3-74 新緑の大地の朝靄が見せた幻
宴から一夜明け、村内に停車したパークバスの車内で一夜を過ごした俺は清々しい朝日を浴びて目覚めた。
早朝の時間帯だったので皆はまだ眠っていたけれど、俺は思わず太陽に導かれる様に村の外に出てしまう。
サバンナには黄金の太陽を遮る人工物は一切無く自然本来の姿がそこにあった。文明的な物に疲れた人々にはとても魅力的に映るだろう。
いつもなら野生動物が危険だとか思いを巡らせて渋るはずなのに、その時の俺は驚くべき事に何も考えていなかった。
昇る太陽と共に一日を始め、楽園の様な光り輝く世界で清らかな風を全身で感じ、時間に縛られず大自然と共に自由に生きる。それはなんと満ち足りた日々なのだろうか。
「こんな果てしなく広がる美しい世界を見てしまえば、人間がいかにちっぽけな存在であるのかを否が応でも理解してしまうだろうねぇ」
村の外には希典先生もいて、その時の彼は珍しく酒を飲んでいなかった。先生にとって酒は現実逃避の道具だけど、今はそんなものは必要ないからだろう。
「人間は世界でもっとも優れた生命体じゃない。人間がこの世界で繁栄したのは地球にとっては瞬き程度の時間で、そう遠くないうちに滅び去って地球に還っていくんだろうねぇ」
仙人である彼は既に人間を超えた存在となり、その魂と心は世界と一体化していた。
いつか彼の様な境地に至り、全ての煩わしい想いから解放されたのならばどれだけ幸せなのだろうか。
「戦争で死んでいった人々に世界が何かを想いを馳せる事は無い。そこに善悪の価値観はなく、大地は新たな命を芽吹かせる養分として吸収するだけだ」
機神兵の残骸には草木が芽吹き、インパラの様な生き物が生きるために草を食んでいた。その下に眠る名もなき兵士の骸の事など何も考えずに。
「全ての人間は世界にとって皆平等にどうでもいい存在なのさ。雑音の様な人間がいなくとも世界は存在し続けて変わらずに悠久の時が流れ続ける、ただそれだけだよ」
「ですがそんな人間のいない世界が心の底から美しいと思える俺は、もしかしたら異常者なのかもしれませんね」
ああそうか、どうして無意識に外に出てしまったのかわかってしまった。
俺はほんの一瞬とはいえ、自分が命ある存在だという事を認識していなかったのだ。
「これから俺っちはナジムワインを買いに行くけど、お前さんも村をぶらついてみるかい? サブクエストも受注出来るかもよ」
「そうですね、そうしましょうか」
だけど希典先生はブレずに酒を所望し、その相変わらずのアル中っぷりに俺は思わず笑ってしまい本来の自分に戻る事が出来た。
この危うい願いは朝靄が見せた幻なのだろう。俺はそう思う事にしてそれ以上考えるのを止めた。




