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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-54 クロメ名物の焼き鳥(大半は鶏肉以外だけど)

 しばらく休憩して薬も効き始め、俺はようやく本格的に市場の散策を始めた。


 やはり何よりも一番インパクトがあるのはこの猛烈な焼き鳥のニオイだろう。食欲はまだ完全には戻っていないが、腹もすいて来たし生命維持のためそろそろカロリーを補給しておきたい。


 こちらの世界でもこの地域では焼き鳥は名物らしく、目につく範囲でも五軒ほど焼き鳥を扱う店や屋台が発見出来る。


 俺はグルメではないのでこの際どこでも構わないが、やはりリアンとサスケがいるあの屋台で食べるとするか。


「肉美味ぇ~、でもタレとかねぇのかな」

「クロメの焼き鳥は基本塩だ」

「よう、もう生き返ったのか」


 屋台の中央の座席に座っていたリアンは焼き鳥の盛り合わせを食べながらわがままにも文句を言ったので、俺は九州民としてその意見を訂正するため隣にどっこいせ、と座った。


「塩のほうが素材本来の味が楽しめて美味いんだぞ。ももと皮とセンポコ二本ずつ」

「はいよー」


 屋台のダークエルフっぽい大将にそう注文した後、俺はスッと出された酢ダレのキャベツをかじりながらこの辺の焼き鳥についての解説を続けた。


「九州で肉と言えば牛でもブタでもない、鶏肉だ。クロメは焼き鳥の店舗数で日本一になった事もあったし、つまり焼き鳥は九州の鶏肉文化を代表する料理なんだよ」

「はあ。鶏肉じゃないのも結構混ざってるけど」

「いいところに気が付いたな。ここの焼き鳥の特徴は種類が多い事なんだ。他じゃ食べられない珍しい部位も置いてるし、一回の食事で全部のメニューをコンプリートするのはまず無理だな。だから一度食べに行ったくらいじゃクロメの焼き鳥は到底楽しみ尽くせないんだよ。胃が持たれたらこの酢ダレのキャベツをかじればいい。とにかく食って食って食いまくれ」

「お、おう。お前の鶏肉とクロメ焼き鳥への愛はわかったよ」

「オイラは塩味のほうが好みでヤンスねー、もぐもぐパリパリ」


 俺の熱量にリアンは若干引いていたが、サスケはアドバイス通り合間に酢ダレキャベツをかじって口の中をサッパリさせながら味わった。やっぱり犬だし肉は好きなのかな。


「つっても俺の出身は九州じゃないんだけどな。安いから鶏肉はよく買ってたけど」

「ああそう。まあ美味けりゃ何でもいいって事だな」

「そういうこった」


 適当な会話から彼女は全ての料理の神髄を導き出した後ししゃもにかぶりついた。豚肉に牛肉、魚介類や野菜などなど、種類が増えすぎたせいでメニューの大半は鶏肉以外のものだが、これがクロメ焼き鳥だから細かい事は気にしなくていいのさ。


 それにしても焼き鳥のニオイはどうしてこんなにも腹が減るのだろう。炭火で焼かれた網の上に乗せられた焼き鳥からは輝く脂がしたたり落ち、炭にかかってジュウ、と鶏肉のニオイが煙と共に目の前に広がっていく。


 もうこのニオイだけで飯が食える程ジューシーである。焼き鳥は老若男女問わず誰にでも愛される食べ物だと福岡を愛する岡崎さんも漫才で言っていたし、このニオイを嗅いで焼き鳥が食べたくならない奴なんていないって。


「兄ちゃん待ちきれないって顔してるな。クロメの焼き鳥への愛に免じて一本サービスしてやろう」

「あ、いいんですか? ありがとうございます」


 先ほどの会話を聞いていた寡黙な大将さんは機嫌がよくなりぼんじりをサービスしてくれた。程よく焦げ目もついて一番旨そうなタイミングくれるなんて実に有難い。


「最近はあまりやらなくなったが、ナジム族には大事なお客さんが来たら愛情をこめて育てた鶏を潰してもてなす風習があったんだ。鶏肉文化はナジム族の歴史を作ってきた。つまりソウルフードって奴だな。もしあの辺に行く機会があればとり天も食ってみな、美味いぞ」

「ええ、そうさせていただきます」


 大将さんは陽気な笑顔を作り地元のアピールをしたが、とり天って事はやっぱり彼の出身はあの場所なのかな。残念ながら今のところそちらへ行く予定はないが、話を聞いていたらなんだか無性にとり天が食べたくなった。


 ところで今二人は俺の財布を持っていないはずだがお金はどちらが……いや、二人とも自分の財布くらい持っているだろう。気にするほどの事でもないか。


『じぃぃいい』

「ん」

『智樹ちゃん。これは何の嫌がらせなんだい? 焼き鳥って酒飲みにとってはエクスカリバー的な最強装備なんだよ。そこわかってる?』


 キャベツをかじりながら焼き鳥が焼き上がるのを心待ちにしているとまれっちからクレームが飛んでくる。


 彼女はここにいないはずなのに、感覚的には何だか背後霊がのしかかっている感じだ。


「お土産に持って行ってもいいけど冷めるぞ? それでもいいなら買うけど」


 ここには店主もいるので俺は変に思われない様に小声で相談する。


 口調的にはこのまま刃傷沙汰が起きそうなほどどす黒かったが、ここから長崎に熱々の状態で焼き鳥を持っていくのは現代の技術でも難しい。


 冷めた焼き鳥が好きっていう人もいるけど俺は正直食べたくない。


『アイテムボックスを使えば熱々の状態で運べるよ。ホレ、はよはよ。皮と山芋とせせり、ししとうとダルムも頼む。あ、いや手羽先と豚バラ串も! いやいややっぱりここはシンプルにかしわ、うずらも……』

「食い終わる前に決めてくれ」

『りょーかい!』


 注文をした際まれっちは声が上ずっており今までで一番テンションが上がっていた。


 あんないい加減な超越者っぽい人でなしですら魅了するなんて、やっぱりクロメ焼き鳥は最強のソウルフードなんだな。

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