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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-97 栄華の象徴、ニューナジムタワーへ

 ジョイフーで食事をし、美味しい料理を食べて満腹になった皆は完全に油断しきっていた。


 こんな状況で敵に襲われたらひとたまりもないし、俺だけは少しくらい警戒しておかなければ。


 だけど食後の余韻に浸りながら移動経路をシミュレートしていると店の前に一台の高級車が停まり、そこから高級スーツを着たナジム族の男性が現れる。


「お待ちしておりました、マレビト様」

「ん」


 俺は身構えたが向こうに攻撃をしてくる気配はない。


 どうやら相手に敵意はない様だし、無意味に警戒し過ぎる必要もないか。


「キンデル様がお待ちです。お連れの皆様もどうぞお乗りください」

「メシ食ってすぐだってのに動きが速いな。アシュラッドじゃ手続きがごたついたせいでトラブルに巻き込まれて身ぐるみを剥がされたのに」

「そうなのか? そんなひどい奴がいたのか! 都会は怖いところだゾ!」

「~~~~~」

「ヤンス~」


 俺がアシュラッドの時のエピソードを語るとキーアは治安の悪さに恐怖し、悪行を働いたリアンとサスケは全力で口笛を吹いて知らんぷりをした。


 けれど情報の共有や把握もまた組織が正しく運営されているかどうかの指標だ。


 元からそんなつもりはなかったけど、とてもじゃないが油断は出来そうにない。


 こんなんじゃいざって時に果たして逃げられるかどうか……移動中も常に逃走経路は確認しておかないと。俺はそう考えながら迎えの車に乗り込んだ。



 キンデルの使者に導かれて俺達は天高くそびえ立つキンデルの居城を訪れ、次第に意匠を凝らした外壁の装飾もはっきりと見える様になった。


 なお城と言うのはあくまでもこの世界の人の感覚であり、現代人の俺からすればただの巨大な複合型ビルだ。


 行政以外の役割もあるようで、入り口の案内看板を見るとホテルや商業施設もあるらしい。


「うひゃあ、流石はキンデル侯爵の城だな」

「ひゃー! このキラキラした光は庶民にはしんどいでヤンス!」


 庶民代表のリアンとサスケは豪華な装飾が施された建物の中に入る事を躊躇し二の足を踏んでしまうが、


「きらきらー」

「わわっ、走ったらダメだゾ! うっかり物を壊したら大変な事になるからナ!」

「やーん」


 マタベエは大はしゃぎで我先にと駆け出していき、キーアは無邪気なキノコがやらかさない様に急いで捕まえる。


「やれやれ、二人とも頼むからやらかすなよ。それにしても見事なガラス細工だな」

「本当だな。ひょっとして薩摩切子か?」


 ザキラはほどほどに注意した後、ロビーに鎮座するガラス細工の壺っぽい置物をまじまじと見つめた。


 デザインの特徴が薩摩切子によく似ていたが、この世界にもあったのか。


「カザンマ切子ですよ。優秀な実業家でもあるキンデル侯爵は様々な産業を奨励し、特にガラス細工は高値で取引され、彼のお陰で衰退していたカザンマは再び栄華を取り戻したんですよ」

「じたばたー。うごけないよー」

「動くんじゃないゾー?」


 こうした美術品に接する機会も多かったであろうカムナは俺の推測を裏付ける説明をしてくれる。


 てっきり悪趣味な純金の変な置物でも置かれているのかと思ったが、割とセンスがいいタイプの成金だったらしい。


「本当に見事だな。これ一体いくらするんだ」

「盗んじゃ駄目だよぉ」

「盗まねぇよ。デカ過ぎて運べないし」


 リアンは嫌らしい眼差しでカザンマ切子を眺め、希典先生に釘を刺され微かに動揺してしまう。どうやらほんの少しはその気があった様だ。


 現実世界にあったとしてもかなりの値段が付くだろう。薩摩切子は金と同じなんて言われていた時代もあるし、いくら出しても買いたがる人はいるはずだ。


「でもいいねぇ、こういう上等なグラスで一杯やりたいものさね」

「これだけの量のお酒を飲んだら普通に死ぬと思うでヤンスが。でもいろんなお宝があるんでヤンスね」


 ある意味この中で最も薩摩切子が似合う希典先生はしょうもない事を考え、サスケはそうツッコんだ後ロビーに飾られたお宝を眺めた。


「見せつけるために置いてるんだろうさ。自分はこれだけ金持ちなんだぜって。現実世界でも異世界でも金持ちが考える事は同じなんだな」


 俺が理由を考えると、ザキラはこの世界の金持ちにまつわる事情を教えてくれた。


「キンデル侯爵は趣味がいいからまだマシな方さ。普通はアンジョの遺産だって理由でありがたがって飾る。トモキの世界じゃどうかは知らんが、こうやって物は良くても歴史の浅いものを置くのはむしろ少数派なんだ」


 最近出来たばかりのカザンマ切子を飾るという行為は、さながら価値がまだ定まっていない現代アートを飾る様なものなのだろうか。


「お宝なんて食べられないからどうでもいいゾ。キーアには全然良さがわからないゾ」

「うにににー」


 ただキンデルを嫌悪しているキーアだけはまったく心を動かされておらず、やや苛立ちながらマタベエをきつく抱きしめた。


 彼女からすればどれも自分たちの土地や伝統を奪って稼いだお金で手にしたお宝なので、純粋に美しいという気持ちで見る事なんて出来ないのだろう。


「普通に個人博物館として見ても楽しめそうだな。なんか変なものもあるけど……」


 しかしロビーに置かれていたお宝の中にはちょいちょい違和感がバキバキなものがあったので、俺は思わず足を止めてしまった。


 俺が気になったその絵画は現実世界でも広く知られていた国宝クラスの名画であり、そのままの状態で飾られていたのなら普通に感動していただろう。


「これって……アレだよなあ」


 そう、名画にトマトスープの様なものがかけられていなければ。なお似た様な絵は一枚だけでなく何枚も飾られていた。


 注目を浴びたい環境保護団体はちょいちょい過激なパフォーマンスをするけど、まさかこんなものが後世に伝わっているとは。


「おやおや、その名画に注目するとはお目が高いねぇ、うん!」


 そんなふうにやや呆れながら名画を眺めていると、いかにも成金という見た目のガタイのいいナジム族の男性が現れ陽気に声をかけてきた。


 ……やれやれ、ついに来たか。

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