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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-35 盗賊リアンとの再会

 非常ベルが鳴り響く絢爛豪華な城内はすっかり寂しくなり、マップを確認しつつ俺は悠々と宝物庫へと向かう。


 唯一お偉いさんが集まっている離宮エリアは兵士の数が増えたが、警護のためあの場所から動く事もないだろうし大丈夫そうだ。


 ただクライはカムナや強そうな兵士と何かを話している。おそらくは最高責任者として何らかの指示を下したに違いない。


 しばらくしてカムナは女王たち要人の護衛に付き、一部の兵士は城へと移動を開始したので長々とこの場所にとどまっていれば見つかってしまうだろう。


 今の俺は丸腰だし、仮に武器を持っていたとしても相手は城を護りそれなりに実戦経験もあると思われる精鋭だ。一人くらいならまだしも数人がかりで来られてしまえばかなり厳しい事になる。


 とはいえ離宮と城は結構距離がありまあまあ時間には余裕がある上に、マップで相手の動きは丸わかりなのでそこまで窮地というわけではない。焦らずに行動すれば何も問題ないのでさっさと用事を済ませるか。


「宝物庫はここかな……ん?」


 俺はマップを見ながら目的地である宝物庫周辺に辿り着いたが、宝が詰まった部屋の中で猫耳パーカーを着た人間が怪しげな動きをしている事に気が付いた。


 向こうからは俺の姿は見えないはずだが、第六感で何かを感じ取ったのかくるっ、と振り向き俺と目が合ってしまう。


「リアン?」


 印象は大分変わってしまったがその少女はついさっき俺にハニトラを仕掛けたリアンであり、奪ったリュックに魔石やアンジョの遺物であろう華やかな陶磁器をこれでもかと詰め込んでいた。


 なんで彼女がこんな所に。いや、ハニトラをする様な悪人が城の宝物庫にいる理由は一つしかない。


 目つきが鋭くなったリアンは左手の義手を構え臨戦態勢に入った。もしもドアを開けたらその瞬間アイアンフィンガーをお見舞いするつもりなのだろう。


 ただ目的を達するためにはどうしてもドアを開けなければいけない。俺は気が進まなかったが勢いよくドアを開けた。


「ぐべぇッ!?」


 すかさずリアンが宝物庫から飛び出すがもちろんこうなる事はわかっていたので、手前側に開いたドアに隠れていた俺は顔面にウエスタンラリアットをお見舞いする。


 だが後ろに倒れた彼女はバック転で後方に下がりまたすぐに態勢を整えた。けれどリアンは侵入者が俺だと気付くや否やん、と訝しげな顔をしてしまう。


「トモキ? なんでお前」

「自力で脱出した。俺も目的は一緒だしケチケチするな。俺からせしめたブツもプレゼントしてやるからお互い水に流そうや。どうせお前一人じゃここにあるものは全部持って帰れないだろ」


 ここで彼女と喧嘩しても特にメリットはなく、無用な争いを避けたかった俺はとにかくヘラヘラ笑いながら下手に出て交渉をした。


 不意打ちには成功したがくどい様だが今は丸腰、短いやり取りでズバ抜けた身体能力と反射神経の持ち主である事は一目でわかったし、ステゴロで戦って勝てる相手ではない事は明白だったからだ。


「ふーん、お前も意外と悪党だったんだな」


 幸いにして交渉は成功、リアンは警戒を解いて構えを解除した。ふう、ひとまずは安心かな。


「俺たちがいた世界はずる賢く生きてナンボだからな。俺は生きるためなら多少の悪事は受け入れるタイプの人間なんだ。実際前の世界でもグレーな事はしていたし、同じ穴の狢の俺にお前の事をとやかく言う筋合いはない」

「随分と寛大なお方で。流石はマレビト様だ」

「こんな意地汚い使わしめがいてたまるか。俺は神様でも天使でも英雄でもない。金だけ受け取って兵役逃れをして生きる事に執着する卑怯者さ」

「違いない。お前らは皆高慢ちきで何の苦労もしていない奴ばっかだって勝手に思い込んでいたけど、トモキはこっち側だったのか」

「そういうこった。マレビト様がこんなんで幻滅したか?」


 リアンにはもう攻撃の意思がないと確認した俺は早速宝物庫のお宝を物色する。


 彼女の会話の節々にはアンジョやマレビトに対する敵意が感じられたので、やはりこの世界の貧富の格差や階級制度に強い不満を抱いているらしい。


 モリンさんもそういうグリードは結構いるって言っていたし、きっと探せばいくらでもいるんだろうな。


「いや、むしろ今まで会ったアンジョで一番親しみが持てるな」

「そっか」


 しかしその受け答えは大正解だったのか、彼女は俺を同類と認識し友好的な態度に変化した。被害者と加害者なので間違っても友達になれる関係ではないだろうが、俺もなんだか嬉しいよ。


「だけどアンジョに対してここまで嫌悪感を抱いてるって事はリアンもグリードなんだよな。俺にはお前が人間に見えるんだけど……」

「オレはナーゴ族だよ。あるじゃん、ここに猫耳が」


 だがその点だけが少し疑問だったので俺がそう尋ねると、彼女は可愛らしい猫耳パーカーをちょいちょいと指さした。


「それただの服の飾りだよな。それとも正直者にしか見えないのか?」

「心はナーゴ族だ」

「ああそう」


 けれどリアンは頑なに自分がナーゴ族であると言い張ったので俺はその主張を受け入れた。特にそこまで興味はないし、アンジョへの嫌悪感を考えると何かしらの理由があるのだろうから深く追求しないでおこう。


『仲良くしているところ悪いけどとっとと薬とか武器とか使えそうな物を回収しな。別に根こそぎ持って帰ってもいいけど、お金に関してはしばらくすればいくらでも手に入るからあまりそっちは気にしなくていいよぉ』

「了解」


 リアンとの会話を済ませた所でずっと黙っていたまれっちから連絡があり、俺はすぐに生きるために必要な物資の回収を始める。

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