3-122 疫病に感染したリアン
拠点として使っているバスに戻るとリアンはぐったりとしており、いつもの様に喧しく悪態をつく事はなかった。
「リアンッ!」
「うぅ……マジで死ぬ……」
リアンに傍らにはバケツが置かれており、戻したものをそこに出していた様だ。しかし彼女も感染しているというのならばあんなものを放置するのはかなりリスクがある。
「アマビコ、」
「この感染症がコレラなら主な感染経路は経口感染です。注意していれば問題ないですが、それでもリスクはゼロパーセントではないので十分に気を付けてください」
「わかった」
俺の不安を見抜いていたアマビコは医学的な見地からアドバイスをしてくれる。結局危険だという事はわかってしまったが、その根拠を示してくれたおかげで不思議と恐ろしくはなかった。
「すまねぇ、一応ダメもとで回復弾を撃ってくれるか……?」
「ちょっと待ってくれ」
効果があるかどうかはわからなかったが、俺はリアンに頼まれたので回復弾を撃つ。しかし彼女の表情はさほど変わらず、病気を治す事は出来なかった。
「無理だ。回復魔法にもいろいろあるけど、トモキの回復弾じゃ傷は治せても病気は治せない。一時しのぎにはなるかもしれないが気休め程度だな」
「やっぱりそうか」
知識のあるザキラは回復系スキルについて教えてくれた。俺にはこの世界の魔法の仕組みが全く分からないが、今回ばかりはチート武器も役に立たないらしい。
「んだよ、役に立たねぇな……おえっ」
「あわわ、姐さん」
青ざめた顔のリアンはようやく悪態をついてくれたけど、すぐに戻して舎弟に気遣われてしまう。彼に出来る事はそんなになかったが、取りあえず少しでも楽になる様に背中をさすった。
「よせ、お前にもうつっちまう。その辺のマタンゴさんと遊んどけ」
「で、でも」
「リアンが優しいなんてこりゃマジで重症だな」
「うるせー……」
瀕死の彼女は俺の冗談で微かに笑う。だけどその笑みは弱々しく、あまり安心出来るものではなかった。
「ぼくのぽふぽふでなんとかなるかな」
「そうですね、試してみましょう」
「頼んだゾ!」
カムナとキーアは不安げなマタベエの発案を受け入れ、彼は早速リアンの顔に近付き頭を揺らして胞子を振りかけた。
「あー、少しは楽になったかも。やっぱ困った時のマタベエだな」
「えへへ」
怪しさしかない治療法だったが、異世界最強のコンパニオンプランツであるマタベエは彼女の苦しみを和らげる事が出来た様だ。パンデミックでも役立つなんてマタベエ半端ないって。
「マタベエには悪いケド、正直応急処置にもなってイナイヨ。アイテムボックスの中で使えそうなものはないのカイ?」
「一応確認はしましたけど使えそうなものはあまりないですね。さっき作った点滴セットの予備はありますけど」
だがこれはあくまでも苦痛を誤魔化しているだけで根本的な解決ではない。困った顔のリンドウさんは俺にそう尋ねたが、芳しくない答えに落胆してしまう。
「トモキさん、そちらの世界にはこの病気を治す薬とかはないんですポ?」
「治療に使う薬はありますが、知識がないので作れません。まれっちがいればまた違っていたのかもしれませんが」
「そうですポ……」
もちろん医学が進んだ現実世界には役立つものはいくらでもある。だけど仮に俺が薬剤師だとしても、道具も素材もない状況で薬を作る事はまず無理だ。
「モリンさんは持って……るわけないですよね、流石に」
「私が今持っているのはお土産も兼ねて仕入れた民芸品くらいですポ。お役に立てず申し訳ないですポ」
念のため行商人が本業のモリンさんに質問したが、もちろんそんな都合よくいくはずもなかった。
彼女は大きなリュックからいろいろ取り出してくれたが、そこに病気の治療に使えそうなものは当然なかった。
「村の民芸品を買ってくれて嬉しいゾ。でもなんかごめんだゾ」
「い、いえいえ、そんな事はないですポ!」
キーアはしょぼんとしながら地域経済の活性化に貢献してくれたモリンさんに感謝の想いを伝えたが、彼女は逆に申し訳なく感じてわちゃわちゃと謝罪してしまう。
「普通は民芸品にそんなものは求めていませんし、謝らなくてもいいと思いますよ。アマビコの飾り物はギリそういうニュアンスがあるそうですが」
彼女が買った民芸品の中にはアマビコの頭の飾り物があった。キーアもブゴッタマーケットで納品したが、残念ながら節分の時に飾るくらいしか使い道はない。
「これでリアンちゃんなおるかなあ」
「クセぇよ……」
マタベエはアマビコの飾り物をリアンの顔面に乗せるが、当然そんなもので治るわけがなく嫌そうな顔をしてしまった。
鰯の頭も信心からと言うし、人によってはプラシーボ効果があるかもしれないけど……。




