1-56 アシュラッド先王の崩御に関するきな臭い噂
マレビトや転生者は保護されているわけではなく、支配者によって密かに排除されているという真実を伝えている最中、俺は正直気が気でなかった。
モリンさんは果たしてこの真実を受け入れるのだろうか。もしくは知った上で報奨金目当てに密告するのではないか。
圧倒的な権力者に歯向かう人間はどこの世界でもそうそういない。ましてや命が軽んじられるこのような世界ならなおの事だろう。特に護るべき家族がいるモリンさんはそちらもネックになるはずだ。
「申し訳ッございッませんッでしたッポンッッ!!」
しかし全てを知ったモリンさんは流れる様に土下座をして誠意百パーセントの謝罪をする。
ああ、これが大人の全身全霊の土下座なのか。きっと今まで何度も家族を護る為に土下座をしてきたのだろう。なんだか切なくて涙が出てくるよ。
「いやいや頭を上げてください!? 輩もいるので確実に誤解されますし!」
「どういう意味だコラ」
「ぐべぇ、と、どにがぐっ大丈夫なんで」
俺はザキラに締め上げられつつも必死で彼女に頭を上げさせるため説得する。
ここは路地裏で釘バットを持った暴力シスターがいて、目の前には土下座をする大人がいる。普通に考えれば確実におまわりさんを呼ばれるレベルのアウトな光景だ。
「まさかそんなひどい扱いをされていただなんて……確かにアシュラッドも先代の王様が亡くなってからきな臭くなりましたけど」
「亡くなった?」
「はい。元々少し前までアシュラッドには別の王様が在位していたのですが、崩御されてパルミラ女王が王位を継承したんですポ。女王陛下は経験に乏しく、実際はクライ大臣や元老院の方々が政を行っているそうですが」
「はあ。暗殺してポンコツを傀儡にして国を乗っ取ったとかそういうアレですか」
「……そういう噂もありますポ」
モリンさんは言いにくそうにアシュラッドにまつわる裏事情を伝えた。
断定は出来ないがあのクライとかいう男はどう考えても黒幕っぽかったし、多分そうなんだろうな。
「彼女のフォローをすると実際昔はちゃんと保護をしていたらしい。こんな扱いになったのは割と最近の事なんだ」
「別に責めてはいないけどさ」
どちらかと言えば支配者側のザキラはバツが悪そうにそう伝える。
どうしてそんな事になったのかは情報が少ないので何もわからないが、どのような歴史があろうと少なくとも何も知らないモリンさんを責め立てる理由にはならないだろう。
「でもそういう事なら急いでここを離れたほうがいいですポン。大っぴらにはされていませんがアシュラッドはいろんな所に兵士を派遣させました。最初は何のためにそうしていたのかわかりませんでしたが、あれはきっとトモキさんを探すためだと思いますポ」
「でしょうね。やっぱりすぐにでも街を出たほうがいいですよね。どこからしっぽを掴まれるかわかりませんし」
彼女から現在の状況を聞き改めて今後の行動を確認し、俺は金に目がくらんでしっぽを振りまくった盗賊コンビに批難の眼差しを向ける。
「ヤンス……」
「~~~~~」
なおサスケは悪戯がバレたわんこの様に落ち込んでいたが、おそらく先に盗品を売りさばく事を提案したリアンは変顔で目をそらしながら口笛を吹いていた。テメェはちったあ反省しろよ。
「もちろんそうしたほうがいいとは思いますが、そのどこからどう見てもマレビト様っぽい服装は逃げるのにかなり目立ちますポン。市場には服を売っているお店もあるのでそこでこの世界の服を買ったほうがいいですポ」
「確かにそうですね……ええ、そうします」
モリンさんの指摘に俺はその時ようやく自分の服装が一般的なものではない事に思い至った。
言われてみればリアンも俺を見てすぐにマレビトだと気付いてハニトラを仕掛けたわけだし、この軍服みたいな学生服は見る人が見ればすぐにマレビトだとわかってしまう格好なのだろう。
そうと決まればすぐにでも着替えないと。授業でも変装して市街地に紛れ込むハウツーは習ったけどこっちの世界で応用出来るかな。




