3-94 夢と欲望の区都ニューナジム
ニューナジムの検問所に向かい、流石にパークバスで中に入る事は出来なかったので俺達は泣く泣く駐車場に停め徒歩で街の中に入った。
ニューナジムは大分県の陽区市がベースになっている様だが、キンデルの手によって最早原形をとどめておらず独自の発展を遂げていた。
こちらもやはりアシュラッド同様車も走っていたが、どれもこれもクラシックカーばかりで、雰囲気的には高度経済成長期の東京と古き良きニューヨークが混ざった感じだろうか。
街を歩く人々は皆オシャレな服で着飾り、住民のほとんどが黒い肌のナジム族と白い肌のサトリ族なので、まるで海外の大都会に来たと錯覚してしまう。
彼らの耳が尖っていなければ、昔のニューヨークにタイムスリップしたと言われても納得するだろう。
また随所に日本要素もあるが、どこかちぐはぐでジャパンタウンの様だ。ある意味ニューヨークらしいと言えばニューヨークらしいけど。
屋台では何の具材を使っているのかわからない虹色のカラフルな巻き寿司が提供され、木造と鉄筋コンクリートの建物が混在し微妙に統一感がない。
一番人気の店はハンバーガーショップらしく、ラフな格好をしたナジム族の若者は巨大なチキンフィレバーガーにかぶりつき、気の合う友人たちと会話を楽しんでいた。
スーツを着たナジム族やサトリ族はカバンを持ってせわしなく動き回っていて時間に余裕はなさそうだが、その表情は皆生き生きとしており希望が感じられるものだった。
「わふー! スタイリッシュでヤンス! 噂には聞いていたでヤンスがここまで都会だったなんて、カルチャーショックでヤンス!」
「でけぇー」
ミーハーなサスケは高層建築物に圧倒され、大はしゃぎしながら天高くそびえ立つ摩天楼を見上げた。
特に背が小さなマタベエにとってこの建物はバベルの塔にも匹敵するのだろう。
だけどキンデルはバベルの塔を既にいくつも作り上げてしまった。
金の力によって絶対的な王となった彼にとっては最早神も人間も恐れるに足りる相手ではないらしい。
「有名な自由のドラゴンでヤンス! お前ヒラタだろでヤンス!」
ニューナジムにはランドマークらしき英雄の像があったが、サスケはそれを見て何故かプロレス史に残る伝説の台詞を言った。
「何でドラゴンさんの迷言を言ったんだ。大分出身だけど」
「そういう習わしだからでヤンスが理由は知らないでヤンス。ザキラさん、知ってるでヤンスか?」
「あれはアンジョの英雄スルト・ドラゴネアの像だ。ちなみに本名はヒラタで、この像を見たらお前ヒラタだろって言うのがお約束なんだ」
「ヒラタって。別のドラゴンさんとヒラタさんが混ざってるぞ」
ザキラいわくあの英雄の像はマレビトか転生者を模した物らしい。
おそらく日本人と思われるヒラタさんがこの世界で何をしたのかは知らないが、多分何か凄い事をしたのだろう。
「ちなみに資料があんまりなくて設計者がイメージで作ったらしく、お披露目された時にこんな奴じゃないって文句が出たそうだ」
「そんな偉人のエピソードがあった気もするなあ」
博識な彼女は自由のヒラタのトリビアを披露してくれたが、その雑学はどれも聞き覚えのあるものばかりだった。
ちなみに見た感じ俺には自由の女神のコスプレをしたレジェンドレスラーにしか見えなかったので、俺としてはお前フ〇ナミだろと言いたくて仕方がなかった。
もしかしたらイメージの素材に自由の女神や本家のドラゴンやヒラタさんも混ぜた結果、こんなみょうちくりんな事になったのかもしれない。
ともあれツッコミどころしかない自由のフ〇ナミはスルーし街の観察を続けよう。
相変わらず随所がへんてこで昭和の珍スポットっぽいが、このカオスなレトロパンクの世界観ではよくある事だ。
「うう、なんだか石ばかりでむずむずするゾ」
「奇遇だな、俺もだよ」
下手をすればこの街は葉瀬帆や崎陽も凌駕する大都市だ。
小市民な俺は久しぶりに目の当たりにした豊かな都会に怯んでしまい、縮こまる事しか出来なかった。
特に民族衣装を着たキーアはかなり場違い感があり肩身が狭い思いをしている。
ナジム族のトレードマークとも言える骨の仮面をつけている人も少数派で、正直違和感しかない。
「これが憧れのニューナジムかあ。にしても人多いなあ。ナーゴ程じゃないけど」
「ニューナジムは実力さえあれば身分に関係なく夢を掴められるそうです。それこそムウマ族でも」
ナーゴこそが世界一と信じて疑わないリアンは意味もなくマウントを取ったけど、カムナは広告のポスターに描かれたムウマ族らしき女優を感慨深そうに見つめていた。
グリードの中でも地位の低いムウマ族でも能力さえあれば夢を叶える事が出来る。
かつてはアメリカンドリームなんて言葉もあったけれど、この場所には確かに誰もが恋焦がれる夢が存在している様だ。
「アメリカ人がこの街を見たら懐かしくて涙を流す人もいるだろうねぇ。今の大都市はどこもかしこも似た様な感じだし。昭和の人間にとってアメリカは憧れの象徴だったんだよねぇ。やっぱり程々に混沌としている街が一番ワクワクするよ」
希典先生は地元ではなかったがこの大都会に懐かしさを感じた様だ。
俺達にとっては見知らぬ街でも、当時を生きた彼にとってはまた過去の想い出を呼び起こすものなのだろう。
「もっとも日本人が見ていたアメリカは全部ドラマや映画の中の世界でただのイメージなんだけどね。エジプトの石板にも昔が良かったっていう記述はある。そんなのは所詮幻想に過ぎないのに、そう思うのはいつの時代も変わらないんだろうねぇ」
「そういうものか? でもお前歳いくつなんだ?」
「鶏皮の美味しさがわかる程度には大人だねぇ」
「そっか、なら大人だナ!」
人類普遍の想いについてキーアは理解出来ていなかった様だが、彼の独特な返しに彼女は尊敬のまなざしを向けた。鶏皮が美味いって思えるなら大人と呼べるのだろうか?
「ただ話がしたいって言われたけどどこに行けばいいんだ? やっぱあのデカい建物に行けばいいのかな」
「ああ、あそこがキンデルの棲み処だゾ」
ニューナジムには嫌でも目に付くエンパイアステートビルを思わせる一際巨大な建物があり、あれがキンデルの居城である事はすぐにわかった。
あの建物に権力を誇示する意味合いがあるのならば、見事にその役割を果たしていると言えるだろう。
タクシーやバスはあるけど場所はわかるから普通に歩いて行けるか。マップ機能も使えば迷う事もないし。
ぐぅー。
「その前に腹ごしらえしねぇか? 腹減ってて」
「のんきだなあ。でもそうするか」
本能に忠実なリアンはいつも通り腹から情けない音を出す。街の雰囲気を確かめるためにそうするのもいいかもしれないな。
「そういやニューナジムには有名なレストランがあったはずだ。金を出してくれるのならアタシが案内するぜ」
「別にいいけど。どうせはした金だろうし」
ザキラもまたこれ幸いと乗っかりタダ飯にありつく。
いくらでもお金があるわけじゃないけど、物価が全然違うし多少の贅沢をしても問題ないだろう。
でも異世界のレストランかあ、どんな場所だろう。留守番組からは自分達だけ美味しいものを食べてって怒られそうだけど。




