1-38 アシュラッド城からの脱出・その2
マレビト様から盗賊にジョブチェンジした俺は、盗賊の先輩であるリアンと一緒に無人の城をスタコラサッサと撤退する。
「見事に誰もいないなあ。なあトモキ、部屋に入って金目の物をアイテムボックス? に突っ込んで来いよ」
ヌルゲーにも程がある状況に欲をかいたリアンはそう提案するが俺はいや、とすぐに断った。
「やめておこう。離宮から増援に寄越された兵士や地下に閉じ込めた兵士が一気に散らばった。逃げる分には問題ないがそんな余裕はない」
「どうしてそんな事がわかるんだ?」
「固有スキル的なアレだよ」
彼女にはマップ機能も説明していないのでそれは極めて不可思議に映ったはずだ。ただ管理者権限でどうのこうのと言っても理解出来ないだろうし、俺は適当にはぐらかすだけにとどめておいた。
「いや固有スキルって言われても。やっぱマレビト様だからか? 流石だな」
「そういうこった」
この世界ではマレビトも転生者もチートを有する事は無いそうだが、リアンは取りあえず勝手にそう結論付け納得した。
「サスケ、宝とついでにトモキを無事に回収した。予定の場所で合流しよう」
『流石でヤンス、姐さん! オイラはもう先に待っているでヤンスよ!』
しばらく進んで安全を確認したリアンは、パーカーの裏側に仕込んでいた猫の形のバッジを掴み仲間と連絡を取る。何となく聞き覚えのある声だがひょっとしてハニトラの時一緒にいたあの犬耳のショタだろうか。
「トモキ、これから城の裏手に移動する。そこで仲間が待っているから城の外に出る、」
『ってひゃぁああ!?』
「サスケ!? どうした!?」
「ん」
だがリアンが脱出経路を伝えようとしているとバッジからサスケの悲鳴が聞こえた。
俺はすぐにマップを開き、サスケと思しきショタが人気のない場所で王国兵と交戦している様子を確認する。
彼もまた手練れで忍者の様に素早い動きで相手を翻弄していたが、敵は四体いてやや苦戦している様だ。
「くッ!」
「リアンッ!」
リアンは詳細な説明を聞く前に駆け出してしまう。仕方がない、チュートリアルがてら俺も助太刀に向かうとするか。
「まれっち、サポートを頼む。どうせそっちで見ているんだろうけど何かあったら伝えてくれ」
『それはいいけどお前さんは戦えるの? その武器は確かに殺傷能力がない。ただ智樹ちゃんは剣で斬られたら普通に死ぬからね』
「……わかってる」
けれどまれっちは俺が出来るだけ考えない様にしていた事を指摘した。これから俺が始めるのは命のやり取りであり、敗北者には死が待ち受ける実戦なのだから。
『なんなら約束を護らず自分だけ逃げるって事も出来るねぇ』
「けど戦わなかったらリアンや彼女にとって大切な人が死ぬ。もっとヤバい状況ならともかく、幸いにして物凄くピンチってわけでもないし逃げるにしても今じゃないさ」
『ふぅん。なら好きにしな』
俺の決断を彼女はさほど興味なさそうに受け入れた。この感じだと姿は見えないがきっと鼻をほじっているんだろうな。
人生で初めての命のやり取りだ、誰も死なせない様に気を引き締めてかかろう。




