくびをしてフラグになりそうな発言をしてしまったので、俺はすかさずそのフラグをへし折ろうと反対意見を述べた。


「そうですポ。このあたりにはサンドワームっていうとっても強い魔物がいますから、ちょっとシャレにならないですポン」

「……モリンさん、その発言のほうがシャレにならないですって」


 だが死亡フラグは全く別の人物から告げられた。俺は恨めしそうに彼女を睨みつけると、空気を読んだモリンさんはわたわたと弁明する。


「ま、まあ、サンドワームに襲われる事故は年に十件くらいですから」

「一般的にはまあまあな確率だと思いますよ。やれやれ……」

『智樹ちゃんは心配性だねぇ。そんなに心配ならマップ機能を使えばいいよ。どこにいるのかわかるから』

「うぃ」


 まれっちはそう助言し、すかさずマップ機能を展開すると広大な砂漠でもぞもぞと動く巨大な物体を発見した。


 その巨大なミミズの様な怪物は砂漠をうろついていたイノシシっぽい生き物をパクンと丸飲みにし、再びもぞもぞと動いて砂の中に潜っていった。


 大きさは大体二頭のシロナガスクジラを前後に並べたくらいか。サイズ的にゾウだろうが余裕で丸飲みに出来るだろう。デカすぎるにも程があるあんな化け物に牛車が襲われたらひとたまりもない。


 ただ幸いにして周囲にいた個体はそれ一匹だけで、そいつも今しがた腹を満たして満足したのか砂の中でぐっすりと眠っていた。どうやらモリンさんの言うとおりそこまで数は多くないらしい。


『サンドワームがいるのは砂漠地帯だけだ。あれもあれで強敵には違いないが、それよりも追っ手に気を付けたほうがいいよ』

「むう」


 能天気なまれっちはあまり気にしておらず、そのあまりの危機感のなさがどうにも歯痒かった。俺が心配性なだけかもしれないが、最悪の事態を想定して行動するのは戦場の基本なのに。


 けど正直牛車の中で出来る事はそんなにない。俺はひたすらそんな事が起こらない様に祈りながら激しく揺れる牛車の中で縮こまっていたんだ。

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