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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-47 VS 悪役令嬢系シスター ネメシア・モンロー

 だがマップに表示されたマーカーを目指して小走りで埋門を目指していると、ずぶ濡れの天使っぽいシスターがまあまあご立腹な様子でカルラ族の兵士を引き連れ空から出現した。


「見つけましたわッ! 先ほどはよくもッ! この無礼は死によって償ってもらいますわッ!」

「うげ、あいつは」


 俺はしばらくしてから、白い羽を乱暴にバッサバッサとはばたかせる悪役令嬢っぽいシスターがチェイスバトル中にうっかり巻き込んで水浸しにした奴である事を思い出した。どうやら怒りが収まらず追いかけてきたようだ。


「あのシスター……確かネメシアだっけ。そういえばあいつもザキ姉の結婚式に招かれてたんだっけ」

「結婚式?」

「ああ。元々オレは宝物庫じゃなくてそっちが本命だったんだ。結婚式ってなると貴族や金持ちがあちこちから集まるからな。他にも理由はあったんだけどさ」


 そのシスターは名の知れた高貴な人物だったらしく、リアンは何やら闇を感じる説明をしてくれた。きっと盗賊の彼女はそこで犯行を行うために入念に準備をしてきたのだろう。


「っていうかザキラの結婚式って、」

『どっちも気にするな、強行突破だ。牽制程はしてもいいけど移動を優先する様に。もたもたしてると増援が湧いてくるから』

「あ、ああ。さっさと先に進めって!」

「そうだな、そのほうがいいだろう。いちいち相手をしている暇はないし」


 なおさらっとかなり気になるワードが聞こえたが、それについて詳しく知る事は出来なかった。


 現実世界でも聖職者の結婚についてはわざわざ環俗させたりいろいろとややこしかったりするが、この世界のシスターって結婚出来るのだろうか。


 というかそれよりもそれ以前の理由であいつが結婚出来るのだろうか。高貴な身分の人間が参列する結婚式なのでおそらく政略結婚である事は容易に想像出来たが、俺はザキラよりもあんな輩をあてがわれた相手の男性のほうが不憫でならなかった。


「逃がしませんよ! 下賤な魔族の分際で私を侮辱した罪は死をもって償ってもらいます!」


 ただ今重要なのはあの悪役令嬢が明確な敵意を持って襲い掛かって来たという事だ。


 ネメシアは手に持った鞭を振り回して衝撃波を飛ばし、鷹狩りで戯れる貴族の様にカルラ族の兵士をけしかける。


 あの類の人間はかなりしつこいし、こっちに戦う意思がなくても逃がしてはくれないだろう。


「サスケ、適当に風魔法で反撃しておいてくれ!」

「わかったでヤンス! 風魔の刃、ヒューザッ!」

「ぐっ!?」

「痛ッ!」


 サスケは早速折り紙の手裏剣の様な武器に風の魔力をまとわせ兵士を攻撃する。何気にこの世界で初めて見た魔法だったが飛行タイプなのでこうかはばつぐん、という事は無い。


 威力も初級呪文なのか軽く切り傷を与える程度で、致命傷を与えるにはほど遠く牽制以上の威力はなかったが、敵は空を飛んでいるのでこちらから攻撃出来る手段は限られている。


 一応全員飛び道具は持っているものの、長々と戦っていたら増援が来るしあまり無理をしなくてもいいか。


「私の高貴で美しい肌が……ッ!」


 しかし攻撃を食らったネメシアは自らの身体から流れる血を見てわなわなと震えていた。どうやらこの攻撃は彼女にとっては精神的に大ダメージを与える攻撃だったらしい。


「よくもよくもよくもォッ!」

「ヤンスッ!?」


 そしてそれは俺達にとっては決して好ましいものではなく、ヒステリックにブチ切れたネメシアは鞭を振り回しこれでもかと衝撃波を飛ばした。


 衝撃波は威力が低いものの攻撃範囲が広く、サスケは避けきれずに転倒して負傷してしまう。


「ひゃあ!?」

「な、なに!?」


 無論それは周囲にいた無関係の民間人も同様だ。戦う術を持たない彼らは突然始まった戦いに逃げる余裕もなく巻き添えを食らって多数の怪我人が出てしまう。


「ネメシア様!? 民間人を巻き込まないでくださいッ!」

「構いませんわ! もしも死んだらちゃんと補償しますのでご安心を! 魔族の命なんていくらでもお金で買えますわ!!」

「……まじもんのクズやん」


 カルラ族の兵士もネメシアの非道を諫めるがまるで聞く耳を持たず、俺は思わず関西弁でドン引きしてしまう。


 こんな傍若無人な奴が神に仕えるシスターとかトール教会は終わってんな。いや、その仕えている神が他ならぬ人間なのである意味納得だけど。


 一応俺は彼女が信仰しているマレビトだけどその辺はどうなっているのだろう。堕天使的な扱いで悪魔と同列だと認識されているのかな。


「無茶苦茶やりやがるな、クソッ!」


 事情は分からないが少なくともこうして巻き添えも気にせず完全に殺す気で攻撃しているあたり崇拝の感情は一切無いらしい。俺は物陰に隠れながらM9の魅了弾を乱射したが敵は自由に飛び回るのでなかなか命中しなかった。


「ぐっ、魅了魔法だと……!? すみません、下がります! あなたも気を付けて!」

「後は任せてください、先輩! 私はとっくに先輩の魅了魔法にかかってますから!」

「なっ、馬鹿言ってないで仕事しなさい!」


 しかも仮に命中してもカルラ族の兵士は自主的に戦線離脱する程度で正直あまり役に立たなかった。あそこの兵士とか戦場である事を忘れて百合の花を咲かせているし。


「チートかと思いきや俺の無双もここで終了かあ。追い払う分には問題ないけど操るのは難しいかな」

『ああ。さっきも説明したけど物凄く強い兵士や魔物を操って戦わせたり、ましてや催眠で国を乗っ取るなんて事も出来ないよ。姫騎士に催眠をかけて途中から解除してくっ殺させたり、フィアンセの前でお姫様を寝取ったり、神様の振りをして聖女に神の子を身ごもれとかそういう悪逆非道な酒池肉林催眠鬼畜ハーレムなんて事は無理だよ。残念だったねぇ』

「何言ってんだお前。催眠モノのエロゲはそういう品のない感じじゃなくて人間の葛藤をや弱さを描いていたり最後に大切なものを失った事に気が付いてしんみりするのがいいのであって、つまりは確かに大体の催眠モノはエロに特化しているが中にはまあまあ泣ける奴も」

「うるっせぇヘンタイ黙れカス! 戦いに集中しろ!」

「オイラには何言ってるのか全然わからないでヤンス……」


 また催淫銃の説明の流れで催眠エロゲの談義が始まったが、もちろん今はそれどころではないのでリアンからお叱りの言葉が飛んでくる。正直ぐぅの音も出ないし真面目に戦うか。


「スマンスマン、このまま逃げてもいいけど……」

「痛いよお! パパー、ママーッ!」

「た、助けて……!」

「お、おい! なんでこんな事するんだ! 喧嘩なら他所でやれ!」


 それにおふざけモードは周囲の惨状を見てすぐにシラフに戻る。悲鳴や必死に助けを求める事に罵声、何よりも血や土埃のニオイはいつどこで何度嗅いでも精神を蝕み、理性を護る殻を削ぎ落としていく。


「ひぃッ!?」

「ぐっ!」


 リアンはニードルガンで応戦していたが射線上で子供を庇ってうずくまる男性を発見、すぐに攻撃を中断しネメシアの鞭攻撃を直撃して転倒してしまう。


 けれど彼女はすぐに態勢を立て直し、歯を食いしばって痛みに耐えながら傲慢な天使を撃ち落とすために針を乱射した。


『最適解は逃げる事だ。君が今までそうして生き延びてきた様にね。君はずっとそうして来たじゃないか。それとも大嫌いな英雄になってカッコよく死ぬつもりなのかい?』

「……………」


 まれっちの言葉は葛藤する俺の心を揺さぶる。もしもこのまま戦わずに逃げる事を選択すれば脱出は可能だが、その場合さらに被害が拡大して最悪死人が出てしまうだろう。


 王国兵だけならまだしも、地位の低い魔族を命として認識しないあの悪役令嬢は間違いなくそんな事は気にしないはずだ。


 刀ならまだしも性能の低い銃はあまり効果がない。しつこく撃てば倒せるがその頃には増援が駆けつけてくるだろう。


「そうだ。俺は大嫌いな英雄になってカッコよく死ぬつもりはない」


 その結論を出す事にさほど迷いはなかった。俺はずっと狡賢く卑怯に生きてきた。その生き方を異世界に来たからと言って今更変えるつもりはないのだ。


「トモキ」

「アニキ……?」


 俺がその言葉を口にするとリアンとサスケはやや困惑する。泥棒である彼女たちですら民間人を誤射しない様に気を付けていたので、悪人とはいえ高潔な魂を持つ二人にはその答えは到底受け入れられなかっただろう。


「俺は悪知恵を働かせて卑怯者のままで生き続ける。だからどんな手段でも使わせてもらうぜッ!」

「ッ!?」


 啖呵を切った俺は振り向いて銃をフルバーストで乱射、ネメシアはひどく驚き慌てて後退してしまう。


「……はい?」


 しかし俺が弾をばらまいた場所は彼女も含めて敵が誰もない場所だった。一応城かと思うくらいに豪華なホテルはあったが、その場にいる全員がその行為の意味が分からずポカンとしてしまう。


「え? お前何……」

「ヤンス?」


 それはリアンもサスケも同様だった。こういう意表を突いた行動で隙を作るという作戦もあるにはあるが、むしろそっちの意味でも効果はあったかもしれない。


『……あーあ、やっちゃったねぇ』


 唯一まれっちだけは心底呆れた様子だったが、モニターがあればきっと青ざめた顔をしていたに違いない。何故ならば俺はたった今絶対に打ってはならない禁じ手を用いたからだ。

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