3-101 武装勢力ゴルイニシチェ幹部、アザザ・ジョレス
かつての時代、富と欲望の象徴だったキャバレーは時代と共にすっかり減ってしまい日本ではあまり見かけなくなってしまった。
この場所も本来は一夜の夢を見るための享楽に満ちた楽しい場所なのだろう。だが店内では品のない笑い声が聞こえ、金に物を言わせた退廃的な宴が繰り広げられていた。
「おーう、もっと酒と女を持ってこい! お前らももっと飲めよ、タダなんだからよぉ!」
その白人男性は豪華なソファーに座り、露出の多い服を着た女性を侍らせ高級な酒を浴びる様に飲んでいた。
「や、ちょっと!」
「何嫌がってんだ、天使様がテメェみたいに不細工な女の隣に座ってやってんのに! オラ、飲めよ!」
彼はゲラゲラと笑いながらムウマ族のホステスに無理矢理一気飲みを強要させ、コンプライアンスもガン無視してお楽しみの真っ最中だった。人間ならあんなに飲んだら死ぬけど大丈夫だろうか。
「酷い事してるゾ……!」
「待て、飛び出すな」
憤慨するキーアは今にも殴り込みをしそうになっていたが俺は必死でなだめる。相手が神様同然のマレビトだったという事もあるけれど、こいつらは決して関わってはいけない人間に思えたからだ。
「とてもわかりやすいアンジョですね」
「なんていうか一目見ただけでわかる嫌な金持ちだなあ」
横暴な振る舞いにアンジョ嫌いなカムナとリアンは侮蔑の眼差しを向けてしまう。こんな連中とずっと関わり続けていたらそりゃ人間との対立が生まれるわけだ。
「でもこの笑い方、どこかで見覚えが……」
俺はしばらく大笑いするマレビトを眺め、どういうわけかその笑い声を聞いて無性に不安に掻き立てられてしまった。
「えと、アニキはあの薄気味悪い顔で笑ってるアンジョと知り合いなんでヤンスか?」
「笑顔……」
サスケは心配しながらそう尋ね、俺は頭の中の記憶を手繰り寄せる。どうやら彼もあの男からただならぬものを感じてしまった様だ。
あの醜悪な笑みには不快な感情しか抱かないだろうけど、何だろう、そんなのじゃない気がする。危険なニオイも漂ってくるし、これは絶対に良くないものだ。
「アザザ・ジョレス!?」
そして俺はようやくあの男の名前を思い出した。そうだ、彼はロシアの武装勢力ゴルイニシチェの大物幹部だ! 何故あいつがこんな所に!?
「んあ? 人間? それにその名前で呼ぶって事はまさか……」
「っ」
だが大声で彼の名前を叫んだ事で俺達の存在が連中に気付かれてしまう。どうしよう、今すぐにでもここから立ち去るべきだろうか。
「なんだ、お前もマレビトか。こいつはいい。おーい、お前もこっちに来て一緒に飲もうぜ」
しかし機嫌が良かったジョレスは手招きして俺を宴に誘った。あんな奴と一緒の空気を吸いたくないしすぐにでも立ち去りたいが、今後の事を考えると情報も入手したいし誘いに乗るしかない。
「……行くか。皆は帰っていいぞ。マレビト同士で話し合いたいし」
俺は覚悟を決めて自分だけが敵陣に乗り込む選択をする。こうすれば何かあっても皆が巻き添えになる事はないだろう。
「大丈夫なのか。銃を持ってるけど」
「流石にいきなり殺す事はしないだろうさ」
当然進言したザキラを含め皆は不安げな顔になる。すっかりオフとはいえ奴らは武装しており、その気になればいつでも銃を撃って殺す事も出来るからだ。
「そっか。ならオレは店の外で待ってる」
「ああ」
リアンは短くそれだけ言って、俺は彼女の考えを理解する。
「え? いいんでヤンスか、姐さん?」
「トモキがそういうのならそうしたほうがいいだろう。サスケ、お前もいつでも道具を取り出せるようにしておけ」
「わかったでヤンス」
サスケはすぐには察する事が出来なかった様だが、指示通りすぐに助けに向かえる様に身構えた。
「トモキさん……わかりました」
「無茶はするんじゃないゾ」
「なにかあったらぼくもたすけにいくからねー」
カムナ達もいざという時には動けるように身構えながらキャバレーから去っていく。マタベエはこんな時でも頼もしく、ビビりまくっていた俺は彼から勇気をもらった。




