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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-88 キンデルの側近、ガマガンとの出会い

 キーアと良さげな洗濯機がないか探していると、随分と身なりの良い金持ちのナジム族の男が現れ、リッチなデザインの石板をブラックカードの様にデン、と出した。


「よーし、ここにある洗濯機を全部買おう」

「え? は、はい! ありがとうございます!」

「んゾ!?」

「お?」


 気持ちが沈んでいた店主もまさかこんな神様の様な人間が現れるとは思っていなかったのか、急いで引き渡す準備を始めた。


「ってガマガン! 何してるんだゾ! それキーア達が見てた奴だゾ!」

「ん? なんだキーアか」


 またその爆買いをしたナジム族はキーアの知り合いだったらしく、彼女は狙っていた商品を横取りされた事に激高したが、相手はなんともふてぶてしい見下した笑みを浮かべた。


 ガマガンという男はナジム族らしからぬ体型でよく言えば重量級のレスラーの様な、悪く言えば肥満体型の男だった。


 ガマガエルの様な顔はお世辞にもルックスが良いとは言えず、高そうなスーツも絶望的に似合っていない。


 急に金が入った成金は金の使い道がわからないので最初にブランド物の衣服で着飾るが、彼は見るからに服に着られていた。


「キーアの知り合いなのか?」

「知り合いっていうか親戚だゾ。キーアは先祖代々の土地をキンデルに売ったこいつの事が大嫌いだゾ!」

「使い道のない土地を有効活用して金に換えてやったんだ。文句を言われる筋合いはねぇな」


 キーアとガマガンには因縁があったらしく、不穏な空気が流れてしまう。こういうのはちゃんと周りと話し合わないと確実に揉めるものだ。


 経済発展が著しいアフリカ地域でもこういう手合いの人はいたけど、彼もまたルールを一切気にせず時流に乗って成功を収めた人間なのだろう。


「大体伝統伝統ってそんなものが何になる。そんな仮面をつけて裸みたいな恰好をしているからナジム族はいつまでたっても蛮族だって言われるんだ。お前もスーツとかブランド物を買えば少しはモテるんじゃないか?」

「うるさい! お前こそ全然スーツが似合ってないゾ! せめてナジム族なら仮面をつけたほうがいいゾ! 恥ずかしくないのか!」


 彼はいわば信頼と親族の絆を金で売ったのだ。


 部外者があれこれ口出しすべきではないけど、確かに金に目が眩んだガマガンはキーアにとって許せないのだろう。


「つーか欲しかったら見てないでさっさと買えっての。タイムイズマネーだぜ? 俺はルールに則って買っているだけだ」

「でもそんなにいらないはずだゾ! 買ったものをどうするんだゾ!」

「はっはっは、被災者に売りさばくんだよ! もちろん手数料は受け取らずに通常時の価格の半額以下の値段でなァ!」

「そ、そんな!? んゾ? どういう意味だゾ?」

「いや普通にいい奴だった!」


 しかしガマガンは悪人顔をしていたのに、やっている事は滅茶苦茶まともだった。


 てっきり災害に便乗して割高で転売するのかと思っていたけど、やっている事は普通のボランティアだったからだ。


「一応仮設住宅を作ってる最中だけど追いついていなくてな。キンデルさんが復興支援も兼ねて自腹で買い漁ってるんだよ。ここで商売をしている連中には被災者も多いからな。ほれ、向こうでトール教会の連中が炊き出しもやってるだろ?」

「なんか疑ってすみません。人は見た目で判断するものじゃないですね」


 俺は心底彼等の振る舞いに感心してしまう。


 キンデルが名君として名高い事は知っていたが、身銭を切ってまで人々を救おうとしているのか。まったく、現実世界の政治家先生にも見習ってほしいものだ。


 ガマガンの語った通り、バザーの一角では聖職者らしき人達が炊き出しを行い民衆が嬉しそうにだご汁っぽい食べ物を食べていた。


 ザキラからは悪い評判しか聞かなかったが、トール教会は教会らしくちゃんと普通の慈善活動もしている様だ。


 ドロドロしているのはあくまでも上のほうだけなのかもしれない。


「ああ、ありがとうございます、イナンナ様!」

「いいえ。お辛いでしょうが、私達は常にあなた達に寄り添い続けます」


 またその中には位の高そうな女性の聖職者が被災者相手に語り掛け、女神の様に微笑んでいた。


 俺達の世界でも宗教の指導者が似た様な事をしているけど、信心深い人が多いこの世界なら感涙にむせび泣くほど嬉しい事に違いない。


(にしても……聖職者なんだよな?)


 ただイナンナというシスターは聖職者には不釣り合いな程フェロモンを漂わせていた。


 メンバー随一のぱふぱふの持ち主であるカムナをも凌駕しており、彼女がムウマ族だと言われても何も驚かないだろう。


「つーかお前誰だ? キーアのコレか?」

「いえ、通りすがりのマミル族です」

「そうか。人が話をしてるのにイナンナ大司教に鼻を伸ばしていたし、もしうちの身内を誑かす不届きな輩なら山に埋めてたがそういう事ならいい」

「す、すみません」


 ガマガンは初対面の俺に怪訝そうな眼を向けたが、その暴言はキーアへの愛を感じるものだった。


 どうやら確執があるとはいえ向こうは彼女の事を特段嫌悪しているわけではないらしい。


「いいぜ、わかるぜ。男なら仕方ないよな。でもイナンナ様ってあんななりでも一応トール教会の物凄いお偉いさんなんだぜ」

「ハハ……はい」


 また彼は思わずぱふぱふに目を奪われてしまった俺に優しく語り掛ける。そのたった一言でガマガンに心を許しほのかな友情が芽生えたのは内緒だ。


 だけどいい人だとしても彼はキンデルの部下だ。


 もしも俺がお尋ね者のマレビトだって気付かれたらすぐにでも逃げないといけないけど、正体はバレてないよな。


「それよりキーア、例の件でキンデルさんが族長と話したがってるって伝えてくれよ。代理でも構わねぇからとにかく人を寄越せってさ」

「いーやーだーゾー!」


 ガマガンはキーアに言伝を頼もうとしたが、彼女はいー、と歯を剥き出しにして悪態をついてしまい、その取り付く島もない態度に彼は困った様に頭をポリポリと掻いてしまう。


「それとあんたもだ、マレビト様?」

「ッ!?」

「じゃあな。こっちは仕事があるからその気になったらニューナジムに来い。確かに伝えたぞ」


 ただ彼は最後にそう告げ、戸惑う俺を放置しその場を去ってしまった。


 どうやらガマガンも彼を差し向けたキンデルも最初から気付いていたらしい。


 上手くやり過ごせるかなと淡い期待をしてはいたけど、やっぱりそんな馬鹿な相手じゃないか。


「んゾ? マレビト? 何言ってるんだゾ?」


 キーアは何もわかっていない様子でポカンとしていたが、すぐにでも皆と今後の事について話し合わないといけない。


 結局俺達は最初から彼の手のひらの上で踊っていた様だ。どうやらキンデルは俺が思っていた以上に油断ならない相手だったらしい。

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