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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-99 ラバーナ区長の悩みと、答えの存在しない難問

 ニューナジムタワーの内部には様々な商業施設があり、やはり豪華な内装に違わずどれもこれも高級店ばかりだ。


 もちろん扱っている品は俺からすれば何の変哲もない昔の家電やスーパーで見かけるものばかりだが、この世界の人にとってはハイソ極まりない品々なのだろう。


「ええと……ラバーナさんってキーアと知り合いなんですか」

「ええ、私はニューナジムの区長を務めさせていただいているのですが、ナジム村には調整のためにしばしば訪れていました」


 優しい笑みを浮かべるラバーナ区長は筋肉質なキンデルとは真逆で華奢な見た目をしていた。エルフっぽい見た目だしやっぱり魔法タイプだったりするのだろうか。


「ラバーナは村のために建物を作ってくれたり、塀を修理してくれたりしてくれたんだ。だからラバーナの事は大好きだゾ。会うたびにお菓子もくれるしナ」


 彼女の話題になると頑なだったキーアも機嫌が良くなってしまう。


 怒ったり笑ったりコロコロ変わる表情が見ていて楽しいけど、どうやらラバーナ区長に対しては既に信頼関係がある程度醸造されている様だ。


 しかしラバーナ区長がした事は結局キンデルが指示した事だ。でもそのあたりの都合の悪い事実は考えない様にしているのだろう。


 とはいえ村の発展に多大な貢献をした事は間違いない。


 伝統と発展、どちらを選ぶかなんて当事者間で決めるべきだし、こちらについては引き続き余計な介入はすべきではないだろう。


「けど珍しいな。この辺でサトリ族が役人をしているなんて」

「今は時代が変わりましたから。確かに昔なら考えられなかった事ですが、キンデルさんは実力だけを見て登用してくれますから」


 リアンは物珍しそうに彼女を眺め、ラバーナ区長は恋人の自慢をする様に語り幸せそうな顔になった。


 恋愛感情があるかどうかはわからないけど、この雰囲気だと心酔はしているに違いない。


 俺はナジム族とサトリ族が戦争をしていたという歴史を思い出す。やはりそうした歴史があると互いに思う所はあるのだろう。


 ブゴッタマーケットの群衆もサトリ族の登用に不満を漏らしていたし、アシュラッドでは比較的セレブのサトリ族が多かった印象があるけど、ここでは彼女達は所詮マイノリティに過ぎない。


 きっとそれが理由でいろいろ苦労したんだろうな。


「……キーア、やっぱりキンデルさんの事は嫌い?」

「キーアだってわかってるゾ。キンデルはちゃんとナジム族の事を考えてくれているって。だけどやり方が強引だから嫌なんだゾ」


 頑なだったキーアの態度は信頼しているラバーナ区長の説得で軟化する。


 たとえ伝統を破壊する憎い相手でも、その功績はあまりあるものなので複雑な思いを抱いている様だ。


「キンデルは草原を奪った。川を奪った。風を奪った。伝統を奪った。あいつは皆がずっと昔から大事にしてきたものを奪ったんだゾ。いくらいい暮らしが出来るとしても、キーアはこんな石と機械ばかりで眩しすぎる場所で暮らしたくないゾ」


 日本で文明の恩恵を受けて生活してきた俺からすればキンデルの目指す未来は決して間違ってはいない。


 創造は破壊より生まれるものであり、戦後の日本がそうであったように発展に多少の犠牲は仕方がない事なのだ。


「なあ、皆はどっちがいいと思う? キーアには決められないゾ」


 いくら迷ってもキーアは答えを導き出す事が出来ず俺達に助けを求めてしまう。皆はしばらく考え、それぞれの思いを口にした。


「オレは断然発展だな。そうすりゃ金持ちになれるし美味いもんも食えるし助かる命もあるし。つっても実際工場の煙とか薬品とかで問題が起きている地域もあるから耳が痛い話だけどさ。それを解決出来るのも技術の発展なわけだけど」

「オイラは別に田舎のままでもいいでヤンスが、単純に凄い機械があるとワクワクするでヤンス。やっぱり一度あの便利さを知ってしまったらもう昔の暮らしには戻れないでヤンスよ」


 リアンとサスケのコンビはどちらかと言えば発展派だった。


 けれどリアンは同時に負の側面もしっかり理解しており、その事を考慮すべきだと主張した。


「アタシの地元でも昔問題になる様な事があったらしい。だから安易にこんな事を言いたくはないが、正直いい暮らしをしたいって欲望を抑えるのは無理だな。いくらゴネても最終的には少数派になるし」


 ザキラの地元は新潟がモチーフになっている場所だったはずだが、彼女が言っている事は四大公害の一つに数えられる新潟水俣病の事だろうか。


「工業に正と負の側面がある様に、伝統にも正と負の側面があります。理不尽な伝統に嫌気がさしている人もいますから……」


 またカムナの主張も考えさせられるものがあった。


 ムウマ族が卑しいものとされるのはまさしく伝統に由来するものであり、その事で差別を受け人生を選ぶ事が出来なかった彼女達にとって伝統は憎悪の対象になり得るものなのだろう。


「残酷な様だけど伝統や価値観なんてものは時代によって変わるものなんだよ。俺は伝統を残して欲しいけど……どうしようもない事って言えばそれまでなんだ」


 この葛藤は俺にとっても身近なものだった。


 グローバル化と戦争は世界中の伝統をことごとく破壊し全ての国が似た様な発展を遂げてしまった。


 けれど誰も大きな時代のうねりに抗う事は出来なかった。


 それは個人で、ましてや一つの国家ではどうする事も出来ない変化だったからだ。


「最後はマタベエだな。お前はどう思う?」

「うーん」


 俺は腕を組んで考え込むマタベエにも尋ねる。


 このキノコに聞いた所で参考になる答えが返って来るかはわからないけど、一応話程は聞いておこう。


「ぼくにはむずかしいことはよくわかんないけど、けんかするのはかなしいな。やっぱりいちばんはみんなでなかよくするのがいちばんだとおもうなあ」

「……ええ、確かにそうですね。それで争いが生まれては意味がありませんし」


 だけどマタベエは最も単純かつ的を射た発言をし、当たり前の事に気付いたラバーナ区長はその言葉を噛みしめ寂しげな笑みを浮かべた。


「皆はどっちかって言えば発展したほうがいいのかー……でも仕方ないのかもなあ。だけどキーアも一番嫌なのは皆がお金のせいでギスギスした事なんだゾ。だからキンデルが嫌いなんだゾ」


 最終的に議論はどちらがいいというものではなくなり、キーアもしょんぼりと恨み言を呟いた。


 結局のところどれだけ高尚な議論であろうと感情論に行きついてしまうのだろう。


「ラバーナ、ごめん。キーアはやっぱり今のままがいいゾ。いろいろしてくれて悪いけど……」

「……ええ、わかりました。それがあなたの気持ちならキンデルさんにもその様にお伝えしましょう」


 悩みながら答えを出したキーアから、発展を望まないという言葉を伝えられたラバーナ区長は寂しげにその想いを受け止める。


 だけど一個人の感情で国策が変化するとは思えない。


 きっとラバーナ区長はその時になれば公私混同せず判断を下すのだろう。


 なろう小説に出てくる成金領主は大体横暴な振る舞いが目立つけど、キンデルは別に悪人というわけではなく、人によっては聖人君主の様な存在だ。


 だからこそどうする事も出来ず歯痒くて仕方がなかった。


 魔王が最初から存在しない以上、この問題はどんな英雄であろうと決して簡単には解決出来ないのだから。

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