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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-105 美しき欲望のお子様ランチ

 キンデルとの交渉が佳境を迎え、拒絶の言葉を告げた俺はごくりとつばを飲み込んだ。彼が次に出す一手によっては死を覚悟した方がいいかもしれない。


「あらそう。ごめんね、無理言って」


 しかしキンデルは普通の笑顔にもどり、そこにはもう反逆を企てる野心家の面影はどこにも感じられなかった。てっきりさらに譲歩するか、暴力で威圧するとかそれくらいの事は覚悟していたんだけど。


「随分とあっさり引き下がるんですね」

「うーん、ぶっちゃけこうして仲良くおしゃべりしているって情報を流すだけでも意味はあるからねぇ、うん。実際に協力しなくてもそう思わせるだけでも十分なんだよ。取りあえずクーデターが成功するまでは噂を流していいかな」

「そうですか……それくらいなら構いませんけど」


 だが結局彼は俺の力を利用するつもりの様だ。それもそれであまりいい気はしないけど、落としどころとしてはこれが最適だろう。


「じゃ好きなものを食べなよ。かぼすゼリーとかどう?」

「いやだから別に……かぼすそんなに好きじゃないですし」

「え? 食べないの? 美味しいよ? んもう、食べてよ~」

「じゃあ、はい」


 キンデルは当初の目的である会食に目的を変更し、これでもかとかぼすゼリーを推してきたので、根負けした俺は空気を読み渋々あまり好きではない柑橘系のゼリーを注文した。


 でもどうしよう、サシで話し合うって気まずいな。この大物領主と一体何を話せばいいんだろう。


 何でもいい、場を繋ぐために話をしないと。


「飲食店の創業者から領主になったそうですけど、よくなれましたね。貧しい生まれと聞きましたが」


 俺は彼の事をあまり知らないので把握していた情報を掘り下げた。こういう自慢話になる話題は成金がなによりも喜びそうだし。


「貧しい生まれか。昔のナジム自治区はどこも貧しかったよ。同じナジム族で殺し合い、サトリ族やアンジョとの戦争に負け、偉い人からも嫌われて発展から取り残されちゃったからねぇ。若い頃はたくさん無茶をしたものさ」


 キンデルは裸一貫でのし上がった過去の苦労を懐かしみ想い出話として語った。


 俺にはどれだけ大変だったのかはわからないが、想像を絶する過酷な日々だった事は間違いないだろう。


「私はまだ族長の家系で小金持ちだったからまだよかった。だけど多くのナジム族は貧しさゆえに夢を見る事も出来なかった。お互いがお互いを殺したいほど憎み、敵対する部族から生きる糧を殺して奪う様な場所だった。そうしなかったら死んじゃうからね」

「どこの世界も変わらないんですね、その辺りの事情は」


 貧しい人間は心が豊かだと誰かが言った。だけど全ての貧しい人がその様な心であるわけがない。


 もしも海外の勘違いをした金持ちが治安の悪い場所でそんな事を言い放った場合、感情を逆撫でして身ぐるみを剥がされるだけだ。


「で、これじゃあいけないから何とかしないといけないって思ってね。友達にヒョウスベっていうディーパ族の剣豪がいたんだけど、彼と一緒にあちこちの村を駆けずり回って仕事とお金を生み出していったんだ」

「ヒョウスベって、もしかしてイムシマ水軍にいたヒョウスベさんですか?」

「ありゃ、彼の事を知ってたの」


 彼の話を聞いていると俺は意外な名前を耳にした。だけど住んでいる場所的に接点はありそうだし、腕利きの彼を用心棒として雇っていてもさほど意外でもないだろう。


「そういえば君はイナエカロでひと悶着あったんだっけ。元気にしてたかい?」

「ええ、それはそれは元気に大暴れしてうちのツレが戦闘開始二秒で秒殺されました」

「そっかそっか、相変わらず元気だねぇ、うん。でもあれでも大分大人しくなった方だよ。イムシマ水軍も今でもちょいちょい戻ってきてくれって頭を下げてるそうだし」

「でしょうね。あのスーパーおじいちゃんなら」

「だけどもう彼が水軍に戻る事はないだろう。欲深い私とは真逆で、ヒョウスベは金や名誉よりも大切なものを選ぶ事が出来たからね。私も彼の様に慎ましく生きたいものだよ」


 キンデルさんとヒョウスベさんは本当に仲が良かったのだろう、苦楽を共にした親友の名前を出した時キンデルさんは破顔し柔らかな表情になる。


「お待たせしました、お子様ランチです」

「お、来た来た、うん」

「うん?」


 会話の最中、キンデルさんの目の前にお子様ランチが運ばれる。


 だがそれはいい大人が、それも貴族の様な彼が決して口にする様なものではなかったので俺は驚いてしまった。


「ええと……こっちの世界にもお子様ランチってあったんですね。やっぱり幅広い年代に食べられているんですか?」

「普通は大の大人は食べないね。大人が食べたい場合は少しリッチな大人のお子様ランチっていうのがあるからそっちを注文するよ」

「は、はあ」


 今回もそういう世界観か、と思って質問したけれどどうやらお子様ランチの立ち位置は現実世界と同じ様だ。


 最近になってようやく生まれた大人のお子様ランチが既に異世界で導入されていた事も気にはなったけど、空気を悪くしないためにもノータッチのほうがいいのかな。


「ぶっちゃけこれより美味しいものはたくさん食べれるよ? でも初心を忘れない様に週に一度は食べる様にしているのさ。美味しいものを食べるという行為は豊かさの象徴だからね」


 傍から見ればマッチョなイケオジがお子様ランチを食べているのは奇妙この上ないが、キンデルは特に思い入れがある料理らしい。ギャグとかではなく本心っぽいので、ツッコむのはやめておこう。


「食材を集めるためにいろんな国と貿易して、包装とかを大量生産して、氷温物流も開発して、食材を運ぶための交通網も整備して、安く提供するためにセントラルキッチンも作って、その為に諸々のインフラも整備して……お子様ランチを作るのって実は結構大変なんだよね、うん」

「確かに言われてみればそうかもしれませんね。俺達は当たり前の様に出された料理を食べてますけど、全部のコストを考えたらある意味ファミレスで一番高級な料理かもしれません」


 ファミリーレストランは一見手軽な様に見えるが、一皿の料理を作るためには多くの人が関わっている。客が美味しいものを安価な値段で食べるためには並々ならぬ企業努力が求められるのだ。


 そういう意味ではどのような高級な料亭よりも、ファミリーレストランで料理を食べるほうがずっとコストがかかるかもしれない。そう考えたらなんだかお子様ランチが凄い高級な料理に見えてきた。


「私はね、私の店でお子様ランチを食べ、欲望を持つ事の素晴らしさを知った子供の笑顔が何よりも好きなんだよ。欲望はしばしば悪徳とされるけど、私はそうは思わないんだよね、うん」


 最初この店に来た時、俺は目を輝かせて楽しそうにはしゃぐ子供に衝撃を受けた。


 きっと彼もまた人々の笑顔を糧にどん底から這い上がり、領主という地位にまで上り詰めたのだろう。


「私は強欲王なんて呼ばれたりもするが、欲を持つ事は果たして罪なのかな。美味しいものを食べたい。立派な家に住みたい。素敵な服を着たい。便利な家電を買いたい。そんな欲望によって幸せになる事もある。欲望は生命力と同じなんだ」


 キンデルは立場こそ相容れないが、彼は自分以外の存在の幸せだけを願っていた。彼は富にも名誉にも一切興味がなく、ただ祖国の繁栄だけを望んでいたのだ。


「ニューナジムは大きく発展したが、ナジム自治区には今も未開同然の地域も多くある。伝統的と言えば聞こえはいいが、それは常に死と隣り合わせの生活だ。私にはとてもそれが幸せとは思えない。ナジム族にも文化的で豊かな暮らしを営む権利はあるはずだ」


 直接目にしたわけではないけれど、今回の水害ではナジム自治区でも多くの人命が失われたらしい。


 そんな状況で困難な現状を変えたいと願うのは、決して強欲でもなければ罪と呼べるものではないだろう。


 彼の欲望も野心も全て同胞と愛すべき故郷のために存在し、間違っても我欲にまみれた成金ではなく名君と呼ぶに相応しい人間だったのだ。


「……キンデルさん。俺はあなたの考えに全て共感出来るわけではないですし、クーデターに協力するつもりはないです。ただ邪魔をするつもりはありません。もしそうなればそっとナジム自治区を立ち去ります」


 だとしても俺は協力する事は出来ない。どれだけ崇高な理想があっても、俺にだって譲れないものがある。俺は改めて彼に想いを伝えた。


「そっかあ、ありがとう。ならこっちも何もしないから、しばらくナジム自治区の観光を楽しんでね、うん」


 悩んだ末に出した答えを彼は軽く受け止める。もしかしたら最初から力を貸してくれたらいいな、程度に考えていたのかもしれない。


 結局俺は所詮イレギュラーな存在であり、最初から計画に組み込まれていたわけではない。変革をもたらす傑物である彼ならば俺なんかがいなくてもそう遠くないうちに目的を達していただろう。


「あ、ユフィンとかいいよ。地獄蒸しプリンは食べていってね、美味しいから、うん」

「はは、そうさせてもらいます」


 彼は怪物ではあるが悪ではない。


 その先にどのような未来が存在するのかはわからないが、俺は極力余計な手出しをしないほうがいいだろう。この世界の運命はこの世界の人々に委ねるべきだから。


「お待たせしました。かぼすゼリーです」

「ども」


 しばらくしてようやくかぼすゼリーが提供され、俺は翡翠の様に輝くゼリーをスプーンですくって口にする。


 かぼすゼリーはほんのり苦みがあったが爽やかでなかなか美味しかった。柑橘系は苦手だったけど、食わず嫌いをせずにまた食べてもいいかもしれない。


 そうだ、今度唐揚げにかぼすをかけて食べてみようかな。レモンはやっぱ嫌だけど。

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