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1-3 異世界転生したクラスメイト達に手向けるささやかな愛

 適当に時間を潰して学校に移動し、有刺鉄線付きの校門で銃を持った守衛さんに挨拶した後、昇降口で靴を履き替え移動するもやはり登校している生徒はほとんどいなかった。


 人がいないのは時間帯だけではない。うちの学校も昔は賑やかだったらしいが随分と寂しくなったものだ。


 昇降口の近くには数年前にこの学校に在籍していた先輩たちの集合写真が写っており、やはり男女とも同じデザインの制服を着ていていた。復興支援に派遣される前に撮影したのだろうか、髪型も似た様な感じだし全員同じ顔に見えるよ。


 うちの学校も昔はオシャレな制服だったらしいけど、性犯罪を助長するだの護る為だの男女平等だの男女差別だのそんな理由で日本からスカートやセーラー服は絶滅してしまった。ここに写っている女子生徒もまたもうとっくに死んでいるのだろうけど、当時難癖をつけて喧しく言っていた人は果たしてこのような未来を求めていたのだろうか。


 三階の教室に移動すると俺はようやく一人の同級生を発見する。彼女は机の上に置かれた一輪挿しのガラスの花瓶に水を注ぎ、儚い程に白い水仙はかすかに揺れ喜ぶ仕草をした。


「今日もご苦労さん、愛理」

「あ、智樹君、おはよう」


 ジョウロで花の面倒を見ていた友人の常盤ときわ愛理あいりはいつもと変わらない笑みを向けた。彼女は手際よく他の机にも移動、同じ様に花瓶に水を注ぐ。


「毎日大変だろ。別にやんなくてもいいのに。異世界に行った奴はどいつもこいつもこっちの世界の事なんて考えちゃいねぇよ。こないだ死んだ奴も学校を出ていく時にハーレム王に俺はなるってバカ騒ぎしてたじゃねぇか」

「かもね。だけど何かそうしたかったから」


 その虚しい献身を俺は咎めるも、愛理は死者を悼む事を忘れない。死者に花を手向ける、その様な文化は死を恐れなくなったこの国ではすっかり忘れ去られてしまったというのに。


「それに吹奏楽部の大会も無くなってする事もないからね」

「そういや中止になったんだっけ。つーか大抵の部活がそうだけど。野球部の連中もグラウンドが接収されたってボヤいてたなあ。うっかりそれを校長に聞かれて反省文を百枚くらい書かされたらしいけど」


 俺は教室の窓からグラウンドを眺めると、そこには土嚢が積まれ装甲車が数台停車していた。サバゲーが好きな奴なら実に理想的な環境ではあるが、野球の練習は出来そうにないだろう。


「はぁ~」

「ん」


 重苦しい空気の中、深いため息をついている悪友の鉄兵てっぺい他が教室に現れ、気まずい空気を変える意味合いも込めて俺は声をかける事にした。


「随分とテンションが低いな。あ、おはよ」

「おはよー、愛理ちゃんもありがとね」

「おはよう。いつもありがとう」

「うん、おはよう」


 ついでに友人の仲村渠なかんだかりヒカリと山田にも軽く挨拶をしてと。二人は律儀に同級生を悼む愛理に感謝の言葉を述べるが、鉄兵のメンタルはそれどころではなかったらしい。


 今日が最期の登校日なのは鉄兵も同じだ。やはり彼もまた思う所があったのだろう。ここは友人としてフォローしたほうがいいかな。


「聞いてくれよ! 新しい嫁を見つけたのにまたサ終しちまったんだよぉ!」

「そうか」


 だが彼が絶望していたのはしょうもない事だった。今のご時世でなくてもよくある事である。ソシャゲをしている奴は誰もが経験する事だけれど、こうして大抵のプレイヤーは課金しなくなるんだよなあ。


「うーん、やっぱ炎上しちゃったアレのせいかなあ」

「だろうなあ。確かにあのシナリオはちょっと、いやかなり攻めてたからNAROに目を付けられても仕方ねぇよ。今までもちょいちょいヤバそうなのがあったし」


 山田はネットで物議を醸したあの騒動を思い出し、鉄兵もおそらくそうなのだろうと原因を考察した。


 アニメ、小説、音楽、映画、ドラマ、テレビ番組……あらゆるサブカルが国によって管理されている今の時代、秩序を乱すルール違反は殺されても文句が言えないくらいご法度な行為だ。その禁忌を侵した瞬間、NAROの連中が飛んできて情け容赦なく叩きのめされる。


「ああ、ババーラ! 散々グルコサミンを貢いだだろ! 毎日デイサービスにも連れてやっただろ、金返せェ!」

「ババーラ?」

「メインヒロインの名前だ。こいつがやっていたソシャゲはババマスって作品なんだが、ヒロインが全員七十代以上なんだ。んでマツコセブンってアイドルグループが期間限定シナリオで『若者よ選挙に行っちゃノンノン!』って歌を歌って大炎上したわけだな」

「へ、へー、それはまた随分と門戸が狭いっていうかニッチっていうか。サ終したのってそっちが原因じゃ」

「ぶっちゃけ俺もそう思う。新しけりゃいいってもんじゃないからな」


 俺が詳しく知らないヒカリにそう解説すると彼女は至極真っ当な答えに辿り着いた。熟女好きは確かに存在するがそれにも限度があるだろうし。


 しばらくすると貴重な同級生が続々と教室に入って来るが、それでも埋まった席は三分の一程度だった。


 だがもちろん彼らは愛理に感謝もせず、そのうちの一人の女子生徒が机に置かれた花瓶を気にせずちょうどいい場所にあった席に座りだべり始めた。


 ここはお前の席じゃないのに。俺はその事に思う所がなかったわけではなかったが、注意するのも面倒くさいので窓際の席に座る事にした。

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