1-44 アシュラッドでのチェイスバトル
福岡城跡まで間近に迫った所で交通事故に遭遇してしまい、俺達は再度王国兵とのチェイスバトルをする事になってしまった。
「路地に逃げるぞ!」
「わかった!」
「ヤンス!」
『ふむ、まあ定番だね』
俺達はまずリアンの指示で見晴らしのいい大通りから薄暗く狭い路地に逃げる。土地勘がなければ迷いそうだが、見通しが悪く上手くいけば敵を撒く事が出来るのでガイド役のまれっちもその判断に合格サインを出した。
「逃がすなッ! 捕まえた奴にはボーナスがたんまりと出る、気合入れて行けぇッ!」
追いかけてくる王国兵は城で戦った相手とは違い軽装の奴も多く、おまけに追っ手は人間よりもずっと身体能力が高い魔族がほとんどで逃げ切る事は困難が予想される。
「マカミ族が結構いるなあ。カルラ族も空からやって来るだろうし普通に逃げても追いつかれるぞ」
リアンが言ったマカミ族とはおそらくサスケと同じく犬の耳としっぽが生えたのグリードの事だろう。
マカミって確かオオカミを神格化した奴だっけ。軽装とはいえ鎧を着てなおかつ剣や槍を持った状態で陸上選手並みのスピードで走っているし、たとえ訓練を受けたレンジャーであろうと鬼ごっこで勝つ事は絶対に不可能だろうな。
「大丈夫、逃げるのは卑怯者の俺が一番得意な戦い方だ。お前は違うのか?」
「違いない。こちとら毎日逃げまくってる天下の泥棒猫リアン・ミャオ様だ。どっちが先に逃げ切れるか競争しようぜ!」
「オイラも負けないでヤンスよー!」
けれどリアンとサスケの表情からは暗いものは一切感じられなかった。彼女はワイヤー仕掛けの義手を射出してベランダの物干し竿を掴み、その下を通り過ぎると同時に兵士目掛け大量の洗濯物を落下させた!
「な、なんてセクシーなおパンツとおブラだ! ニオイがたまらん!」
「グッドスメェルスウィーツ! アメイジングレェエス!」
マカミ族は犬だけあって嗅覚が発達しているのだろう、周囲の目を一切気にせずたちまち降り注ぐ卑猥な下着の虜になってしまう。けれど、
「あらァ! そんなに私の下着に夢中になっちゃって! 下着だけじゃ満足できないでしょう、上がっていきなさい、グフフ!」
「ギャアア!? この素敵な匂いは加齢臭だったのかあッ!?」
「わーい! じゅっくじょ、じゅっくじょ!」
ベランダから出現したのは垂れた乳がチャーミングなとてもフェロモン溢れるおばあちゃんだったので、歓喜していた彼らは全員ショックで倒れ上手く一網打尽にする事に成功した。一部の特殊な方は何かルンルン気分でそのままお誘いに乗ったけど。
アシュラッドの市街地は障害物となる人や物が多く、狭い路地のせいでまあまあ動きにくいがそれは追っ手にも同じ事が言える。
ここはリアンが今したように周囲のギミックを使いつつ突破しなければ。早速鼻をひくつかせるといくつか使えそうなものを感知出来たので試してみるとしよう。
「ボーナスゥ! ピヨタンレースの負けを取り戻すぜぇッ!」
「借金五千万クリスタのホス狂いを舐めんじゃねぇッ! 私はツケを踏み倒して夜逃げする前にもう一度ちやほやされたいのぉッ!」
「甘いなッ! 親の遺産も子供の出産祝い金も全部ギャンブルに継ぎこんだ俺の借金総額は十億だッ! 挙句の果てには宝物庫のお宝もくすねてこっそり売ったッ! もう俺には失うものはねぇんだよッ!」
追っ手の中には約二名異常な熱気の奴がいたが、走りながらなかなかなクズエピソードを語った。
というか普通に捕まるレベルの犯罪だけど、アシュラッド兵にはこんなゴミしかいないのだろうか。
「ほいオバちゃんっ!」
「毎度あり!」
サスケは冷静に露店で美味しそうな完熟バナナを購入、走りながらすぐに食べ曲がり角の所で皮を放り投げる。
なお支払いは先ほど俺が渡したヨカバイだけど、そこはコンプラ対策できちっとしないとな。
「ふぉちそうさふぁでヤンフ!」
「のおっ!?」
「ぎょぇ!?」
クズコンビはマ○カーならば一瞬で友情を破壊するくらいイヤーな場所に設置されたバナナの皮を見事に踏んづけてくるんと一回転、ちょうど近くにあった大型ゴミ箱の中に仲良くダイブした。ゴミはゴミ箱にちゃんと捨てましょう、ってね。
「出遅れましたね。早くマレビトを捕まえなければ!」
「隊長、あそこにいます!」
しばらくして空からカルラ族の女性兵士達が現れ、偵察ドローンの様に張り付いて攻撃が届かない位置から追跡する。
追っ手の中では一番まともそうな上にかなり厄介なので、すぐに何とかしなければいけないだろう。
銃を使ってもいいけど使えそうなギミックは……お、レトロな水道管発見。そんなものをチェイスバトル中に発見したらやる事は一つだよな。
「ここは俺の出番だな。うらァッ!」
その一撃は御前で行われた兜割りの如く。真っすぐ振り下ろした同田貫は水道管を叩き割り、解放された激流は電撃をまといながら天高く噴き上がった!
「「うぎゃああ!?」」
「ひゃあああ!? なんですの!? あばばばばっ!」
思惑通り水柱はカルラ族の女性兵士たちを直撃、感電してボトボトと地面に落下していく。結構な高さだったから死んでいないか心配だったけど。
でもなんか明らかに無関係な天使っぽいシスターの通行人が巻き添えを食らった様な……うん、気にしないでおくか。
今ので追っ手は大体撒いたかな。さて、もうすぐ福岡城だ。一気に駆け抜けてアシュラッドを脱出しよう!




