3-86 駄菓子のチョイスバトルと、誰しもが知る残酷な大人の世界
本編そっちのけで駄菓子のチョイスバトルが始まり、俺は特に迷う事無くパパっと選択してヨカバイで購入する。
こんな昔ながらの駄菓子屋でもカードに対応しているっていうのは少し驚きだったが、ファンタジックな世界観なのに相変わらず俺達の世界よりも少し先を進んでいるなあ、と感心してしまった。
「結局皆好きな様に買ったんだな」
だが駄菓子を選ぶセンスで勝負するはずが、皆好き放題買ってしまったのでジャッジ出来なかった。
ただ一応勝負なので皆が買ったものを見てみよう。
「ぼくはドロップのかんづめとクッキーのかんづめとジュースのかんづめをかったよー」
「すげぇな、これいつのデザインだよ。マ〇ーって昔はこうやって売ってたのか」
缶詰コレクターのマタベエは予想通り昔懐かしの缶詰系のお菓子を購入したが、ドロップ缶の文字は右から読む古いタイプのデザインで、サイダーの缶ジュースも今では見かけなくなったプルトップ式だった。
だが一番驚いたのはあのビスケットが細長い缶詰に入れられて売られていた事だった。
他の多くのお菓子同様現代では紙箱で売られているが、どれもこれも歴史を感じてしまうものばかりだった。
「一発目でこれって今回の大会は荒れるぞ。お前は企画をよくわかっている」
「えへへー、ありがとー」
「むむ、ウチらのも見てください! ディーパえびせんにイナエカロ自慢のフ〇ーレットもありますカラ!」
ニイノ達は負けじと家族で選んだ駄菓子を提示する。
カラフルで可愛らしいフ〇ーレットも含めてこれも概ね俺達の世界で見かけるものと同じだったが、俺はその中で気になるものがあったのでそれに言及した。
「からいも飴?」
「ああコレカイ? カザンマ出身のヒョウスベさんが前にくれたのサ。結構美味しくて気にいってネ」
選んだ駄菓子の中には鹿児島のローカル駄菓子のからいも飴もあり、渋いチョイスだと思ったがリンドウさんが選んだ物の様だ。
「後は同じカザンマ繋がりでこちらも。これもヒョウスベさんがよくくれたんですよ」
「うぉ、親子そろって渋すぎるな」
もう一つ、アマビコは同じく鹿児島に本社がある求肥とボンタンを用いた駄菓子を選んだらしい。
ご丁寧にオブラートで包まれており、あまりの再現具合にこちらにも感動してしまう。
「うちの地元は有名な菓子どころだからな、かなり悩んじまったよ」
「ザキラさんの地元ってスクワロルでしたっけ。甘いものとしょっぱいもののバランスがとれてますね」
ザキラが選んだお菓子はハッピーが戻ってきそうな米菓と、あまり買わないけど実家に帰ったら大体あるお菓子のランキングで堂々の一位を獲得したお菓子で、調和のとれたチョイスをカムナは称賛した。
どちらも新潟に本社を置くお菓子会社の看板商品だが、俺はそのやりとりでザキラの地元が新潟であると察してしまった。
やはりこの世界でもお隣の市とマウント合戦をしていたりするのだろうか?
「けどカムナ……いいセンスだな。あったな、そんなの」
「えへへ、ありがとうございます」
「しゃきーん」
ちなみにカムナは数字の8の形をした独特な包装が特徴的な糖衣錠チョコレートを購入した。
なおマタベエはもちろんそれを目に当ててヒーローっぽい見た目に変身し、当時の子供のあるあるネタを再現していた。
「んで、お前らは……期待を裏切らないな」
「文句あるか?」
「だってこんなのがあったら買いたくなるでヤンス!」
「わかるぜ。俺も昔この類のお菓子を買った事があるからな」
リアンとサスケのコンビは特撮ヒーローのカードがおまけでついてくるスナック菓子と、やはりおまけ付きのキャラメル菓子を購入したらしい。
「ところでずっと疑問に思ってたんでヤンスが、このパッケージに書かれている人間のモデルって誰なんでヤンスかね」
「初期の奴は特定のモデルはいないらしい。後はいろんな人をベースに作られたそうだ」
「ほへー」
俺はついでにキャラメル菓子の雑学を教える。
ちなみにモデルになった人の中には国営放送のドラマのモチーフにもなった人もいるそうな。
「お、鶯〇ールも買ったのか。関西限定なのにこっちの世界にあるなんて。後で少しくれるか?」
「ああ、なんか無性に欲しくなってな。それ相応の対価は貰うぞ~?」
「はは、わかってるよ」
またリアンは関西人にとっては馴染み深いかりんとう系のお菓子を購入しており、少額のお菓子を買って交換の用意をしていたおかげで交渉のテーブルに着く事が出来た。やっぱ戦術って大事だな。
「なんかおいしそー」
「はいはい、キノコにもやるから」
「俺っちにもくれるかい、リアンちゃん」
「ってまれっちもか? 酒には多分合わないぞ」
「いいじゃん別に。俺っちだって普通の駄菓子くらい食うよ」
マタベエもまた交換したくてうずうずし、更には希典先生まで物欲しそうにしていた。
昔関西圏に住んでいた俺としては、他の地域で知名度が皆無なお菓子がこんなに人気が出てちょっぴり嬉しい。
「んで。キーア、お前はポ〇コとと〇がりコーンで何してるんだ?」
「ごめん、なんかつい! 食べ物で遊んじゃいけないってわかってるのにやってしまったゾ!」
キーアは購入した成型スナック菓子を指輪の様にはめていた。
現実世界の人間も同じ事をしていたけど、異世界人も考える事は同じ様だ。そりゃこんな形状のお菓子があればそうしちゃうよな。
「でもモリンのそれデカいナ! なんだそれ?」
「レムリア一長いチョコですポ。これを作ってるローゼンブルグはリーボルトのご近所さんなので地元でもよく見かけましたポ。あとニンジンのポン菓子も買いましたポ」
モリンさんは二十センチくらいある長いチョコ菓子を購入し、キーアはその規格外の大きさに度肝を抜かれてしまう。
だけどニンジンのパッケージのポン菓子って、そういえばそんなのあったなあ。
「ん? 次は俺っちなの? つってもまあ面白みはないけど」
「なあ、駄菓子ってルールだったよな。手羽先と漬物に見えるのは俺だけか?」
「駄菓子だよ。どっちも特定の地域の駄菓子屋に売ってるから。酒のつまみにはいい感じなのよぉ」
希典先生が選んだ駄菓子は真空パックに詰められた手羽先と桜色の大根の漬物だった。
だが社会通念上それらの物は駄菓子と定義付けられないだろう。
「さーて、散々いちゃもんを付けたトモキは何を選んだんだ?」
「大トリでハードルが上がってる中で申し訳ないが、残念ながらそこまで奇をてらったものじゃない」
満を持して、と言う程でもないが俺が選んだのは主に関西を中心に販売されている駄菓子だった。
ラーメンのスナック菓子が入っている小さなカップにはわかりやすい中国人のイラストが描かれており、よくある当たり付きの駄菓子である。
「ちなみに当たりが出たら現金と交換出来るぞ。対応している店限定だけどな。こっちの世界でもそのシステムがあるかはわからないが」
「マジでか。って事は当たりを出せばぼろ儲け……!?」
「運よく連続で当たればな。普通に内職でもしたほうが儲かるだろうさ」
俺が教えた換金システムはリアンにとっては衝撃的だったらしく、彼女は悪だくみをしたがすぐにそれは現実的ではないと否定をした。
そもそも実際に交換するとなると勇気が必要だし、今の時代ではあまりする人はいないけど。
「……待てよ? なあまれっち、この駄菓子に鑑定スキルを使えばどうなるんだ?」
「イカサマは人として止めておきな、智樹ちゃん。ダークヒーロー路線でもそれはちょっと違うでしょ。第一まだレベルが足りないから出来ないし」
「ですよねー」
しかし攻略法を発見しそうになり、まれっちに意見を伺うと普通に怒られてしまう。
もしかしたら鑑定スキルのレベルをあげればイカサマが出来るかもしれないけど、駄菓子如きでやるのは流石に大人気ない。
「じー、アニキ、これ……」
ただその話を聞いていたサスケは、駄菓子屋に置かれていた当てくじと俺の顔を交互に見つめる。
よくある大物の商品で釣って他はガラクタというパターンのラインナップだが、特等に社会現象にもなった携帯ゲーム機を置いているあたり商売のやり方がわかっているらしい。
「やっていくかい? 一等は本物のアンジョの遺産だよ!」
「いえ」
優しそうな店主のおばあちゃんはニコニコと笑っていたが、俺は悪いと思いつつも当てくじを鑑定スキルで見てみる。
スキルを使っても中身はわからなかったが、くじの数と商品の数が一致しない。つまりはそういう事なのだろう。
「……うん、わかっていたさ。何がとは言わないけどね」
「ああ。皆そうやって社会の厳しさを学んで子供から大人になっていくんだよぉ」
「やらないでヤンス?」
俺の寂しげな眼差しに全てを悟った希典先生は優しくポン、と肩に手を置いた。
まだこの世界の醜さを知らない純粋なサスケに残酷な真実を告げるのはもう少し後にしておこう。




