3-107 ユフィン旅行の支度
「シャー!」
「しゃー!」
族長の家を出るとニイノとマタベエが襲い掛かり、そのインパクトのある笑顔に一瞬食い殺されるのではないかと恐怖してしまった。
「これでやっとトモキさんと旅行出来マスネ! もう、うちを置いてニューナジム観光をするだなんてずるいデス!」
「すまんすまん、元々観光するつもりはなかったっていうか、実際ちょっと揉め事はあったし」
人気声優みたいな可愛らしい声でもニイノの見た目はほぼサメだ。鋭い歯で噛まれたら余裕で腕を持っていかれるだろう。そんな事はしないとわかっていてもやっぱり怖いものは怖い。
「姉ちゃん、トモキさんが怖がっているじゃないか。食べちゃ駄目だよ」
「もうアマビコったら! そんなおませな事を言っちゃって、お姉ちゃんをからかわないの!」
アマビコはスキンシップの激しい姉を諫めたけど、この場合はどちらのニュアンスが正しいのだろう。
チョウチンアンコウとかメスに吸収されるし、割と交尾の後に相手を食べる生き物って結構いるからなあ。
「でもユフィンですかー、いいですねー。リーボルトにも負けないくらい温泉が有名ですポ」
「うんうん、温泉と酒の組み合わせって最高なのよねぇ」
「わかりますポ。でもアンジョさんはお酒を飲んだ後にお風呂に入ったら危ないから程々にしたほうがいいですポ」
「アハハ、まれっちにそんな事を言う必要はないんじゃないのかネェ」
「それもそうでしたポ」
年長者チームは温泉と言うワードに心を惹かれたのか、小旅行を楽しみにしているらしい。
モリンさんは希典先生に注意をしたが、リンドウさんの指摘でそれがあまり意味のないものだとすぐに思い至った。
「だそうだ。出番だぞ、カムナ」
「何の出番ですか?」
リアンはセクハラ親父の様な眼差しでカムナを凝視する。二連チャンで温泉回もありっちゃありだけど、ポリコレ以前に背中の火傷跡が気になるし俺は見送るとしよう。
用事も住んだし早速バスに向かうか。現実世界のあの場所と同じなら名物もたくさんあるし、いろいろ観光してみたいな。
「おえっ」
「おわ、大丈夫か?」
「あ、ああ」
「?」
だけどバスに行く途中、民家の裏手に住民たちが集まっていた。どうやらナジム族の男性の具合が悪くなったらしく、友人らしきディーパの女性が介抱していた。
「汚いわねェ、飲み過ぎヨ。大丈夫?」
「すまん、横になりたい……さっきトイレで出した奴が米のとぎ汁みたいだったし、マジでヤバいかも」
「ったく、これに懲りたら深酒は止めろよ」
青白い顔のナジム族男性は乱暴な叱責に文句を言う気力もなく仲間に運ばれていく。彼らは吐瀉物を気味悪がっていたが、それを掃除する事無くそのまま放置してしまった。
けれど俺はそれ以上彼らの事を気にも留める事無く、ユフィンに着いたらどこを観光しようかなと、それだけを考えていたんだ。




