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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-42 新天……ではなくサンドーム商店街で甘党不良シスターとの再会

 まれっちからアドバイスをもらい、俺たちは新天……ではなくサンドーム商店街に移動、そこのアーケードを経由して駅に向かう事にした。


 この商店街のランドマークでもあるメルヘンな大時計はこの世界でも変わらず時を刻んでおり、現実世界以上に多くの人で賑わっている。


 住民も猫だのタヌキだのもふもふだのファンタジックになっているのでむしろこっちのほうがしっくりくるかもしれない。


 だが楽しい雰囲気だとしても俺は一瞬たりとも気を抜いてはいけない。王国兵は今この時も血眼になって逃走した俺を探しているのだから。


「まうまう。お前も食えよ」

「いやお前らは何でこの状況でのんきに食えるんだ」


 しかしリアンとサスケは商店街で購入したたい焼きを実に美味しそうに頬張っていた。


 香ばしく甘ったるいニオイに一瞬誘惑されそうにはなるが、無論今はそんな場合ではないというのに。


「こうしていれば怪しまれないだろ。お前はただでさえ目が死んでるんだからちったあ不審に思われないように工夫しろって。なんなら腕でも組んでさっきみたいに恋人の振りでもするか?」

「美味しいでヤンスよ? ほら、アニキもどうぞ!」

「まあ、うん」


 俺は二人の意見を聞いて確かにその通りだと考え、無邪気な笑顔のサスケからたい焼きを受け取ってパリパリ食感の皮とぎっしりあんこを存分に堪能する。こんな状況じゃなければもっと美味しく味わえたんだけど。


「どうでヤンス? たい焼きにもいろいろあるでヤンスが、やっぱりあんこが一番美味しいでヤンスよね!」

「あ、ああ」


 ただそれ以上にサスケの笑顔が愛くるしいにも程がある。


 口元にあんこもつけちゃって、短パンから見える太ももも健康的だし、こいつは俺を誘惑しているのだろうか。


 そんな性犯罪者の様な事を考えニヤついたおかげで俺は余計に職質されそうな見た目になってしまった。うーむ、これはこれで問題だからもうちょっと顔を矯正しないと。


「えへへ、それじゃあもっと買ってくるでヤンス! アシュラッドにはもう来られないと思うのでじゃんじゃん買うでヤンス!」

「俺の金だけどな」


 サスケは逃走中である事をすっかり忘れボールを取って来る犬の様に元気よく駆けだしていった。ただ怪しまれないという意味ではこの行動は適切ではあろう。


 うーむ、しかしナカサンダイ地区もそうだが美味そうなニオイがなかなかしんどい。


 嗅覚が鋭い事が俺の自慢だが、濃厚な豚骨ラーメンだのドーナツやたい焼きの甘いニオイだの、こんなハイカロリーなニオイを深夜に嗅いだ時はまあまあ地獄なんだよな。


「ドーナツを三つほど下さいでヤンス~!」


 俺の想いが通じたのかサスケが狙いを定めたのはふんわりドーナツだった。割と有名な店だったはずだけど、昔お土産で貰って食べて美味しかった記憶がある。


 いや、くどい様だがあくまでもここは異世界であり、現実世界の福岡とは何の関係もないのだけど。


「おう、アタシにもあるだけ頼む」

「申し訳ありませんお客様、商品が売り切れてしまって……焼き上がりまで少々お時間がかかりますがよろしいでしょうか?」

「そっか、ならしゃあねぇな」


 そのドーナツ店はこちらの世界でも人気なのかまたすぐに柄が悪そうな鳥人カルラ族の客が現れるも、不運な事に彼女は買えなかった様だ。


「なあサスケェ、それアタシにくれよ。友達だからいいだろ、ナ?」

「ひぃいい!?」


 しかしその輩はあろう事か子供からドーナツを巻き上げようとした。サスケはしっぽを巻いて全速力で退散、震えながら俺の後ろに身を隠してしまう。


「なにやってんだ、ザキ姉。うちの舎弟を虐めないでくれよ」

「いいじゃねぇかリアン、こちとらようやくお偉いさんの接待から解放されたんだ、甘いモンでも食わねぇとやってられねぇよ。ん?」

「うげ」


 福岡なので輩に絡まれる、それはある程度想定していた事態だが、その大人気ない極悪非道な輩はあろう事か城でも出会ったザキラだった。


 端的に言ってこの状況はかなりまずい。ただのゴロツキなら逃げるか戦うか素直にドーナツを差し出せば良かったが、ザキラはガッツリ城の関係者だ。当然マレビトである俺が逃走した事も把握しているだろう。


「お前なんでここに……ああ、抜け出したのか。意外とロックな所あるんだな。ドーナツ一つで黙ってやるってのはどうだ」

「随分と安い対価だな。そんなものでいいのか?」


 しかしザキラのリアクションは実に薄いものだったので、やや戸惑う俺にリアンはボソッと耳打ちして伝えた。


「マレビトが逃げるだなんてまあまあな不祥事だ。当然物理的にクビが飛ぶ奴もいるだろう。オレが城の人間ならごくごく限られた人間にしか教えないまま処理して全力で隠蔽するだろうな。実際前にもそういうケースはあったし」

「なるほどね」


 お偉いさんの事なかれ主義はどこの世界でも同じらしい。


 現実世界でも似た様な話はよく聞くが、つまりザキラは何も知らないというわけか。だが今はその人類普遍の隠蔽体質に感謝しないと。


「内緒話は済んだか?」

「ああ、取引成立だ。山吹色のお菓子でどうか一つたのむ」

「お主も悪よのう。あんがとさん」


 俺はそのままの意味で老いも若きも大好物なお菓子を袖の下として贈り悪徳シスターを買収した。しかし時代劇のあるあるネタもこの世界に残っているんだな。


「でもリアンとザキラって知り合いだったのか」

「そこそこ仲が良い程度の関係っつーか、腐れ縁っつーか。ザキ姉は見ての通り輩だからオレみたいな奴ともちょいちょい絡みはあるんだよ」


 世間は狭いとは言うが、俺は彼女たちが知り合いだと知っても正直そんなに驚く事は無かった。


 だってねぇ、どう見てもザキラは輩だからねぇ。悪そうな奴は大体友達って感じの人だからねぇ。


 人は見かけで判断してはいけないものだけど、大抵のアウトローは自分が悪くて強くてカッコイイと見た目で判断して欲しいから悪そうな格好をしているのだから。


 なのになんで不良の人たちって見た目で判断するんじゃねぇって怒るんだろうなあ。永遠の謎だよ。


「喧嘩売ってんのかコラ。んで、こんな所でのんきに食べ歩きなんてしていいのか? 清めの道を突破するのはまず無理だぞ。間違っても強行突破しようなんて馬鹿な事はやめておけ」

「やっぱ知ってたのかよ」

「知ってたっていうか。ここに脱走したマレビトがいる。脱走するには動機が存在する。大方裏事情を知ってアシュラッドから逃げようとしてんだろ?」


 こんなナリでも彼女は甘いものが好物なのか幸せそうにバクバクとかぶりついていたが、やはり言うても関係者、すぐに俺が今置かれている状況を推察してしまった。


「一応逃げるあてはある。どうやらアシュラッドには抜け道があるらしい。そこを目指すつもりだ」

「あ、アニキ? えーと……いいんでヤンスか、そんな事言って」


 仕方がなかったので俺は正直に目的地の隠し通路の事を伝えると、サスケの表情は強張り俺とザキラの様子を交互に伺った。


 もしもザキラの気が変わって兵士にその事実を伝えれば、そこで待ち伏せされる可能性もあるので当然だろう。


「心配するな、こいつは信じられる。もちろん根拠はあるがそれを言ってやろうか?」

「ふーん? 一応聞かせてもらおうか」

「なぁに、お前の口元からなかなか美味しそうなニオイがすると思ってな。ほんのり花の甘い香りがするいいニオイだ。ナカサンダイ地区でも綿あめの屋台の近くで似たようなニオイを嗅いだがなんていう食べ物なんだっけ、コレ」

「……………」


 けれど俺が笑みを浮かべながらその事実を伝えるとザキラの目つきは鋭くなる。何故ならこれは彼女にとって極めて都合の悪い事実だったからだ。


「俺はこの世界に来たばかりでよく知らないんだが、トール教会って食べたら駄目な奴があるんだよな。入る時に道案内してくれたタヌキの人から教えてもらったけど」

「ったく、それ以上言うな。皆バレないように上手くやってるんだから。アタシは自業自得だとしても誰かに聞かれたら店の人に迷惑がかかる。この世界の人間がアシュラッドに引っ越してアレが食べられずに絶望するのはあるあるネタなんだよ。こことザイオン以外じゃ普通に食べてるのにな」


 推測するに、おそらくザキラはトール教会とアシュラッドにおいて禁制品であるウルトの蜜を用いた綿あめを食べたはずだ。


 ザキラいわくこの世界ではポピュラーな食材の様だが、それをトール教会の人間が食べているという事実は強気な態度を一変させる程度の弱みだったらしい。


「あらら、ザキ姉バレてやんのー、プークスクス!」

「うるせー、調子に乗るな」

「あだっ」


 ザキラは小馬鹿にしたリアンの頭をバシンと殴りつけた後、いそいそと口元をハンカチで拭った。


「でも凄いでヤンスね。オイラはなんとなくわかるでヤンスがアンジョの人は普通わからないと思うでヤンス」


 ただこの程度ではニオイが消えるはずもなく、まだほんのりと花の甘い香りが漂っている。犬っぽいサスケは判別出来た様だが、彼は地味なチートに結構驚いていた様だ。


「俺は普通の人間よりかなりハナが聞くんだよ、色んな意味でな。この特殊能力で俺は上手い具合に危険を避けてコソコソと生き延びてきたんだ」

「そりゃ羨ましい。悪党にとっては喉から手が出るほど欲しい特技だな。ナーゴ族も割とそういうのは得意だぞ」

「いやお前は人、」

「心はナーゴ族だから」


 リアンは馬鹿な事を言ったので俺はすかさず指摘するも、彼女はやはり頑なに自分がナーゴ族である事を譲らなかった。


 反論する根拠はいくらでもあるけど、水掛け論になって疲れるだけだしたい焼きでも食うか。


「んじゃザキ姉、そういうわけだから生きてたらまた会おうぜ」

「おう、せいぜい死ぬなよ、リアン、サスケ。マレビトもな」

「はいでヤンス!」

「ああ」


 ザキラとの再会もそこそこに俺たちは駅へと向かう。俺たちは怪しまれない様に食べ歩きをしているだけで危機的状況には変わりないので急がなければいけない事には変わりないのだから。


「でもそうか、隠し通路ねえ……」


 ただ彼女と別れた時、ザキラが思いつめた様にポツリとそう呟いたのがちょっとだけ気になったけど。


 何故だろう、リアンも大概だが彼女からも危険な香りがする。


 今の所アウトローな女性としか仲良くなれていないが、この世界の女性はこういう奴しかいないのだろうか。

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