3-93 名君キンデルとの交渉へ
三種の神器を無事に集め、俺達は最も重要な目的を果たすためにバスに乗って区都ニューナジムへと向かっていた。
戦いが不得手なニイノ、アマビコ、リンドウさん、モリンさんにはお留守番をしてもらった。皆は残念そうにしていたけど目的は観光なので仕方がない。
キンデルはカジノジイ族長と例の件について話し合いたいと言っていたが、案の定キーアが寄越される事が決まり、俺達は再び彼女を送り届けるためにお使いクエストをしていた。
「ぶすー」
しかし使者として選ばれたキーアは終始不機嫌そうだったのでかなり不満なのだろう。
ガマガンの事を強く敵視していたし、その上司であるキンデルも当然嫌っているはずだ。
「機嫌悪そうだな、キーア。でもなんでお前が選ばれたんだ?」
「キーアは族長の娘だゾ。もしも結婚した相手が偉かったらそいつも族長候補になるんだゾ。だからキーアは村ではそこそこ偉いんだゾ。でも親戚はたくさんいるのになんでわざわざ選ばれたのかキーアにもわかんないゾ」
俺がキーアに選ばれた理由を尋ねたが、彼女にもまったく理由がわかっていなかった様で、その事がより一層不機嫌にさせていた様だ。
「ちょうど偉いからだろ。交渉に寄越す相手は下っ端でも大物でも駄目だ。下っ端なら相手を舐めてるって事になるし、大物過ぎたら反対派から厚遇し過ぎだって文句が出る。交渉事は誰を選ぶかって所から始まってるんだ」
「そんなの知らないゾ。お前の話なんて聞くかってドラゴンスープレックスをすればそれで済む話だゾ」
高貴な身分のザキラは交渉の基本を教えたが、キーアは全く話し合いに応じる姿勢はなかった。これが反対派のメッセージなら最適な人選ではあるけど。
「ですけどそもそも例の件ってなんでヤンスか? オイラ達はちゃんと話を聞いてなかったから知らないでヤンスが」
ただそう尋ねたサスケもそうだが、俺達は今からキーアが具体的にどのような交渉をしに行くのか把握していない。
今までの会話を聞いていればなんとなくわかるが、彼女は面倒くさそうに語った。
「ナジム村がニューナジムに編入するって話だゾ。見返りはいろんな支援とか発展とかそんな感じのアレだゾ」
「いい話のように聞こえるけど……それのどこが問題なんだ?」
話を聞いていたリアンは不思議そうな顔をしてしまう。
それは編入されるだけで莫大な経済支援を受けられ、一見するとかなり有益な話だったからだ。
「そんな事をしたらナジム村はコンクリートだらけになって、カンムリシャモの服も着れなくなるゾ。資源保護がどうたらこうたらって狩りをするなって言ってくるし、仮面をつけるなって言ってくるし、昔から護ってきた土地に変な物を作るし嫌な事しかないゾ!」
「お、おう、スマン」
だがキーアはぷんすかと怒ってその意見を真っ向から否定し、その辺りの事情を知らなかった彼女は気まずそうに謝罪してしまう。
「確かにキンデルはお金を稼ぐのが上手だけど強引過ぎるんだゾ。やれ効率だ文明的じゃないとか言って、あいつはナジム族の伝統も昔からの人間関係も全然大事にしてくれないんだゾ。でも皆お金に目が眩んで……キーアは悲しいゾ」
伝統と発展、どちらが大切だというものでもないが彼女の言いたい事はよくわかる。
特に部族間の対立もあるみたいだし、利益があるからって簡単に受け入れる事は出来ないのだろう。
「キーアはキンデルの事が大嫌いだゾ。でもあれを見たらやっぱり凄いって、どうやっても敵わないって思うゾ……」
キーアの視線の先には彼が一代で築き上げたニューナジムの街があった。
草原に突如として現れた圧倒的な存在感を放つ巨大な高層建築物の群れは、言葉で語らずとも財力の差を見せつける。
煌びやかな大都会には全ての欲が存在していた。人間が富と栄誉を求める以上、その欲望に抗う事は不可能なのだから。
「ニューナジムだっけ。本当によくこんな大都会を作ったもんだ」
俺が遠くにそびえ立つビル群を眺めると、カムナは警戒しながらこう告げる。
「キンデル侯爵は元々貧しい地域の生まれでしたが、実業家として成功し一大で莫大な財を成し、その資金を元手にナジム自治区をアシュラッドに匹敵する大都市に変貌させました。成金と言えばそれまでですが、実力は確かですので甘く見ないほうがいいですよ」
「わかっています。それに最初からそんな事は全然思っていません」
彼女に言われなくとも俺はキンデルを見下してなんていなかった。
持たざる者であったキンデルは自らの力のみでのし上がり、未開の土地に王国を築き上げ巨万の富と絶大な権力を手に入れたのだ。
そんな怪物をたかだか成金と舐める根拠なんてどこにもない。
さて、この交渉がどう転ぶ事やら。
せめてこちらの利益にならなくてもいいから、お互い不可侵条約を結べればそれでいいんだけど。
「わーいわーい」
「……で、なんでお前はここにいるんだ。遊びに行くわけじゃないんだぞ」
「おいてけぼりやだー。ひとりぼっちやなのー」
そしてやはり最大の不確定要素はマタベエが当たり前のように忍び込んだ事だろうか。
彼は悪びれもせず頬を膨らませていたが、ついて来たものは仕方がないし、保護者のニイノの代わりに迷子にならないようにしっかり見ておかないと。




