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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-91 伝統と発展の狭間で葛藤するカジノジイ族長

 その後も洗濯機の修理は続き、途中から明らかに洗濯機には使わないパーツも飛び出してきたので少し不安ではあったけど、長引きそうだったので俺は一旦族長の家に戻った。


「騒がしくしてすみません、カジノジイさん。まだ時間がかかるみたいなのでもう少し待っていただけませんか?」

「いいえ、洗濯機を直してくれている事に感謝こそすれ苦情を言う理由なんてありませんよ」


 外からは溶接作業を行っているのかバチバチと大きな音が聞こえる。


 話し合いをするには騒がしいが、むしろ防音効果になっていいかもしれない。


「ありがとうございます。ただ壊れた扇風機とかエアコンとかも素材に使ってますが、一体どんな魔改造をする事やら。正直どうなるのかわからなくてちょっと怖いです」

「ご安心を。このあたりでは魔改造を施していない家電を探すほうが難しいですから」


 また普通に直すのはつまらないという理由でリアンとリンドウさんは当然の様に魔改造を試みており、俺はカジノジイ族長からクレームが来ない様に事後承諾を取った。


 この世界では普通の事とはいえ、壊れたものは魔改造というこの独特なレトロパンクな価値観に俺はどうにも慣れないんだよなあ。


 頼むから爆発する様なものだけは作らないでほしいものだ。


「では待っている間、トモキさんにお伺いしたい事があるのですが……ブゴッタマーケットでガマガンと会ったそうですね」

「はい。念のため確認しますが彼は敵ではないんですよね。親戚だそうですけど」


 洗濯機の修理はリアンとリンドウさんに任せ、俺は最も重要な件について彼と話し合う事にした。


 これは俺達やナジム村の今後にも関わる大事な事だし、最良の結果になる様判断を間違えないようにしないと。


「敵かどうかは立場にもよりますが……身内びいきを抜きにしてもガマガンは優秀な役人です。キンデルと友好的な部族にとっては彼と同じくらい信頼され、逆に対立している部族からすれば嫌悪の対象となるでしょう」

「そうですよね、そこまで悪そうな奴には見えませんでしたから。意見が違うキーアに対しても害を為そうとはしていませんでしたし」


 ガマガンは見た目こそ悪人っぽかったが、水害の被災者のために寄り添い彼らの生活を支援するため自ら率先して行動し、人々の暮らしを護る役人としての役割を全うしていた。


 ファンタジー作品で出てくる役人は横領をしがちだけど、とどのつまりただのいい人である。それが本来普通の事なんだけど。


「キンデルもガマガンも、余程の事をしなければ敵になる様な人物ではないんでしょうね。余程の事をしなければですが」


 俺は自嘲しながら自らの行いを恥じた。残念ながら俺達は既に余程の事をしてしまったし、民衆の敵だと認識されても仕方がない。


 大量破壊兵器をチラつかせながらいくら敵意がない事を訴えた所でその主張にはなんら説得力はないだろう。


 何故ならそれは銃を突きつけながら人類愛と平和を声高に叫ぶようなものだからだ。


「トモキさん。まずはお詫びをさせて下さい」

「お詫びって、何をですか」

「私はあなたの素性をある程度把握していました。その上でこの村に滞在させたのです。出来るだけその様な事は考えない様にしていましたが、キンデルとの交渉に上手く利用出来るのではないかという下心が全くなかったわけではありませんでした」

「やっぱりそうだったんですか」


 カジノジイ族長は深々と謝罪するが、俺は別にそこまで気にしてはいなかった。


 彼にも部族の長として仲間と故郷を護る責務があるだろうし、それを余所者が偉そうにどうこう言う資格なんてなかったからだ。


「ナジム自治区はレムリアの中でも貧しい地域でしたが、キンデルという傑物によってこの地域は大きく発展しました。一大で莫大な富を築き上げた彼は新たな区都ニューナジムを作り上げ、ナジム村は発展から取り残されました」


 ナジム村は村としては大きいが決して栄えているとは言えない。なんならブゴッタマーケットのほうがずっと発展しているだろう。


「彼女達は今壊れた洗濯機を直してくれていますが、都会に行けばそんな事をする必要はありません。都会には生活に必要なものも娯楽も全てが存在します。多くのナジム族は伝統的な暮らしを捨て、新たな理想郷となったニューナジムへと移り住みました」


 それはキーアやカジノジイ族長の様に伝統を大事にする人間にとっては受け入れがたい事かもしれない。


 しかし仕事を求めて都会に出る事は世の常であり、それ自体は悪でも何でもない自然の摂理だ。


「今回の水害で住む場所を失ったナジム族の多くがニューナジムに移り住みましたが、それは他に選択肢がなかったからです。この村に被害がなかったのはただ運が良かっただけです。大自然での暮らしは一見のどかに見えますが、常に死の危険と隣り合わせなのです」


 平和なナジム村は周囲を荒々しい丸太の塀で囲まれている。


 塀の外には危険な魔獣が存在し、災害に対しても脆弱であり、何かあってもすぐに医療機関にかかる事は出来ない。


 それらの事が理由で命を落としてきた人もきっといたはずだ。


「ナジム族にも様々な考えを持った部族がいます。伝統を護るべきか、発展を選ぶか……意見は真っ二つに割れ、積年の民族間の対立も加わったことで収拾がつかなくなっているのです。最悪再びこの大地が血で染まる可能性もあるでしょう」


 キンデルがどれだけ名君だとしても話はそう簡単ではない。


 ブゴッタマーケットでも根強い不信感や憎悪の感情が伺えたし、水害の混乱も合わさって民族紛争のリスクは極めて高まっているはずだ。


「私は族長として伝統を護る事を選んできましたが、いつまでもこの生活を続ける事は出来ません。ただ私は命よりも伝統が大事とは思えないのです。トモキさん、マレビト様であるあなたは伝統と発展、どちらを選ぶべきだと思いますか?」


 部族を束ねる彼にも様々な葛藤があるのだろう。伝統は確かに大事だが、同時に生活も大事だ。


「俺にはわかりませんね。俺が伝統を護るべきだ、あるいは発展を選ぶべきだと言った所で反発を招くだけでしょう。乱暴な話、当事者からすれば他所から来た人間の意見なんて知ったこっちゃありませんし」

「……ええ、確かにその通りですね」


 カジノジイ族長は俺に問いかけるが、知った風な口をきいて安易に答えを出せるわけもなかった。


 俺はこの村の人にとって伝統がどれだけ大事なのか知らない。


 どのような悲惨な歴史があって部族が対立する様になったのかもわからない。


 ここで部外者がいい加減な事を言ってしまえば、それこそ文字通りの意味で戦争に発展する可能性もあったのだから。


「俺は名指しで呼ばれているので会いに行くか断る以外の選択肢はないですけど、カジノジイ族長から見てキンデルは闇討ちをする様な人間でしょうか」

「キンデルは領土と民を護るために他者を犠牲にする決断が出来る人物です。必要とあらばそうするでしょうが、彼はそうせず交渉を選びました。話し合いが上手くまとまれば無用な争いを避けられる以上の対価が得られるでしょう」

「そうは言っても、そんな傑物相手に上手くいくとは思えませんけど」


 キンデルは優れたリーダーとして世界を支配するアシュラッドの支配者たちや他の領主たちと対等以上に渡り合ってきた怪物だ。


 現実世界で例えるならば、大国相手とタメを張る新興国の指導者の様なものだろうか。


 そんな化け物相手ではたとえ一流の外交官だとしてもどうする事も出来ないだろう。


 ましてや俺は管理者権限以外特別なスキルを持っていない普通の学生であり、いいように利用されるオチが目に見えている。


「おやおや、しょうもない話をしてるね。俺っちの力は借りないのかい?」


 カジノジイ族長と話し合いをしているとどこからかふらっと希典先生が現れた。


 彼はずっと参加したかったのだろうか、不満そうに口をとがらせていた。


「いいえ。あんたはいいです。あんたの力を借りる事は、つまりはそういう事ですから」

「あっそう」


 けれど俺は話を一切聞かず、手が差し出される前に言葉だけで跳ねのけた。


 おそらくカムナにそうした様に武力を用いた交渉をするつもりなのだろう。


 だがそれは交渉とは呼べない。


 たとえ世界の全てが手に入ろうとも、それはこの世界に住む全ての人々の平穏を奪ってまで手にする様なものではなかったからだ。

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