1-46 福岡城の遺構
島の周辺はてんやわんやの大騒ぎだったが俺達は無事に城の周囲に上陸、福岡城までもう目と鼻の先といった場所にまで逃げ切る事が出来たんだ。
「タラタラするな!」
「へいへい、急かすなって。こっちは一応病人なんだから」
固定していない揺れるボートから陸地に上がる際俺は少し手間取ってしまい、素早く上陸したリアンから文句を言われてしまった。
ただ俺は平静を装っていたが実の所まあまあバテていた。
冒頭から剣道九州一位&特別国際支援科の特待生として人外っぷりを遺憾なく発揮していたが、俺はそもそも薬でどうにか肉体を維持している死にかけの病人なのだ。
俺はメニュー画面を開き、大量の宝の中に紛れ込んだ薬の項目を見つめ眉間にしわを寄せる。
そろそろ薬の効果が切れる時間なのでいい加減飲まないとまずい。入手はしたものの急いでいたのでまだ飲めていないが今のうちに飲むべきだろうか。希釈するための水が必要らしいが、人工池の水を使うのは何かなあ。
頼れる文明の利器である自動販売機なんて便利なものは周囲にはない。世界観的に探せばどこかにありそうだけど。
『智樹ちゃん、薬を飲むのは後だ。どのみち即効性はない。脱出した後にしておきな』
「そうか」
判断に迷っているとまれっちはそうアドバイスをし、俺は素直に専門家の彼女の指示に従った。
俺が持っている医学の知識は戦闘外傷救護にまつわるものくらいなので、こういうのは本職の奴に任せるとしよう。
「巻き込んで悪かったな、観光楽しんでくれ!」
「ばいばーい」
「バイバーイ? アレ、何でボートに乗ってたんだっケ」
最後に上陸した俺は催淫が解除されたキノコ君とディーパに感謝の言葉を述べる。
彼らの瞳にはハイライトが戻りすっかり正気に戻っており、何が起こったのかよくわかっていなさそうだったが再びアシュラッド観光へと戻った。
「なあまれっち、次からは別の方法を提案してくれ」
『そんなに気にしなくてもいいと思うけどねえ。どうせすぐに解除されるし、そのレベルの魅了なら強い敵にはまず効かないし』
俺はまれっちに苦言を呈したが、彼女はクレームなんてものをまるで気にせず適当に返事をするだけだった。
協力者であるディーパは肩にマタンゴさんを乗せて両手を広げ、城の近くにあったブロンズ像と同じポーズを取り写真撮影をしていた。
二人の力を借りる事が出来れば頼もしいがどちらも完全に無関係な一般人、普通に殺されるリスクもあるのでこれ以上関わらせるべきではないだろう。
今回はまれっちの指示で仕方なく無関係かつ善良な存在を操ってしまったが、同じ事をするにしても出来れば次は敵とかにしておこう。
最初に肉体を乗っ取った王国兵は百歩譲って敵対していたからいいものの、また彼女たちの様に純粋な子を催淫状態にして操るとか俺の精神が持たないし。
幸か不幸か催淫状態はあまり長続きしない様だ。某宮○真守演じるキャラの様に相手を意のままに操って無双は出来そうにないが、むしろ個人的にはそっちの方がいいかな。
確かにまれっちのおかげで窮地を脱した事は事実だ。けれど彼女は優秀かもしれないが躊躇なく無関係な人間を命の危険に晒す判断を下す事が出来る人間らしい。
『ホレ、余計な事は考えずにとっとと埋門に行きな。さっきと同じ様に管理者権限で開けられるから。通った後はすぐに閉めるんだよ』
「ったく、わかったよ」
ちょっとばかし話し合いが必要だな、と思ったがそれも安全を確保した後にすべきだろう。何はともあれまずは隠し通路から脱出しないと。
福岡城跡は前の世界同様ちらほらと観光客が見受けられ、人口が密集した市街地程ではないがそこそこ賑わっている。
でも隠し通路って埋門の事だったのか。埋門はその名の通り埋められた門だが、主に脱出する時に壊して通るか、脱出した後に埋めて通れなくするっていう使い方をするけどこの世界にも残っていたんだな。
ただ通行出来ないのは昔の話、この世界には空を飛べる奴もいるし、口からロケランをぶっ放すひよこもいるのでそんなものは簡単に突破出来る。
流石に昔と同じ様なローテクじゃないとは思うけど、ちゃんと役に立つのだろうか。




