3-120 デミウルゴスによって分断されるナジムの人々
多数の病人を前にそのまま何も出来ずにいると、病院に大勢のナジム族の男達が怒鳴り声をあげて現れる。
「カジノジイ族長! どうしてここにいるんだ!」
ただ病人たちを助けに来てくれたのならばまだ良かったが、彼らは皆廃材で作った棍棒や槍で武装していた。
「見ての通り流行病に対処すべく現場で指揮を執っている。確かに出来る事は少ないがそうも言ってられんだろう。君達もやるべき事があるはずだ。自分達の村に戻りなさい」
どうやら彼らは隣村のナジム族らしい。だけど親切心で現れたとかそういうわけではなさそうだ。
「流行病? そんなわけがないだろう! 倒れた奴らは全員キンデルと敵対していた村の人間ばかりだ! お前にもその意味が分からないわけがないだろう!? あいつが村の井戸に毒を撒いたんだ!」
「あいつは甘い言葉で唆して俺達から全てを奪うつもりだ! カジノジイ、これは奴を信じたお前の責任だ!」
元々彼らは対立していたキンデルや、彼に対して友好的なカジノジイ族長に不満を抱いており、極限状態によってキンデルが黒幕だという妄想に憑りつかれてしまった様だ。
「何言ってるんだ! 皆落ち着くんだゾ! キンデルは確かに嫌な奴だけどそんな事はしないゾ!」
「黙れッ! 族長の娘のお前も同罪だからなッ!」
「ひっ!?」
「キーア!」
キーアは必死で民衆を宥めようとするが、頭に血が上ったナジム族は鉈を突きつけ彼女を脅した。それは無礼というレベルではない行為だが、彼らはそんな事も理解出来なくなってしまったらしい。
「なんで……皆おかしいゾ」
腰を抜かして倒れたキーアは仲間だと思っていた人々がその様な振る舞いをした事が信じられず、呆然として何も出来なくなってしまう。
「もうこれ以上は見過ごせない! 俺達は他の部族と共に決起する! カジノジイ、お前も決めるんだ!」
「……私はこの場に残る。止めろと言ってもお前たちは聞かないだろうから好きにしろ」
カジノジイ族長は彼らを止める事はしなかったが、その視線の先はキーアに向けられていた。
きっと彼は娘に危害が加えられない様にするため、それがどんな結果をもたらすのかわかっていながらそう告げる事しか出来なかったのだろう。
「クソ、腰抜けが! お前ら行くぞ!」
「ああ! 目にも見せてやる!」
「狩りの時間だッ! 村を汚した奴らを殺せッ!」
激高した村人達はそれ以上カジノジイ族長に興味を示す事はなく、病院から出てキンデルを打倒するために向かった。
「カジノジイ族長……」
「気にするな、全ては私の力不足によるものだ。それに遅かれ早かれいずれはこうなったはずだ。無力な私の代わりにキンデルが上手く事態を収拾してくれるといいのだが」
カジノジイ族長は反乱を起こした部族を憎悪する事はなく、救えなかった彼らに憐みの感情だけを向けていた。
圧倒的な力を持つキンデルに適うはずがない。彼らはきっと為すすべもなく敗北してしまうはずだ。
「トモキ……」
「大丈夫。キンデルさんなら上手くやってくれるはずだ」
俺は泣きそうなキーアに根拠に乏しい励ましの言葉を贈る。他力本願にはなるが、実際剛腕で知られるキンデルならば最小限の犠牲で事態を収束してくれるかもしれない。
むしろ部外者が民族間の対立に首を突っ込むよりもそちらのほうが好ましいはずだ。この手の問題は無関係な第三者が介入すると往々にして余計に問題がこじれてしまうものだし。
ただ問題はやはりゴルイニシチェだろう。キンデルならまだしも、あいつらはそんな甘い連中じゃない。
悪逆非道の権化である連中と対峙した時、その結末は苦痛のない死か惨たらしい死の二つしかない。
無力な俺にはそうなる前にキンデルが暴徒を制圧するか、もしくはゴルイニシチェがささやかな温情を与えてくれる様に馬鹿馬鹿しい祈りをする事しか出来なかった。




