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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-92 オレ様謹製全自動乾燥フィッシャー魔改造洗濯機

 カジノジイ族長との話し合いを終え、再び外が騒がしくなり様子を見に行くと人だかりが出来ていた。


 もちろん住民たちが見ているのはリアン達が修理した洗濯機だろう。


 俺は真っ先にいつも通りトンデモマシンを作って迷惑をかけたのではないかと考え様子を伺ったが、そこで意外な光景を目の当たりにしてしまう。


「うお、なんじゃこりゃ」


 どうやら待っている間に洗濯機の修理が終わった様だが、洗濯機には素材に使った扇風機やエアコンのパーツが不自然に融合しており、俺はその馬鹿が考えた様な歪な魔改造家電にギョッとしてしまった。


「凄いゾ! 店で売っている奴とは大違いだゾ!」

「これなら雨の日でも乾かせるわね!」

「ドヤァ! これが工業民族ナーゴの技術力だ!」

「上手くいったネェ。ちなみにイナエカロも地味に技術力があるんだヨ」


 洗濯物は取り出した時点で乾いており、キーアや村人からは大好評で、制作者はそれはそれは見事なドヤ顔をしていた。


「どうだトモキ! オレ様謹製全自動乾燥フィッシャー魔改造洗濯機は! 自動で脱水と乾燥もする優れ物だぞ!」

「ちなみにアタシがつけた名前ダヨ。魚類ダカラ」

「全自動乾燥洗濯機ってマジかよ。俺達の世界でも出来たのは割と最近なのに」


 なんとリアンとリンドウさんは壊れた家電を組み合わせ、時代の最先端を行く全自動乾燥洗濯機を作り上げた様だ。


「ルームエアコンのヒーターを上手い具合に組み込んで、リンドウが気球を作る時に作った温熱送風機も合体させたんだ。いやあ、いい仕事が出来たよ」


 現実世界でも世界で初めて発売された時は非常に高額で普及しなかったのに、それをタダ同然のガラクタから作り上げるなんて。


 清々しい汗を流して自分の技術に酔いしれているリアンは、これがどれだけ凄い事なんて理解していないのだろう。


「ちなみに最先端のウルトフィルターを使ってるカラ排水が川を汚したりする事はないヨ。この村はあまり水道インフラが普及してないカラそこはしっかりしておかないとネ。飲めるレベルまで綺麗な排水が出るケド、普通に洗濯やお風呂とかに使うといいヨ」

「よくわかんないけどありがとナ!」

「実はアタシもよくわかってないケドネ。さっきくれたマナイの神籬をちょちょいと改造して作ったノサ。高速回転と同時に濾過するからスピードも爆上がりしたヨ!」


 リンドウさんもしれっとトンデモ技術を披露し、名前からしてウルトの木を用いている事はわかるが普通にこっちも凄い。


 一応こちらの世界でも類似の技術はあるけど普及はしていないし、物の数十分で技術を盗むなんて本当に化け物だな、この人は。


「実際現実世界の全自動乾燥洗濯機もルームエアコンのヒーターの技術を応用して作られたはずだけど……とんでもないな」


 俺は改めてこの世界の技術力の高さに脱帽してしまう。それとも凄いのはこの工業チートコンビの二人の方なのだろうか。


「まれっち、前に異世界の技術は部分的には現実世界を凌駕しているって言ってたけど、これ放っておいたらそのうち全部が現実世界を越える技術力になるんじゃないか」

「放っておいたらね。気球禁止のお触れの裏事情を忘れたのかい?」

「ああ、そっか」


 若干の恐怖を覚えた俺は希典先生に確認したが、彼が笑いながら言ったその一言だけで失念していた事を思い出させてくれた。


 リンドウさんの夫のビンキチさんは世界に変革をもたらしかねない技術を生み出しそうになり消され、気球も飛ばす事が禁止になったんだっけ。


「つまり生み出された技術はある程度までは許容されるけど、脅威と認識されたら連中によって潰されるのさ」

「本当に無茶苦茶だよなあ。つっても流石に全自動乾燥洗濯機が連中の支配を揺るがす事はないだろうし、そこまで怖がる必要もないか」

「どうだろうね。洗濯機が普及すれば家事の労働時間が減り女性の社会進出を推進する。家庭における衛生面も向上し、水道インフラの普及にも間接的に寄与する。洗濯機で洗える新しい繊維も開発されるだろう。お前さんが思っているよりも結構影響を与えるよぉ」

「……………」


 けれどどうせ大した事がないと高を括っていた俺は希典先生の解説で考えを改める。


 確かにこの画期的な技術の誕生を望まない人間は一定数いるはずだ。


 彼女達が消されるには支配者たちがその意思を示せばいいだけだ。


 まさかこんな事で命を狙われる事になるのではないか――ディストピアな現実世界で生きるための心得を叩きこまれた俺はそんな可能性を危惧してしまった。


「ビビんないの。この洗濯機が普及する頃にはもう人類に時代の流れを止める程の力は残されていないだろう。多少の影響力は残っているかもしれないけど、その時には口喧しいだけのクレーマーと認識されているはずさ」

「そうですか」


 だが希典先生が笑いながら教えてくれた未来は思わずクスッと笑えてくるようなものだった。


 それは人類が滅び行く存在だと改めて認識させる事実だったのに、こんな事で笑いそうになるなんて俺もすっかり人間嫌いの性悪になったものだ。


 ――いや、元からか。


 かつての栄華にしがみつくアンジョの子孫も、自らの業で滅びに向かう現実世界の連中も、最早正直どうでもよくなってしまった。


 もしもグリードとアンジョの子孫が対立する事になれば、きっと俺はグリードの方に立つ事を選ぶだろう。


 矜持があるから流石に人を殺す事は出来ないだろうけど。


「洗濯物もふわふわでふかふかだゾ! これでお祝いの三種の神器が揃ったゾ! こんないいものを作ってくれてありがとうナ!」

「へへっ、いいって事よ!」


 俺の悪意に満ちた思考を他所に、親戚への素敵な贈り物を手に入れる事が出来たキーアは洗濯物のニオイを嗅いで大喜びをし、一仕事終えたリアンは鼻の頭の汚れをこすって充実感に満ち溢れた笑みを浮かべた。


 伝統を重んじるカジノジイ族長には悪いけど時代の流れを止める事は出来ない。


 電気もガスも水道もない時代の人々がより豊かになる事を望んだ様に、その願いを止める事は誰にも不可能だ。


 今でこそアンジョの子孫は支配者を気取っているが、保身のために発展を拒み続けた彼らはそう遠くないうちに消え去るだろう。


 ナジム村の人々は魔改造洗濯機の出来栄えに大はしゃぎし、まるで春の訪れを祝うかの様に踊り始めた。


 多少生活様式や服装が変わっても、変えてはならない部分さえ変わらなければ別にそれでもいいだろう。


 ナジム自治区の人々や故郷と伝統を愛するキーアのためにも、出来るだけ目立たない様に立ち回らないと。


 滅びを待つだけの人間である俺が、ドジを踏んでこの世界の人々の平穏な日々を壊さない様に。

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