3-112 ザビエルなエセ南蛮菓子
観光地であるユフィンにはそこいら中に歴史を感じる旅館や宿がたくさんあるが、今はどこも築ウン百年の重要文化財レベルの建物ばかりだ。
流石にそのままでは使えないので補修やリノベーションは行っている様だが、そのせいで和洋折衷ならぬ和と異世界ファンタジーが入り混じった独特の風合いの建物に変化していた。
「ふひゃー、いいお湯デシタ~」
「のほーん」
宿のお風呂でひとっ風呂浴びてきたニイノは身体から湯気を漂わせて部屋で寛いでいた。マタベエはテーブルの上に乗り、お菓子を物欲しそうな目で凝視する。
「見てくだサイ、トモキさん! 鱗がつやつやになりマシタ!」
「うん」
温泉はニイノにとって満足のいくものだった様だが、正直鱗を自慢されても違いが全く分からない。
ディーパ族にとっては美醜の基準となる要素らしいけど、異世界コミュニケーションって難しいな。
「ほら、マタベエのチャームポイントのおケツもいつも以上にぷにぷにしてマスヨ!」
「へいへーい。ぼくのおケツみてー」
彼女達は適当に返事をした俺の気をひくため連係プレーで攻撃し、マタベエはぷにぷになおケツをふりふりしながら迫って来る。
この愛らしい姿を見てしまえば確かに悶え苦しみそうになるが、これは恋心とはまた違う感情だろう。
「ふむ。これはとても癒されるおケツだ」
「いやん」
俺はおもむろにマタベエを掴みキュートなおケツをふにふにと触り、鼻を押し付けクンクンスハァとニオイを吸引した。
うん、赤ちゃんの玉の肌を思わせる見事なしっとりぷにぷになおケツだ。一時間くらいは余裕で揉み揉み出来る。
「スマン、お菓子をやるからもうちょっとおケツを揉み揉みさせてくれ」
「いいよー。トモキくんにおケツもみもみされるのすきー」
「なんかドキドキするやり取りですポン……」
マタベエはおケツを揉み揉みされながらお菓子を食べる。だが俺の変態チックな言い回しが少し気になったのか、部屋にいたモリンさんは嫌悪の眼差しを向けてしまう。
「うまうまー」
「俺も食うか」
彼に与えたお菓子は日本にキリスト教を伝えた聖人の名を冠した大分銘菓で、バター風味の生地と白あんを用いており、しっとりとした甘さは幸せな時間をもたらしてくれる。
「綺麗な箱だったので見た目で買っちゃいましたケド、これもナンバン菓子なんデスカ?」
ニイノは当時と変わらないオシャレな箱に魅了され、手に取っていろんな角度から眺めた。
ビロード風のデザインの黒い箱は微妙に中二心をくすぐられるし、むしろ箱だけでも欲しいという人もいるかもしれない。というか俺もちょっと欲しい。
「正確にはエセ南蛮菓子だけど、葉瀬帆のポルトや佐賀のケシアドみたいにむしろ日本にはエセ南蛮菓子の方が多いかな。純粋な南蛮菓子ってカステラとか金平糖とかボーロくらいしか思いつかないよ」
「とりあえずナンバンガシはおいしいってことだよね。うまうまー」
一応この大分銘菓にも歴史はあるのだけれど、マタベエはそんな事を一切気にせずむしゃむしゃと笑顔でお菓子を頬張っていた。
この素敵な笑顔をお土産屋のポップに使えば売り上げが倍になりそうだな、と俺も思わず笑みをこぼしてしまう。
「あれ? もう、自分達だけでお菓子を食べるなんてずるいですよ」
「っ」
ゆるーりまたーりとほのぼのとした時間を過ごしていると、柔らかく甘美な香りが漂ってきた。どうやらカムナも風呂から上がってきたようだ。
カムナもまた浴衣姿になっており、その艶やかな黒髪は光沢を帯びて輝き、火照った全身からは溢れんばかりの色香が漂っていた。
何もしていないのに湯上りってだけでどうしてこんなに艶めかしくなるのだろう。だけどカムナは存在そのものがエロ担当だから仕方がない。
「私も食べていいですか?」
「ハヒ、ドウゾ」
俺は思わず声が上ずってしまい、カムナはお菓子を取るため前かがみになってしまう。ナニがとは言わないけど湯上りで浴衣姿だと破壊力がとんでもないな……。
「むにょーん」
「わわ、トモキさん、マタベエが潰れてますよ?」
「おわっ、すまん!」
彼女に見とれていた俺はいつの間にかマタベエを強く握りしめていた。なおこの表現も微妙に誤解を招きかねない字面だが偶然そうなっただけで他意はない。
「むー」
「ニイノちゃんなんでおこってるの? おかしたべるー? おいしいよー」
「そうだネ! ぷいっ」
マタベエは下心丸出しな俺を見捨ててニイノの下へと向かった。こうしてダメ男は周囲から嫌われ一人寂しく死んでいくのだろう。
「あらーん。俺を置いてかないでー」
「自業自得だろ」
俺は悪ふざけに逃げるが同じく風呂上がりのザキラは馬鹿にしたように笑った。だけど一連のやり取りが所詮ネタである事は彼女も理解しているはずだ。
「で、アタシにはなんかないのか?」
「入浴断られなくて良かったな。こっちじゃタトゥーとかセーフなのか?」
「いやねぇから。大体はセーフだけどなんである事前提で話してるんだシバくぞ」
ザキラはこの世界におけるタトゥーの立ち位置を教えた後胸ぐらを軽く締め上げる。彼女は一応良家のお嬢様なので流石にそこまでではないのだろう。
タトゥーは日本を含めアジアやイスラム圏ではあまり良しとされないけど、欧米じゃ割と好意的な物として認識されている。
現実の日本はなかなかタトゥー文化を受け入れなかったけど、この世界はあくまでも日本ではないのでその辺りは割と寛容らしい。
「お前も風呂に入ったらどうだ。折角ユフィンに来たんだし」
「そうだな。もう少し後でな」
ザキラは俺が風呂に入らなかった理由を察しており、無理強いはしなかった。
だけどこの世界では怪我の跡はさほど珍しくないらしいし、少しくらい勇気を出してもいいかもしれない。
まだ周囲の目が少し不安だけど……人がいない時間帯ならいいかな。




