3-40 心優しきもふもふな暴食王マンプク
腹いっぱいになるまで豚骨ラーメンを食べ食後の余韻に浸っていたけれど、悲しい事に終わりの時が訪れてしまった。
「さっききいたけどいまからキンデルさんがくるって」
「ちー」
「え、キンデルくんが?」
「ええ、現地視察に訪れるようです。ナジム自治区からも復興支援のために応援の兵士を寄越すと。またトール教会の方々もいらっしゃるようです」
「そっかー、うれしいな」
「ん」
ボランティアスタッフのもふもふ君達は楽し気に会話をしていたが、話を聞くとどうやらこのあたりで最も権力を持ったキンデル領主がやってくる様だ。
「まったくですよ。もうキンデル様やマンプク様がポンコツ女王に変わってこの国を治めて欲しいものですね」
「もー、だめだよー、そんなこといったら。わるぐちはよくないよー」
「はは、すみません」
アンジョに不信感を抱いていたキガン族の男性は思わず本音を漏らしてしまい、もふもふ君に注意されたがその気持ちもよくわかる。
キンデルは見捨てられた人々に公共事業として給料を払い、更には直接被災地に訪れ民の心に寄り添う事の出来る名君だ。
だがそんな立派な領主が俺みたいな極悪人のお尋ね者を見逃すはずがない。こりゃ鉢合わせになる前にそろそろずらかったほうがいいな。
「行くぞ」
「ほえ? もうちょっとゆっくりしたいですポ~。ポン?」
たくさん食べてお腹がポンポンになったモリンさんはすぐには動けなかった。ただ律儀に待っている余裕もないので俺は彼女を脇に抱えて運んだ。
「すみません、モリンさん」
「ま、しゃーねぇか。オレ達もザキ姉も訳アリだしなあ」
「だな。美味いモンも食ったしとっとと行くか」
賞金首のリアンもだが、貴族との結婚式をブッチした破戒僧のザキラも見つかれば面倒な事になるはずだ。最悪メンツを潰したとして処刑とかされそうだし、反対する人間は誰もいなかった。
「んじゃ、お前さんもいくヨ」
「むにゃー」
リンドウさんは幸せそうに眠るマタベエを抱えて席を立つ。皆持ち運ぶのに便利なサイズで助かるよ。
「このままのふくじゃだめかな」
「いまはじじょうがじじょうだし、キンデルくんはそのへんをきにしないけど……でもそうだね、マントとおうかんくらいはかぶっておこうかな」
リーダー格のもふもふ君は粗相がない様に正装をする事に決めたらしい。災害時は総理大臣でも作業着とヘルメットを被るものだけど、彼は妥協して王を象徴する最低限の装備品を身に着けた。
エプロンに大黒天をイメージした王冠とマントという姿はちんちくりんで威厳はまるで感じられない。もしもこいつが高貴な身分と言われても誰も信じないだろう。
「マンプク様、もうすぐキンデル様がいらっしゃるそうです!」
「わかった、すぐにいくねー」
(ん?)
しかしマンプクという名前のもふもふ君は何故あんな立派な物を身に着けているのだろう。キンデルの事を君付けと呼んでいたし、実は結構凄い人だったのだろうか。
「モリンさん、もふもふ族でマンプクって名前の人を知ってます?」
「え? はい、もちろん知ってますポ。天下の台所こと商都ウェンバの領主をしている伯爵様ですポ。龍帝タイロン様に次ぐ大物なのでこの世界の人は誰でも知ってますポン」
「……マジっすか」
衝撃の真実に絶句している俺には一切気付かず、マンプク伯爵はのほほんとした顔でフードコートを後にして相棒のネズミ君と共にキンデルの元へと向かった。
貴族ならばもう少し威張り散らかしてほしいが、臣下と混じって汗水を流して働くなんて、この世界の貴族は聖人君主しかいないのだろうか。
「ご馳走さまでした、マンプクさん!」
「ありがとねー!」
「えへへー、すぐにもどってくるからまっててね」
「ちー!」
しかもマンプク伯爵の正体を最初から知っていたであろう民衆からも滅茶苦茶慕われてるし。
それに引き換えポンコツ女王といいクライといい人間サイドにはクズしかいないし、もう彼らはとっととこの世界から滅んだ方がいいかもしれない。
もしかしたらそのうちグリード達による革命が起きるかもしれないが、もしそうなっても俺は何もしないでおこう。正直あんな奴らを助けてやる筋合いはないし。




