3-77 クエスト・三種の神器を集めよう
姿を見せたカジノジイ族長と対面した俺達は座布団に座り、彼と膝を交えて話を聞く事にした。
それにしても遠くで見ても凄かったが近くで見ると改めて凄まじい筋肉だ。
この村に住むナジム族は生活スタイルの都合上筋肉質な人が多いけど、ボディビルの大会に出場すれば何もしなくても優勝出来るだろう。
「わざわざご足労いただきすみませんね、トモキさん。それにまれっちさんも」
「いいって事よ。昨日しこたまタダ酒を飲ませてもらったからねぇ」
「それで俺に用事っていうのは」
俺はやや緊張しながらカジノジイ族長に用件を聞く。
この人が悪い人ではないのはなんとなくわかるが、細かい事情を抜きにして目の前にこんな威厳のあるマッチョがいたら誰でもそうなる。
「不躾な申し出で申し訳ないのですが、実はあなたに頼みたい事があるのです」
「頼みたい事? 俺にですか?」
彼は頼み事があると言ったが、俺と希典先生は普通の人間ではなく管理者権限という特別な力を持った人間だ。
もしかしたら危険な事を頼まれるのではないかと一瞬無礼な事を考えたが、狂戦士っぽい風貌に似合わず聡明な族長はすぐにその考えを見抜いてしまい、俺を安心させるために笑ってこう言った。
「そう畏まらなくてもいいですよ。あなたは娘の恩人であり客人です。どのような事情があろうと、その様なお方に無礼な態度を取る事はありません」
「それって……いえ、ありがとうございます」
どうやらカジノジイ族長はお尋ね者である俺の事情を察している様だ。
俺が世界の平和を脅かす危険人物だという情報はその情報の性質上一部の人間のみに共有されているらしいが、もしかしたらこの人も知っているのかもしれない。
だがそれを知った上でこんな態度を取るというのは何故だろう。
敵意はなさそうだが利用するために媚びている様子もないし……まずは話を聞いてみるか。
「昨日の宴はナジム族の風習に由来するものですか、同じくナジム族の風習で子供が生まれた際、相手の家にお祝いの贈り物をするという風習があります」
彼はナジム族の風習について教えてくれたが、そうした風習は特別なものではなくどこにでもある。
地域によって内祝いのルールやベビーシャワー、家畜や銀のスプーン等独自の物はあるが、どこも子供の誕生を祝福しコミュニティの繋がりを強めるという想いは共通している。
キーアいわくかなりの大家族らしいし、毎回贈り物をするとなるとかなり大変そうだが、伝統を重んじる族長にとってそれは当然やらなくてはいけない義務と認識している様だ。
「キーアにはこれから相手の家に贈る三種の神器を集めてもらいますが、トモキさん達にはその手伝いをしてほしいのです」
「三種の神器ですか。子供のお祝いにしては随分と仰々しいですね。お使いクエストで集めるものでもないですし」
ただ彼が所望したアイテムはなかなかぶっ飛んだものだった。
三種の神器とは日本神話に出てくる草薙剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡の三つを指すが、流石に日本でもそんな国宝レベルのものを贈る風習はない。
「実際かなりお金がかかるので近頃は簡略化しています。代替品としては自由な使い道があるお金が一番多いですね」
「まあ、一般家庭では普通そんなものは買えないでしょうからね」
俺は値段を想像してみるが、データが全くないので一切算出する事が出来なかった。
先程は国宝レベルと形容したが、三種の神器はそもそもプライスレスでお金で買えるとかそういう次元の代物じゃない。
「そうか? 確かに三種の神器は結構高いけど店に行けば普通に売ってるゾ。中古なら安いし」
「え、三種の神器ってそういう立ち位置なの?」
だが不思議そうなキーアはなかなかショッキングな事実を告げた。どうやらこの世界ではその辺で売っていて誰でも買えるものらしい。
「トモキちゃん、なんか勘違いしているみたいだけど、この場合の三種の神器は昭和の三種の神器だよぉ。テレビと冷蔵庫と洗濯機のほう」
「あー、そっちですか」
けれど希典先生は笑いながら三種の神器の正体を教えてくれた。なんだ、三種の神器って本物じゃなくて教科書に載っている奴だったのか。
「ハハ、もちろん神代のアンジョの遺産ならば全財産を失うくらいの値段がついているものもありますが、私が欲しいのは今の時代に作られたものです。今や家電は生活に欠かせないものですからね」
とんでもない勘違いをしてしまった俺は猛烈に恥じてしまい、カジノジイ族長もおかしそうに笑った。
うう、これは流石にないよな。そういえばこの世界はそういう世界観だったんだ。そんなファンタジーな展開あるわけがないし、少し考えればわかるはずなのに。
「これからキーアにはブゴッタに向かって家で作った民芸品やワインを納品し、そのお金で必要なものを買い揃えてもらうつもりです」
「あれ、これってアマビコの魔よけですか」
「ええ、この村でも作っているんですよ。食べるために養殖しているので、そのついでに」
「へえ……」
民芸品の中には冒頭でも出てきたアマビコの飾り物もあった。養殖場とはなかなか進んでいるけど、そんな最先端の技術と伝統的な風習が混在しているのは何ともちぐはぐである。
「トモキさんには娘の護衛をしてもらいたいのです。水害の影響もあり近頃は何かと物騒なので、やはり父親としては心配なのですよ」
「まったく、そんな必要ないのに親父は心配性だゾ。盗賊とか魔獣が出てもキーアは強いからやっつけられるゾ!」
どうやらカジノジイ族長はそのままの意味でお使いクエストを頼みたい様だ。
キーアは彼を安心させるために力こぶを作ったが、実際あんなバカでかい斧を振り回すくらいだし並みの雑魚敵なんて相手にもならないだろう。
だけどここでも水害の事を聞くとは。ひょっとして窃盗団とか略奪行為が横行している地域でもあるのかな。
モッコスではそういうのはあまりなかったけど、不届きな輩がネズミ君に追いかけられていたから全くないわけではないのだろう。
社会が混乱した時は犯罪が多発しがちだし、しばらくはその事に留意して行動したほうがいいかもしれない。
「もちろん報酬は用意しています。成功した暁には市場には滅多に出回らない特上のナジムワインをお譲りしましょう」
「そしてそのワインを受け取った俺っちはお前さんにイイコトをしてあげよう。やってくれるかい?」
現実世界でもこのあたりのワインは品評会で受賞する程度に評価されていたが、酒に目がない希典先生にとっては是非とも欲しいものなのだろう。
きっと昨日の宴で仲良くなった時に安請け合いしてこういう展開になったんだろうな。
「俺は別に大丈夫ですよ。あとイイコトはちゃんと実益のあるものでお願いします。俺を村に快く招いてくれたキーアとカジノジイさんにも恩返しをしたいですし」
なんだか希典先生にいいように利用されている気もするけど、それで機嫌を取って甘い汁を吸えるのなら安いものだ。
何より彼女達には一宿一飯の恩義もあるし断る理由は特になかった。
「おお! トモキはいい奴だゾ! お礼にキーアがイイコトをしてやるゾ!」
「え!? いや意味わかってる!?」
喜んだキーアは俺に抱き着いて頬ずりをした。
これは彼女にとってはただのスキンシップでじゃれついているだけなのだろうが、やはりそれなりに露出度も多くスタイルもいいので童貞には結構しんどいものがある。
「トモキちゃん、無知っ子への催淫は同人作品の中だけにしておきなよ」
「しませんって!」
「サイイン? ドージン? ってなんだ?」
希典先生はこれでもかとからかい俺は全力で否定した。ああもう、無垢なキーアに変な知識を植え付けないでほしい。
「仲が良いようで何よりです。ですが娘はまだ嫁入り前なので節度を持ったお付き合いをお願いしますね」
「は、はひ」
カジノジイ族長もニコニコと笑いながらも娘にまとわりつく悪い虫に対して妙なプレッシャーを放ち、威圧された俺は即座に逆らうという発想を捨てた。
むやみやたらと力を誇示する人よりも、結局こういう人が一番怒らせたら怖いから親父さんだけは敵に回さないでおこう。
もしこんな筋肉ダルマな親父さんと戦ったら確実に半殺しにされるだろうし。




