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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-80 夢の残滓が残る教室

 今回の依頼はいわゆるお使いクエストなので品物を納品してお金を受け取り、それでお祝いの品物を購入して持って帰れば達成出来る。


 だがこんなに楽しそうな場所ですぐに帰るのは実にもったいない。


 ブゴッタマーケットの周辺には興味をそそられるものもたくさんあるし、ほどほどに観光をしてから帰るとしよう。


「ていてい」


 マタベエは店先にあった昔懐かしパチンコの様な十円ゲームをカチャカチャと動かし、釘によって不規則に動くボールを上手にゴール地点まで運ぼうと頑張っていた。


 市街地には昭和の象徴でもある三輪オートも走っており、人々が行きかう狭い道を走る様は少し危なっかしいが、活気に溢れるその光景は高度経済成長期の日本となんら変わりはなかった。


 店先には流行の最先端である花柄のワンピースも売られており、オシャレを覚えた年頃の少女は彼氏らしき少年に自慢をし、恥ずかしそうに眼をそらして何かを言った。


 けれどそのリアクションが気に食わなかったのか少女は照れながらポカスカと少年を殴ってしまう。


 どういうやり取りをしたのかはわからないが、きっと昭和の映画みたいに歯の浮く様な事を言ったのだろう。



 かつてはなんらかの観光にまつわる施設だったのだろうか、俺が訪れたアンジョの遺構には昭和にまつわるものも展示されており、御神体として置かれていた黎明期のロボットアニメの置物が出迎えてくれる。


 気持ちはわかるけどまさかこんなものが御神体になるとは。


 けれど長い年月によって劣化は進んだ事でまるで本物の偶像の様になり、俺も思わずブゴッタマーケットを見守ってくれる魔神や鉄人に手を合わせて拝みたくなってしまう。


「うーん、いいでヤンスねぇ。新しい今の時代のロボットもいいでヤンスが、オイラはどっちもいける口でヤンス。姐さんはどっちが好みでヤンスか?」

「ふむ、オレにそれを聞くか」


 少年の心を持つサスケはもちろん時代を彩ったロボットの英雄に心を奪われ工業系のリアンに質問するが、


「デザイン性か機能美か、どのジャンルでも技術屋にとっては永遠に終わらない論争なんだ。だからあえて答えよう、つまんねー事聞くなよと!」

「ね、姐さん……!」


 メカへのこだわりが強い彼女は全てのロボットアニメファンの争いを止めるために毅然とした態度でそう言い放ち、大局を見据えた英雄の力強い言葉にサスケもまた何かに目覚めてしまった様だ。



 木の香りが漂う昔の教室を模した部屋には木製の椅子や机が並べられ、その郷愁に訴えかけるノスタルジックなニオイは俺の心の奥底に眠っていた記憶を呼び起こした。


 意外と言う程でもなかったが、希典先生は教室の椅子に座って頬杖をついていた。


 こんななりでも一応教師だし、教室にいるのが自然と言えば自然ではあるけど。


「……………」

「てっきり懐かしいねぇ、とか言ってはしゃいでいるかと思ってましたけど。先生好みの場所をチョイスしましたが、ちゃんと楽しんでますか?」

「別に。懐かしいっちゃあ懐かしいけど、どちらかと言えば虚しいって想いの方が強いかな」


 俺は独り寂しく教室にいた希典先生に声をかけたけど、あまり楽しんでいる様には見えなかった。


 先生ってこんな顔するんだ。何も考えていないように思えるけど、やっぱり何かを考えているんだな。


「俺は昭和の子供じゃなのに、どうしてこの光景をこんなにも懐かしく感じるんでしょうね」


 少し気まずくなり、俺はそれっぽい事を言って話題を変える。きっとここから出たらまたいつも通り飲んだくれのダメ教師に戻ってくれると信じて。


「それはきっと遺伝子に当時の人々の想いが刻み込まれているからだろうね。あの時代を生きた人間の記憶は血肉となりお前さんの全身に存在しているからさ」


 記憶は脳だけではなく細胞や血液にも宿るとも言われている。その学説の真偽はさておき、彼の言葉はそういう科学的根拠とは全く関係ないだろう。


「お前さんの命はお前さんだけの物じゃない。何千年にもわたって受け継がれてきた命なのさ。だから生きる権利を安易に放棄してはいけないんだ」

「ましてやそれを他の人間から奪われるなんて事もあってはならないんでしょう。今のご時世だと言葉の重みが違いますね」


 希典先生の命の授業は古い教室というシチュエーションも相まって、戦時中という設定のヒューマンドラマの様だった。


「だけどもう当時を生きた人間は皆過去の存在になっている。想い出も記憶も生きた証も時が止まったこの場所の様に、ただの抜け殻として存在する事しか出来ないのさ」


 希典さんが何を願って変革を起こそうとしたのかはわからない。けれどもう彼の夢は永遠に叶う事はない。


「この場所は俺っちにとって夢の残滓なのさ。懐かしさの果てにあるのは虚しさだけなんだよ」


 でもどうしよう、からかうつもりでやってきたのになんかそういう雰囲気じゃないよなあ。こんな状況でさっき買った駄玩具を渡せるわけがないし。


「トモキ! あっちに面白いものあったゾ!」

「うぉう!?」


 そんなぼんやりした状況だったので、俺は背後から襲い掛かるキーアに全く気が付かなかった。


 だが問題はそのせいで俺が手に握りしめていた駄玩具が希典先生の机にピョン、と落下してしまった事だ。


「ふむ、これはまた」

「えーと」


 そのカエルの駄玩具はポンプを押して空気を送り、飛び跳ねさせて遊ぶ玩具だ。わかる人にはわかるが、昭和の時代に作られた何が楽しいのか全く分からない玩具である。


「リアクションに困るねぇ。これで物ボケをして欲しいのかい?」

「そういうわけじゃなくて……」


 俺も正直なんでこれを持ってきたのかわからない。せめて動きのあるものならよかったが、一番困っていたのはこんなものを渡された希典さんだった。


「よし、こういう時は困った時のマタベエ頼みだ。これやるから好きに遊びな」

「よんだー?」


 希典先生はリアクションを諦めて何かと便利なマタベエを召喚する。


 好奇心旺盛なマタベエは不規則な動きをするものに猫が興味を示す様に、カエルの玩具に釘付けになってしまう。


「ほへー。ていていっ」

「……ありがとう。お前は俺の恩人だよ」

「どういたしましてー?」


 無邪気な彼のおかげで救済され、収録でクソスベった時に助けて笑いに変えてくれたベテラン芸人に感謝する様に俺はただただ頭を下げる事しか出来なかった。


 きっとこんな感じで福岡を愛する岡崎さんも、いろんな芸人さんから信頼を勝ち取ったんだろうな。


「それでキーア、一体何の用だ?」

「ああ、玩具とか食べ物がたくさん売ってるお店があったから、ついでにお土産に買っておこうかなって」

「そっか。まれっちはどうします?」

「そうだねぇ。酒のつまみになるものがあれば回収しておこうか」


 俺が尋ねると、彼は何事もなかったかの様によっこいせ、と面倒くさそうに椅子から立ち上がる。


「あれ? 何それ、美味しそうなカエルだね」

「トモキくんからもらったー」

「いいナー。ふむふむ、ルアーに使えるカモ」


 しばらくして教室にやって来たアマビコとニイノにマタベエは自慢し、彼女は実用的なアイテムとして認識したらしい。


 緊急時のサバイバルではキーホルダーや缶のプルタブをルアーにしたって話も聞くし、やろうと思えばなんだって使えるけど、残念ながらこの予想外のリアクションは俺が求めていたものではない。


 俺はひとまずこの失敗を忘れる事にし、気を取り直して本編を進めた。

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