1-55 モリンさんとの再会
焼き鳥を堪能した後俺達はザキラと合流して市場をうろつき、猫弾Cボムの素材だけではなく食糧や水等を補給していた。
幸いにして金はいくらでもあるし、無尽蔵の容量を持つアイテムボックスに収納出来るので好きなだけ買うとしよう。
「かんづめどう? かっていかない?」
その店ではキノコ、ではなくマタンゴさんが缶詰を中心に保存が利く食糧を売っていた。やはり移動するのにも一苦労な世界観的にこういう保存食は需要があるのだろう。
いくら財布がパンパンでも金を食べる事は出来ないし、一応あれも買っておくか。
「うっしっしー、金が使いきれなくて困るぜー」
「なあ、それいるか?」
「ほら、こういうのって見たらやっぱり欲しくなるじゃん。でも滅茶苦茶荷物になるからアイテムボックスに入れてくれ」
「へいへい」
リアンはご機嫌な様子で買い物を楽しんでいたが、彼女は旅には明らかに不要な南米のチャランゴっぽい弦楽器を購入していた。
民芸品店でこの類のものを見かけた際価格設定も含めて誰が買うんだって常々思っていたが、やはり想像通り彼女の様に無計画な奴のために置かれている様だ。
「確かに今はヨカバイのおかげで金銭的に余裕がある。だが無限に使えるってわけじゃない。クラフトセットを上手く使えば小遣い稼ぎは出来そうだが、適当な所で宝物庫の宝を売って金に換えたほうがいいだろう。倫理的にもアウトだし、ちゃんとした所に売らないと足がついて連中に居場所がバレそうだからあまり使いたくない手段だけどな。裏ルートで換金出来る様になったら俺の金じゃなくてそっちを使ってくれ」
俺達はまだ安心出来る立場ではないので忘れずに忠告しておく。宝物庫のお宝なんて普通は市場に出回らないし、少なくともアシュラッドの縄張りで取引すべきではないだろう。
「げ」
「げ」
「げ?」
しかしそう伝えた後リアンとサスケは歪な声を出して固まってしまった。妖怪のアニメのオープニング曲が流れそうだが何故だろう、嫌な予感しかしない。
「何でもないでヤンス! アニキは何も心配しなくていいでヤンス、ええはい!」
「俺まだ何も言ってないけど」
「買い物が終わったらとっととずらかるか」
「だな」
サスケは必死に誤魔化したが、俺とザキラは頭を抱えてしまう。
大方その事に思い至らず手持ちの盗品を既にどこかで売ってしまい、先ほどの焼き鳥もその金で食っていたのだろう。
元々長居するつもりはなかったが早めにこの街を出たほうがいいだろうな。
「トモキさん?」
「うげ」
だがそう思った矢先に俺は見知った顔と出会ってしまう。その癒されるもふもふはまごう事なきマミル族のモリンさんだった。
「やっぱりトモキさんですポン! 先ほどは助けていただきありがとうございましたポン!」
「ああ、はい、どうも……」
彼女は交通事故の際に回復弾を撃って助けた事をジェスチャーを交えつつ感謝したが、正直俺は顔見知りと会ってしまい気が気でなかった。もしも彼女が王国兵に俺がここにいると伝えればかなり厄介な事態になってしまうからだ。
「すまない、アタシの釘バットでしばらく記憶を失ってくれ」
「ひゃー!? お姉さんなにするですポン!? 助けてくださーい!?」
ザキラは覚悟を決めて釘バットを装備、この可愛らしいタヌキに暴力を振るおうとした。一応異世界なんだからもうちょっとファンタジーな武器を使えよ。
「動物虐待は止めてくれ。こんな可愛らしい生命体をいたぶるとかお前には血も涙もないのか」
「ぐすん」
「ザキラさん……」
「うぐっ」
見かねた俺はモリンさんをひょい、と両手で持ち上げ輩から救出する。
彼女も流石に良心の呵責があったのか、タヌキと犬ショタのつぶらな瞳でどうにか思いとどまってくれた。
「一応事情程は伝えておいた方がいいんじゃねぇか。殴るかどうかはそれから決めて」
「だな。ちょっと来てくれますか?」
「ポン?」
リアンはやや躊躇いがちにそう提案する。マレビトや転生者にまつわる真実を伝える事は酷かもしれなかったが、俺としてはモリンさんを敵として処理するほうがしんどかったからな。




