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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-39 初めてのバトルとツンデレ気味なリアン

 リアンは盗賊というだけあってかなりすばしっこく、マップ機能があっても追いかけるのがかなり大変だった。


 敵との戦いを想定しているせいか城は迷いやすい構造だし、ホントマップ機能様様だよ。


 屋外に出た彼女は先に到着して王国兵と交戦しており、裏庭を大きく移動しながら義手から針を連続で射出し攻撃していた。


 だが重武装した敵はもちろん大事な所はちゃんと鎧や兜で護っているのであまり効果はなく、手足を負傷させる程度の事は出来ても決定打に欠け苦戦しているっぽい。


 もう一人、舎弟のサスケもまた小刀や手裏剣で応戦しているが似た様な理由で防戦一方になっていた。


 どちらもスピードタイプなのでのろまな重装兵の攻撃を避ける事は容易だったがこれじゃ永遠に勝負がつかないな。ただ逃げる分には何も問題はないし、相手にせずとっとと脱出すればいいのに。


 本音ではM9で遠くから安全に攻撃したかったがこれでは誤射のリスクがある。気が進まないが同田貫を使ったほうがいいだろう。


 相手が使っている武器は竹刀ではなく刃のついた真剣だ。この世界はゲームの世界ではないので痛みも恐怖も死も確かに存在する。ビビりな俺はこの期に及んでまだ覚悟が出来なかった。


 大丈夫だ、俺の武器は全部見掛け倒しで人は殺せない様に出来ている。なので少なくともそちらに関しては何も問題ないはずだ。


 何よりも上手くいけば俺もリアンも死なずに済む。それでも逃げるというのか。もう一度惨たらしい姿になった愛理の姿を見たいというのか。


 わかっている、願いをかなえるために自分がすべき事は。だというのに死を病的なまでに恐れる臆病者の俺にはまだ決心がつかなかった。


(あれは……)


 うじうじと悩みながらマップ越しに様子をうかがっていると、リアンの義手の薬指に俺がプレゼントしたルビーの指輪を付けていた事に気が付いた。


 この世界で宝石はただのガラクタであるというのに……ちゃんと捨てずに取っておいてくれたんだな。


「……やるか」


 彼女がルビーの指輪を付けている事に大した意味はなかったかもしれない。だがその事実は俺に決断させるには十分であり、ようやく覚悟を決めた俺は息を殺して裏庭へと突入した。


 相手は重い装備のせいでやや動きが遅いのでこれなら何とかなる。


 裏庭に到着した俺は膝を曲げて地面につくほど低い姿勢で居合の構えを取り、一気に踏み込んで無防備な王国兵に背後から急接近した。


「があッ!?」


 同田貫を鞘から抜くと同時に紫電がほとばしり、逆袈裟斬りの一太刀によって屈強な王国兵は攻撃された事にも気付かず一撃で沈められる。鎧で身にまとっていたとしても当てればいいだけなので関係ない様だ。


「な、なんだ!?」

「こいつマレビトッ」


 不意打ちに敵が右往左往している間に素早く得意技の抜き胴。相手の装備は剣道着よりもずっと重いはずなのでまあまあ余裕だった。


「このッ!?」


 タイ捨流っぽくくるりと回って最後に背後から斬りかかった兵士に一発。敵は力なく倒れ、全身から呪いの紫電をバチバチと放ちながら痙攣していた。


 念のため確認するが全員死んではいない。一応現実世界にもテーザーガンやスタンロッドはあるが、そんなものとは比べ物にならないほど強力かつ安全だ。いい武器を手に入れたものだよ。


「た、助かったでヤンス~!」

「おー! お前やるじゃん! ん?」

「あ、ああ……」


 それはそれとしてリスクのある行動が滅茶苦茶怖かった事には違いなく、サスケとリアンが勝利に歓喜し安全が確保された状況になっても、心臓はバクバクと爆発しそうなほど大慌てし刀を持つ手の震えも止まらなかったけど。


「それじゃあ急いで脱出するでヤンス! ていっ!」


 そんな俺の想いに気付かずサスケは脱出を優先、鉤縄を高い塀に投げつけいそいそと登って行った。まあまあな高さがあり落ちる可能性もあるのによくあんな風に縄だけでひょいひょい登れるものだ。


 続けてリアンも義手の先端を塀の上目掛けて射出する。発射された左手はワイヤーで繋がっており、同じ様に塀を掴んでワイヤーを巻き取って上に登った。


「おい、トモキも早く登れって。何ボサッてしてるんだよ」

「わかってるよ」


 しかし怖いのならばなおの事ここから脱出しなければならない。俺はサスケの鉤縄を掴んで上に登ろうとしたが、手が震えていたせいで上手く登れずにずり落ちてしまう。


「何やってんだよ、全く」

「あだっ」


 その体たらくに呆れたリアンは左手を飛ばし無理矢理俺を引き上げる。外壁にぶつかって結構痛かったが、手っ取り早く登るにはこれが最善だったんだろうし多少手荒だとしても受け入れよう。


 だがその痛みと、間近で義手の指にはめられたルビーの指輪を見た事で俺はようやく落ち着く事が出来たんだ。


「助けてくれた事には礼を言うけど、美人局をした奴を助けるなんてテメェはお人よしにも程があるな。え、まさかまだオレにホレてんの?」


 リアンはクスクスと若干ウザさを感じる笑みを浮かべこの状況を茶化した。


 俺が彼女を助けようとした最大の要因は愛理と酷似していたからだが、お淑やかな愛理は間違ってもこんな笑い方をしないはずだ。


「それを言うならお前もだろ。なあ、リアン。どうしてさっさと逃げなかったんだ。二人なら余裕で逃げられただろう」

「え? それは、うーん」


 塀の上に登った俺が最初に抱いた疑問を尋ねると彼女はあからさまに目をそらした。おそらくその理由はあまり人に聞かれたくないものなのだろう。


「あ、それはでヤンスねむぐっ」

「言うな」


 その答えをご機嫌な様子のサスケが代わりに教えようとしたが、リアンは義手を飛ばして彼の口を塞いだ。


 威力は調整出来なかなか便利な使い方が出来るらしい。こたつで寝転がっている時物を取るのに役立ちそうだ。


「ひょっとして二人は、俺を助けるために待っていてくれたのか?」

「んー、まあ……いやお前がいないと宝が回収出来ないし! 勘違いするなって!」


 その指摘にリアンは一瞬言い淀んだので正解だったらしい。だが彼女は思い出したかのように理由を述べ意地悪な笑みを浮かべた。


「お、それってマニュアルに載ってたツンデレって奴でヤンスか!? 姐さんはツンデレでヤンス!」

「もういいから黙れ! とっとと脱出するぞ! お前もキショイからニヤニヤするな!」

「はは、そうだな」


 サスケは姉御の貴重な姿を見れて眼福といったご様子だったが、それは俺も同じだったので思わずだらしない顔になってしまった。


 リアンがツンデレかどうかはわからないが、危険を冒してまで出会ったばかりの俺を助けようとしてくれるあたりどうやら根は物凄く優しい様だ。


 愛理と比べるとあらゆる面で大きく異なるが、やっぱりリアンは愛理が全ての記憶を失い転生した存在、もしくはマレビトで彼女そのものなのではないか――俺はそんな事を思ってしまった。


『青春してるねぇ。んじゃ脱出経路までナビするよー。マップを確認しながら自力で頑張ってねぇ』

「ああ、こんな危険な所はごめんだ、今すぐにでも脱出しよう」

『はは、死亡フラグだよ?』

「安心しろ、俺は死亡フラグくらいじゃ死なない。人間の生への執念はそんなもんじゃどうともならねぇよ」

『そいつは頼もしいねぇ』

「誰と話してるでヤンス?」


 さあ、サスケとも合流出来たしこれで後は脱出するだけだ。


 彼への説明は道すがら適当に済ませるとして、俺たちは早速まれっちが用意してくれたガイドを頼りにその場から急いで立ち去った。

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