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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-51 オーバーテクノロジーな今は無き1000系

 残酷なものを出来るだけ視界に入れない様に足早に移動し、駅のホームに向かうとようやく平和的なものを発見する。


「ありゃ、こりゃまた懐かしいものが」


 それは俺達の世界では身近な、けれどこの世界ではかなり貴重になった電車と呼ばれるアーティファクトだった。


「これ、何でヤンス?」

「1000系っていう九州初の地下鉄車両だよ。俺達の時代では現役を引退したけど、まさか異世界で見かけるとはね。電車が好きな人がこれを見たらたまらないだろうな」

「ほへー」


 セミステンレスに青と白のストライプという、シンプルながら味のあるデザインが特徴的なそのワンマン車両は九州に地下鉄が初めて誕生した時に活躍した1000系だ。


 地上には路面電車があったが木造だったし、レトロ車両でもこの世界の人からすれば最先端かつオーバーテクノロジーな代物だろう。


 サスケはこういうのに興味があるのか、恐怖で丸まっていたしっぽも左右にふりふりと動き興味深そうに眺めていた。うんうん、表情も明るくなったし良かったよ。


『辿り着いたね。電車の乗り方くらいわかる……と言いたいけど特別サービスだ、無料で乗れるからとっとと座りな』

「うぃ」


 へとへとだったのでその指示に全く異論はなく、俺はドシンと座席に座って一休みした。他のメンツもやや戸惑っていたが同じ様に座り、全員が着席したと同時にドアが閉まりゆっくりと電車が動き出した。


「おお、動いたでヤンス! トンネルの中を走ってるでヤンス!」

「そりゃ電車なんだから動くだろ。ふひー」


 発車の衝撃でサスケは一瞬身体を揺らすも、初めての地下鉄に興奮し即座に電車マニアの定位置である運転席の後ろに移動した。


 ちなみに運転席にはもちろん誰も乗っておらず自動運転だ。人工知能が発達した昨今ではむしろ人が運転している方が珍しいが、あえてレトロな1000系に搭載するなんてなかなか小憎らしい事をしやがる。


 でも色々操作するのを見るのが好きって人もいるし、電車マニアからは賛否が分かれそうだ。


「こりゃ楽ちんだわー。お前疲れてる?」

「そりゃな、一応俺は病人だから」

「病人とは思えないくらいはっちゃけてた気もするがな。アタシも羽根を休めさせるか」


 しばらくは待ちの時間が続くはずだ。緊張の糸が切れた俺はすっかり緩み切ってしまい、全身を弛緩させ死体の様にだらんとさせた。


「俺は無理矢理生かされた状態だから薬の効果が切れてくると見た目通りひ弱な生命体に戻っちまうんだよ。何かあってもしばらくはまともに戦えないからそのつもりでいてくれ」

「ふーん、大変だなあ。でも宝物庫で手に入れたよな」

「代替品だけどな」


 右隣に座ったリアンはあまり深刻にとらえていなかったが、俺は再びメニュー画面で入手した薬を確認する。


 水がない以上まだ飲めないが、飲んだ所で代替品にしかならないのだろう。


「俺が飲んでいる薬の効果は正直俺にもよくわからないんだよ。中には副作用で精神が崩壊したり人格が変わったりする奴もいる。陰謀論者は実はヤバい薬なんじゃないかって言ってるが、少なくとも俺にとってはかなり相性がいい薬だな。ある種のドーピングな気もするけど」


 陰謀論者の主張は荒唐無稽かつ根拠に乏しいもので信用するに値する様なものではないが、もしかしたら俺が特待生になれたのは努力の結果ではなく薬によるものではないのか……しんどい時は時々そんな事を思ったりする。


「ちゃんと効いてるなら別にいいじゃねぇか? 薬って身体を元気にするためだろ。それを飲んでヒーローみたいにパワーアップ! って感じで」

「ハハッ、パワーアップねえ」


 そんなネガティブな事を口にする事なんて出来なかったが、俺はリアンの幼稚なたとえに思わず苦笑してしまった。


「だけど別に難しく考える必要なんてないのかもな。俺はヒーローじゃないけどさ」


 別に薬を使う事は卑怯ではないし病人なら当たり前の事だ。一生こんな生活を送るとしても、それで上手くいっているのならあまり気にする必要はないのかもしれない。


「到着まではまだまだ時間があるんだよな? ちょっと眠るわ。着いたら起こしてくれ」

「え? ああ」


 リアンは軽く背伸びをして猫の様にあくびをし、すっかりリラックスモードに突入して緩み切って座席の背もたれにもたれかかった。


 さっきまで命のやり取りをしてたのに随分と強心臓だ。ただ休める時に休むのは戦場の常だし、俺も今のうちに眠っておこうかな。


「むにゃー」

「ん」


 だけど目をつぶった時右肩にコテン、とほのかな温もりを感じ、振り向くとそこには幸せそうなリアンの寝顔があった。


 の○太君じゃあるまいし寝るの早くね? これもファンタジー世界の住人だからこそなせる業なのだろうか。


 睡眠障害持ちの俺からすれば羨ましいスキルだ。まあいい、俺も寝よ寝よ。


「……………」


 だが改めて目を閉じると首筋にかかる柔らかな吐息をはっきりと感じてしまう。


 物理的にも精神的にもくすぐったいその感覚は、性的コンテンツがほぼ存在しないディストピアで育てられたチェリー坊主をときめかせるには十分過ぎた。


「ニヤニヤ」

「その生暖かい笑顔は止めてくれないか」

「いやあ、シスターなんてやってるとこういうピュアな恋愛話に飢えててな。ふーん、そう、へえ~」


 そのラブコメの波動は硬派なザキラですらニヤつかせるものだった。一応彼女も女性なのでそういうものには興味はあるのだろうか。


 でもリアンは中身はともかく見た目は愛理だしなあ。清純派な彼女はまずこういう事はしなかったが、この感情はどちらに向けられたものなのだろうか。


 リアンが何かをするたび俺の脳裏には愛理の顔がよぎる。笑った顔も、怒った顔も、悲しい顔も、俺は心のどこかで彼女が愛理であると認識していたんだ。


 もしも俺とリアンがそういう関係になったとして、その時俺が見ている人間はリアンではないのだろう。


 それはとても罪深く最低な事に違いない。仮にリアンが愛理の転生した存在だとしても、それはリアンという存在を否定する事に他ならないのだから。


「ふんごー」

「おっと」


 幸いにしてリアンは程よいところででろん、とよだれを垂らしてだらしない顔に変貌していびきをかいてくれたので俺は一気にシラフに戻ってしまう。


「オゴポゴッ」


 うん、これはないな。ヒロインは白眼を剥いた永○裕志みたいな寝顔でこんな未確認生命体みたいないびきをかかない。夢の中で腕固めをしているのかな。


 おかげでややこしい事を考えずに済んだよ。余計な心配をしなくても彼女と恋愛関係になる事は多分ないだろうな。


 とりあえず移動中は暇だし無邪気にしっぽを振るサスケでも見て癒されよう。そういえばこんな感じで電車を見てはしゃぐわんこの動画があったっけ。

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