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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-45 管理者権限チート

 回り道をしてしまったがどうにか追っ手を撒く事に成功した所で、のんきに眺めていたであろうまれっちから指示が飛んできた。


『すぐ近くに人工池が見えるだろう。そっちに向かって橋を渡りな』

「人工池の橋? わかった!」

「は!? いやあそこはどう考えても駄目だ! 敵から丸見えな上に一本道で逃げ場もないし!」


 俺は言われるがまま指示に従おうとしたがすぐにリアンから反対意見が出る。どうやら土地勘のある彼女はあの場所が逃走に適さない場所であると判断した様だ。


『だからこそだよ。いいから言うとおりにしな。ちゃんと上手くいくようになってるから』


 土地勘のあるリアンの判断か、優秀だが素性の分からないまれっちの判断か。


 俺は一切の感情を排除し、嗅覚をフル稼働してどちらが生存する選択肢なのか懸命に思考を巡らせる。


「……わかった。リアン、サスケ。ここは俺というかまれっちを信じてくれ」

「顔も知らない奴を信じろって言われてもなあ……だーもう! どうなっても知らないからな!」

「うう、オイラはアニキを信じるでヤンスー!」


 しばらく思案し俺が採用したのはまれっちの判断だった。当然リアンとサスケは納得がいっていなかった様だが、ヤケクソ気味に指示された人工池の橋へと向かった。


 人工池は池というよりも巨大なオアシスで真ん中のあたりに小さな島があり、そこに人が通るための二つの橋がかかっており、一応小さな離れが浮かんでいるがほぼ一本道でリアンが今伝えた通り真っ先にチェイスバトルでは逃げ場所に選ばない逃走ルートだったのだ。


 俺たちは無我夢中で橋を駆けて行ったが、もしも敵が向こうの橋からやって来れば挟み撃ちになり捕まってしまう。俺は次第に不安感のほうが強くなり、自分の判断が本当に正しかったのか迷ってしまった。


『まずはあのちっこい離れみたいな場所に向かうんだ。んで途中の島で半魚人……ディーパ族がいるから適当に催淫弾を撃ってお前さんに惚れさせて、ボートを持ってくるように指示を出すんだ』

「惚れ……惚れ!?」


 半信半疑だった思いは新たに出された指示によってさらに疑惑に傾いてしまう。俺にはどう打開すればいいのかとんとわからなかったが、ここまで自信満々で言うって事はもちろん秘策があるのだろう。


「わーい、ぼくもつれたー」

「ドヤァ」


 橋を渡り中央の島エリアに移動するとそこは市民の憩いの場になっているらしく、今まで何度か見かけた観光客のディーパとキノコ君のコンビも仲良く竿を垂らして釣りを楽しんでいた。


 すぐ近くに釣りは禁止、という日本語で書かれた大昔の看板があったがそこは指摘しないでおくか。きっと今は事情が違うんだろうし。


「すまん、いきなりで悪いが惚れてくれ!」

「シャー!? なにするんデスカー!?」

「わー!」


 巻き込んでしまって悪い気はしたが俺は指示通り観光客のディーパに催淫弾を発射、魅了のバステを付与した。


 催淫スキルなんて正義のヒーローは使うべきものじゃないが、俺はそういう路線ではないのでもちろんオッケーだ。


「ふにゃあ、なんだか胸がきゅうってしてふわふわスルヨー?」

「半魚人、いやそこのディーパ、悪いがボートを持ってきてくれ!」

「わかりマシター!」

「まってよー、どこいくのー? いっしょにつりしようよ、ふえーん!」


 魅了されたディーパは釣竿をぽいっと捨ててボート乗り場に向かい、置いていかれた友達のキノコ君は半泣きになりながらぽてちてと追いかけていった。何だろうこれ、すんげえ罪悪感が……。


『ついでにそこのマタンゴさんも捕獲しておくか。そいつにも銃を撃って協力するよう指示を出すんだ。今通って来た橋に大量のキノコ胞子をまき散らせとかそんな感じで』

「まじか……あ、ああ!」

「ぴゃー!」


 だがまれっちはさらに非情な指示を出し、俺は心苦しかったがマタンゴさんなる生命体にも催淫弾を発射する。


 弾は背後から見事に命中、くるりと振り向いたマタンゴさんは不思議そうな顔をした後、ニコニコしながら俺の下に駆け寄ったんだ。


「えへへー、ぼくといっしょにあそぼー」

「え、えーと……俺は逃げてる最中だがちょっくら協力してくれ。橋の上でキノコ胞子を適当にな。あ、で、でも無理はしなくていいからな!」

「いいよー。ぽふぽふ」


 マタンゴさんは純粋無垢な瞳で島へと続く橋に移動、きゃっきゃとはしゃぎながらキノコ胞子をぽふぽふと噴き出し命令通りに行動した。


「アニキぃ……」

「うわあ。あんな小さな子を催淫の毒牙にかけるとかお前クズだな」

「……返す言葉もない。なんで催淫はセーフで催眠はアウトなんだろうなあ。催淫のほうが犯罪チックなのに」


 これはなかなか便利な能力ではあったが、残念ながら使用にはかなりの代償を伴う様だ。


 リアンとサスケは人として完全にアウトな行為にただただドン引きしており、好感度は一瞬にして無に帰してしまう。


「なあ、俺が今やっている事はどっちかっていえば催眠であって催淫じゃないから今からでも呼び方を変えてくれないか? このままじゃ二次創作で好き放題外道な感じにされそうだから」

『文句なら配慮という無配慮で催眠ダメで催淫オッケーっていうわけのわからない状況を作った倫理委員会に言いな。いいじゃん、二次創作が盛り上がれば原作も盛り上がるから。ある種の必要悪さね。ほれ、とっとと離れに向かいな。はよはよ』

「いや、うん。まあいいや」


 この卑劣極まる戦い方に思う所はあったが今は逃げる事の方が大事だ。俺は深く考える事を止め離れへと向かった。


「急げッ! 誰でもいいから捕まえろォッ! 逃走を許したら俺の立場がないんだッ!」


 オシャレな小さな離れは柱に屋根を付けただけの簡素な造りだったが、実にオシャレでオアシスや砂漠の街とのコントラストは見事というほかなく橋と一緒に写真を撮りたくなってくる。ドタドタと血走った目の兵士がやって来なければもっと良かったんだけど。


「っ!?」

「ってなんだコレ?」

「?」


 離れに到着すると何もしていないのにウィンドウが出現、そこには長ったらしい文章が書かれていたが、『管理者権限』『橋の使用許可の変更』という文言だけは確認出来た。


 これはリアンたちにも見えている様だが日本語なのでわからないらしい。しかしこれがきっとまれっちの言う秘策なのだろう。俺は日本語も読めるし管理者権限も持っているからな。


「ギャー! たくさん来てるでヤンスー!」

「おいおい、本当に大丈夫なんだよな!?」

『ちょうどいいタイミングだね。それじゃあもう見たら大体わかると思うけど、ひたすら承認ボタンを押して橋を降ろすんだ』

「お、おう!」


 恐怖で悲鳴を上げたいのは俺も同じだったが、急いで指示に従い次々と表示される画面に対しひたすら承認ボタンを押した。


 するとまあ何という事でしょう、島へと続く二つしかない橋が音を立てて下がっていったのだ!


「なああ!? ゴホゴホッ!?」

「持ってきマシタヨー!」

「ありがとう!」


 兵士は驚いたせいで大きな口を開けてしまい事前に仕掛けていたキノコ胞子も大量に吸い込んでしまう。


 二つのトラップは時間稼ぎには完璧であり、橋が沈み切った頃には先ほどのディーパが逃走用のスワンボートをビート板の様に押して駆けつけてくれたんだ。


「この橋って動かせたんでヤンスか!?」

「おっほー! こいつは凄いな!」

「ひー! 助けてくれー!」

「今助けてやるから暴れるな! 落ち着けって!」


 作戦によって追っ手を一網打尽にする事に成功し、ずっと不安がっていたリアンは連中が慌てふためく様に実に悪い笑みを浮かべる。


 兵士もまた水面でじたばたともがいて溺れないように必死で、カルラ族やディーパ族の兵士は仲間の救助のせいで俺達を追うどころではなくなってしまった。


「今のうちに行くぞ! ほらキノコ君も!」

「わーい、ほめてほめてー」

「ああ、たっぷり褒めてやるよ!」


 さあ、後はのんびりボートで福岡城に向かうだけだ。


 俺たちは揺れるスワンボートに乗り込み、催淫状態のディーパに押されながら悠々と福岡城に向かったんだ。

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