3-106 名君キンデルへのキーアの複雑な想い
ニューナジムでの話し合いを終え、俺達は一旦カジノジイ族長に報告するためナジム村へと戻った。
「なるほど、キンデルはそう言っていましたか」
「えと……こんな結果で満足ですか?」
「予想していた通りですから」
結局俺達がした事は譲歩を引き出したわけでもなく、決断を先延ばしさせたに過ぎなかった。だけどカジノジイ族長はそんな中途半端な結果でも淡々と受け入れたらしい。
「トモキさんは何か勘違いをしておられるようですが、私どもは住む場所や考え方こそ違えど同じ血を分けた兄弟です。私としては良好な関係を築く事が出来ればそれで十分なのですよ」
カジノジイ族長は対立するキンデルに対して全く嫌悪の感情を抱いておらず、むしろ敬意を示していた。人間ならばこういう時血で血を洗う紛争が始まるのに、彼の高潔な人柄を見て俺は人間である事を恥じてしまった。
「でもキーアは納得してないゾ。確かにラバーナは話が分かるいい奴だと思うけど、でも……」
だがやはりキーアはこの期に及んでゴネまくっていた。このままではなし崩し的に伝統的なナジム村が変わってしまうのだろうが、信頼するラバーナ区長への想いと板挟みになって葛藤している様だ。
「キーア。お前はニューナジムを見て何を感じた?」
「え? うーん」
カジノジイ族長は進むべき道に迷うキーアに問いかける。彼女はうーん、としばらく考え、
「エビフライが美味かったゾ。ビルがデカかったゾ。建物の中がひんやりして涼しかったゾ。あとエビフライが美味かったゾ!」
「とりあえずエビフライがとても気に入ったのはわかった」
と、率直かつシンプルな感想を述べ、カジノジイ族長は微笑ましそうに笑ってしまう。やはりファミレスで食べたエビフライが強く印象に残っていた様だ。
「ナジム村では川のエビしか食べられないからな。だがこの村が発展すればその全てが手に入る。食べ物に困る事は無くなり、海産物も特別なものではなくなるだろう」
「むー、そ、それは……」
あれほどまでに頑なだったキーアも、エビフライの美味しさには抗えず心が揺らいでしまう。
一見単純な様に見えるが、食べ物は発展にとって得られる最もわかりやすい恩恵の一つだからだ。
「特にここ最近は水害の影響で食糧が手に入りにくくなっている地域もある。同胞たちを護るため、私は彼らに食糧支援の打診をするつもりだ」
「親父がそう言うのなら、キーアは別にいいけど……」。
キーアもその事実を知っていたのか強くは反対しなかった。人命にかかわる事態である以上、彼女もそれ以上何も言えなかったらしい。
「でも親父、隣村の部族とその話をした時、裏切り者のキンデルから施しを受けたくないとか、余計な事をするなってこの前物凄く怒ってたゾ。大丈夫か?」
「その辺りに関しては大人の仕事だ。私が間に入って話し合おう。このままでは救える命も救えなくなってしまうからね」
「そっか……気を付けて欲しいゾ」
察するに被災した部族にはややこしい問題があるみたいだけど、部外者が口を出す様な話ではないだろう。キーアは彼の身を案じていたけど無事に話し合いが上手くいくように祈るしかない。
「じー」
「無事に仕事も終わりましたし、トモキさんもナジム自治区を観光してはいかがでしょう。ユフィンとかオススメですよ」
そして旅行に行きたそうな目でこちらを見ていた半魚人やキノコに忖度してくれたのか、話が終わるとカジノジイ族長は笑いながらそう提案した。
「じー」
「そうですね、キンデルも手出しはしないと言っていましたから」
「きゃはっ!」
「わーい」
俺もまた空気を読んで承諾すると、ニイノとマタベエはハイタッチをして喜びを分かち合う。
キンデルは俺と相容れない立場だとしても悪人ではないし、約束を守ってくれるはずだ。ほったらかしにしたメンツのためにも少しくらいは観光してもいいかな。




