3-39 熊本ラーメンで満たされる心
フードコート跡地に戻り、俺はもふもふ君に事のあらましを伝える。
「そっかー、よごれたみずをなんとかすればだいじょうぶなんだね」
「ええ、それで呪いは防げるはずです。なので飲み水にも十分気を付けてください」
結局呪いは存在しなかったものの、伝承はある意味では正しかったのでどう伝えようか迷ったけど、俺はその辺に気を使いながらそうアドバイスをした。
博物館の入口は洪水によって壊れてしまったが、それはそこかしこに汚れた水が溢れかえった事を意味している。
これが正しかったかどうかはわからないが、俺は人々の安全のために怪異を利用させてもらう事にした。
「しらべてくれてありがとねー。おれいにチャーシューふやしておくよー。はいこれ」
「そりゃ嬉しいな」
安心したもふもふ君は、上機嫌で完成した熊本ラーメンを持ってきてくれた。
目の前に置かれると湯気と共に旨味が凝縮された悪臭が鼻腔に侵食する。濃厚こってり豚骨スープには黒いマー油が浮かび、全身に染みつくくらい強烈なニオイは苦手な人も多いが慣れれば最高だ。
超ド級の濃厚スープは背徳感しかなかったが、凄まじいカロリーは飢えた身体に生きる気力を与えてくれる。
俺は勢いよく豚骨スープと共に歯ごたえのある細麺をすすり、透明な脂をまき散らした。
健康という価値観で縛られているが、元より全ての生物には食欲が備わっている。今はただ本能のままに食らい尽くすのみだ。
「お前滅茶苦茶美味そうに食うなあ」
「う~、オイラも早く食べたいでヤンス!」
リアンは生き生きとした俺の様に若干引いていたが、提供されるのを待っている間羽根つきの餃子をパリ、とかじった。
「おいしいものがたべれるってきいてやってきたよー」
「むう、ずるいデスヨー、自分達だけ美味しいものを食べテ!」
しばらくして別行動でボランティアをしていたマタベエ率いる留守番組もやってくる。やはりこの万物を魅了するハイカロリーなニオイは異世界人も引き寄せてしまうらしい。
「ふぁらおまへらも食べへば?」
首から証明書をぶら下げている皆にももちろん食べる権利はあったけど、ラーメンに夢中になっていた俺は適当に返事をする事しか出来なかった。
「ああ……酒が飲みたくなるねぇ」
「お前はいつも酒を飲んでるだろ」
希典先生は切なそうに餃子をはむはむと食べ、馬鹿馬鹿しい感想を言ったので唐揚げを食べていたザキラはツッコんでしまう。
どうでもいいがカルラ族のザキラが鶏肉を食ったら共食いになる気もするけど、今までも普通に食べていたし俺は何も言わない事にした。
「こっちにも頼む!」
「まだー?」
「えへへ、美味しいね!」
「たくさんあるからおなかいっぱいたべてねー!」
もふもふ君達はせわしなく動き回り、ボランティアスタッフ兼避難民の人々のために料理を提供した。
健康に悪い背徳グルメ然り、暴食は罪とされるがそこに悪徳は一切感じられない。
飢えた人々はただただ無我夢中で胃袋にご馳走を詰め込み、欲望が満たされた事で絶望は容易く平らげられてしまう。
豚骨ラーメンと餃子のニオイが少しばかり強烈だったが、美味しいものを食べて生きるための力を取り戻していく様は美しさしかなく、楽園以外の何物でもなかったんだ。




