3-42 作家としての葛藤
道路は倒木や崩落などで通行不能になっている場所が多々あり、陸路は思った以上に時間がかかってしまう。
交通インフラの整備は国家運営の要だが、その国家の主役である人類が滅亡しかけているので仕方ないだろう。
「なー。オレ達って今からどこに向かってるんだ?」
「知らずに乗ってたんですポ? ヒムカだそうですポ」
長時間の移動で疲弊したリアンはモリンさんから目的地を教えてもらった。ヒムカとはもちろん日向、宮崎の事だ。
宮崎は果物や日本神話にちなんだ名所等はあるが正直強豪ぞろいの九州では地味な部類に入る。かといって最下層というわけでもないから絶妙に弄り難い。
「ヒムカ! いいデスネ~! デートスポットもたくさんありマスヨ~! アンジョさんが初めて新婚旅行した場所だそうデスヨ!」
恋に恋するニイノが言っているのは坂本龍馬の逸話だろうか。諸説ありとかそういう野暮な事は言わないほうがいいか。
「後は焼酎だね。九州はどこも美味い酒しかないからねぇ、楽しみで仕方がないよぉ」
「お前はそれしかないのか。つっても結構距離あるだろ。黄金列車で空を飛んで近場の駅まで行けないのか?」
また宮崎は言わずと知れた酒処なので希典先生はかなり楽しみにしている様だ。疲れた様子のザキラはそんな彼を適当にあしらい、素朴な疑問を尋ねた。
「移動手段はいろいろあるけど、その駅を使える様にするために行くのさ。その後適当に観光してからナジム自治区に行くって感じだね」
「しゃーねぇか。着いたら起こしてくれ」
ザキラは寝る事を優先し福岡名物に〇かせんぺいアイマスクをして瞳を閉じる。
当たり前のように取り出したが、この独特なデザインのアイマスクはその辺で売っているのだろうか。
「智樹ちゃんも小説のネタでも考えたら? 時間だけはあるし」
「だな」
景色を見てもいいが移動中は暇だ。希典先生のアドバイス通り、俺は瞳を閉じてネタ出しをする事にした。
熊本での冒険で小説のネタに使えそうなものはたくさんあった。
水害、ラーメン丼のエピソード、タイガーウルフの言い伝え、ステゴドン、優しい王様のマンプク、この辺が妥当だな。
(けど……)
しかしそのネタは全て良質だがどれも災害に絡んだものだ。誰も見る人間がいないとはいえ、果たしてそんなものを題材にすべきなのだろうか。
当事者でもないのに、縁もゆかりもない自分が安易にそんな小説を書いていいのだろうか。
ネタはいくつか浮かんできたが、そのたびにその考えがよぎって沈んでいく。
窓ガラスには静かに雫が垂れた。どうやら雨が降り始めた様だ。




