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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-121 疫病に立ち向かうアマビコ

 ナジム村でコレラが蔓延し、俺はすぐさま簡易クラフトセットを用いて必要なものを揃えた。


 素材はムゲンパレスで作業をした際の余り物があるので問題ない。もし足りなくなればその辺で調達すればいいだろう。


「アマビコ、まずは何を作ればいい?」

「点滴に用いる道具一式があれば! 作れますよね!?」

「もちろんだ」


 俺もコレラの対症療法はわかっていたが、アマビコの医学の知識は既に俺を凌駕しており、彼は素早く点滴の針を病人に刺して手際よく適切な処置を施していく。


「アマビコ、アタシ達に出来る事はあるカイ?」

「うちも手伝うヨ! 何でも言っテ!」

「危ないからいいです。バスに戻って大人しくしていてください。水は汚染されている可能性があるので飲まない様に」


 リンドウさんとニイノは懸命に未知の感染症と戦う家族と共闘する事を申し出たけど、ここは生死がかかった戦場であり素人がいていい場所ではない。


 かくいう俺も疫病という見えない敵を相手に、内心自分も感染するのではないかと恐ろしくて仕方がなかった。


「母ちゃん達は……ううん、まだ何ともないんだよね」

「ああ、ピンピンしてるヨ。アタシは健康だけが取り柄だからネ。だから手伝わせてくれないカイ?」

「うん、今のところハ」


 だけど普通はすぐに断りそうなものだというのにアマビコは少し悩んでからそう尋ねた。


 頼もしそうな母親に対しニイノのほうは不安がっていたが、彼はしばらく何かを考えこむ。


「あわわ、偉いこっちゃ、ドウスルヨ!」

「そこのディーパ族の方。少し聞きたい事があるんですが」

「え、ワタシ?」


 アマビコはナジム族の友人を看病していたディーパ族の女性に声をかけた。彼女は相当パニックになっており、突然話しかけられた事でさらに混乱してしまう。


「あなたは感染していない様ですが、この村でディーパ族の感染者はいますか」

「ええと、ワタシの知る限りいないワ。というか他の村でも聞いた事がないワネ」

「……なるほど、ありがとうございます」


 ディーパ族の女性は有益な表現を提供してくれた。感染症は基本的に特定の生物しか感染する事はないが、ナジム族と異なり半魚人である彼女達は人間と身体の構造が大きく異なるので、コレラに感染をしなかったのかもしれない。


「それと感染者の特徴はわかりますか? もしくは感染していない人の特徴はわかりますか? どこに住んでいたのか、そういった他の特徴は」

「さ、さあ。でも病気になったのは若いナジム族の人ばかりネ。お年寄りはほとんど平気ヨ」

(お年寄りはほとんど平気……?)


 続けて彼女がした証言は極めて不可思議なものだった。老化で免疫力が衰えたお年寄りはむしろ病気に感染しやすく、逆ならば当然だが一体どういう意味なのだろうか。


「わかりました。多分あなたは感染しないと思いますが、念のため気を付けてください」

「え、ええ。後はお願いネ」


 情報を手に入れたアマビコはひとまずディーパ族には感染のリスクは低いと判断し、軽く注意するにとどめた。


 冷静な専門家を前にディーパの女性は自分が場違いだと思ったのか、すごすごと病院から去っていく。


「トモキさん。あなたは今の話をどう考えますか?」

「感染者には条件があるのかもしれない。コレラは汚染された水が感染源になるけど、井戸は共用だし皆そこかしこで嘔吐していた。つまり感染のリスクは平等にあったのに、一体どういう事なんだ」

「僕にもわかりません。ですが上手くいけばこのパンデミックを打破するヒントがあるかもしれません」


 アマビコは少ないヒントから突破口を見出そうとしていた。けれど答えを導き出すにはまだ何かが足りない。


 いや、もしくはもう既に俺達はその情報を手に入れているのかもしれない。だとしたらそれは一体何なんだ。


「アマビコ、結局アタシ達はどうすればいいのサ。ディーパ族が病気に感染しないのなら多少は自由に動けるんじゃないのカイ?」

「そうだね、どうにかして水を調達出来ないかな。飲み水はどれも汚染されていると思ったほうがいい。安全が確保されるまで井戸を使うのは極力避けたいから」


 様子を見ていたリンドウさんは会話から自分達は大丈夫だと結論付け少し表情が和らぐ。息子もまた困難を打破するために使えるものは何でも使おうと考え、母親に協力する様に頼んだ。


 だけどカジノジイ族長はそれが実質的に不可能だと告げる。


「しかしどうすれば。ナジム村には水道が通っていません。飲み水に使えそうなものは井戸以外には川や池の水くらいです。ですがその理屈だとそれも避けたほうがいいでしょう」

「そうですね……どうすれば」


 ナジム村には日本と違い水道インフラなんてものは存在しない。あるいは早々に発展を受け入れれば違った未来もあったのかもしれない。


 しかしそれは意味のないもしもの話だ。全ての生き物にとって水は生命を維持するために必要不可欠であり、たとえ感染のリスクがあっても飲まないという選択肢はない。


「一応アイテムボックスに水とか水系の魔石はあるけど、足りるかな」

「アタシの高圧洗浄機は……無理かあ、燃費が悪いシ」


 俺はアイテムボックスを確認するが、村全体の飲み水と治療に用いる水を賄うとなると少しばかり心許ない。これでも何とか出来ない事はないけど、何かいい方法はないのだろうか。


 こんな時に希典先生がいれば……まったく、試練を与えるのはいいけどせめて命に関わらないものにして欲しいものだ。


「そうダ! リアンさんとお母さんが作った洗濯機の水を使えばいいんじゃないカナ。排水が飲めるレベルなんだよネ?」

「あ、そっか!」


 だけどニイノはこの状況を打破する妙案を出した。そうだ、あのトンデモ魔改造家電なら大量の水を素早く点滴や飲み水に変えられるはずだ!


「洗濯機の排水を使うのカア。本来の使い方じゃないケド、もちろん問題ないヨ!」

「わかりました、ならあれを使いましょう」


 また開発者のリンドウさんからもオーケーサインを貰い、俺達は浄水器の代わりに洗濯機を用いる事に決める。


 この世界の魔改造家電はどれもこれも変なものばかりだけど、もしも現実世界であの洗濯機があったら災害時の備えに革命を起こすかもしれない。


 一家に一台の感覚で高性能な浄水器が普及すれば、諸々の条件さえ揃えば水で困る事は無くなるからだ。


「決まりですね。ではトモキさんは引き続き道具を揃えてください」

「ああ、わかった。頼むぞ、アマビコ」


 チートキャラの希典先生が不在なのはかなり痛いが、皆で知恵を出し合えばもしかしたらこの困難を乗り越えられるかもしれない。俺は暗闇の中で一筋の光を見出し高揚感に包まれた。


「アニキ、姐さんがっ! 助けてくださいでヤンスっ!」

「っ」


 だけどその希望は半泣きで病院に戻って来たサスケによって打ち砕かれてしまう。無論今の状況を考えればリアンに何が起こったのは容易に想像がついてしまった。

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