3-38 疫神の祠の調査
俺はまず騒動の中心となった疫神の祠に向かうため街の人から聞き込みをする。
場所はすぐにわかり、住民たちは気は確かかと戦々恐々としていたが、B級ホラーで死ぬ考古学者の様に適当にあしらい、徒歩数十分程度で俺達は目的地に到着した。
「ここが疫神の祠かあ。面白い比喩をしたものだ」
草木が生い茂った博物館、もとい疫神の祠は名前の割には美しく、恐ろしさは微塵も感じられずむしろ神秘的だった。
災いをもたらすものとして厳重に封鎖されていた様だが、洪水が発生した結果土砂が流入したのだろう、お札っぽいものが張られた入り口は見事に破壊され、欲深いコソ泥のリアンですら中に入るのを躊躇していた。
「うぐ、入っていいのかコレ」
こんなセキュリティではその気になれば誰でも入れたはずだが、今まで荒らされなかったのは畏怖の感情が理由なのかもしれない。
もしかしたら禁足地にして中の物を護る為にタイガーウルフの伝承が語り継がれていたのかもしれないな、と俺は勝手に考察をした。
博物館はそこまで大きな規模ではなく、軽く案内板を見ると郷土の歴史にまつわるものや自然にまつわるものを展示していた様だ。早い話がどこにでもある小規模な地方の博物館である。
「ひゃわわ、アニキ~。怪物のオバケが……!」
「大丈夫だって、ただの化石だから」
自然にまつわる博物館なので中には当然巨大な生物の化石もあり、サスケはアンデッド系のモンスターと勘違いして俺にひしっと抱き着く。
やべ、薄暗いしなんかイケナイ感情が芽生えそう……じゃない、とっととタイガーウルフの正体を突き止めないと。
「ひょっとしてタイガーウルフってこれか?」
博物館の中には一番目立つように化石が展示されており、元々はちゃんと支柱やワイヤーを用いて立体で展示されていた様だ。
経年劣化で壊れてしまっていたけれど、強い獣の象徴である立派な牙はハッキリと確認出来る。この中にある化石の中では一番大きくて凶暴な見た目だし、可能性としては十分ありうるだろう。
「ふむふむ、ステゴドンの化石か」
鑑定スキルを使うとその化石の正体が判明した。ステゴドンって確か大昔の象みたいな生き物だっけ。
まったく、こんな事までわかるなんて鑑定スキル様様だ。これがあれば世の中の研究者はいちいちDNA検査とかをせずとも何の生き物なのか特定出来るし、そういう人にとっては是非とも欲しいチートスキルだろう。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、タイガーウルフの正体見たりステゴドン。語呂が悪いけどこれで満足かい?」
「ああ、どう上手く説明したらいいかわからないが、少なくとも脅威ではないな」
最初からタイガーウルフの正体を知っていた希典先生は適当に化石の残骸を眺める。ただ彼はそれ以上の興味を示す事は無かった。
「昔の人は古代に生きる生き物や未知の生き物について知る術はなかった。ジュゴンが人魚、イッカクがユニコーンの角、恐竜の化石がドラゴンと間違えられるとか、その手の話は世界中でありふれているねぇ」
「そして人類がいなくなって、何も知らないグリードはステゴドンの化石だとわからず、よくわからない怪物の骨だって考えて恐怖したってわけか」
紐解いてみれば何てことない真相だった。グリードも人間と同じで似た様な事を思いつく様だ。俺達からすれば彼らのほうがまんまファンタジーな怪物なんだけど。
「そうか。ただ個人的には正体を暴かなくてもよかった気もするな。言い伝えってそういうもんじゃないだろうし」
伝承の真実を知ってしまったザキラは少しだけガッカリしていたが俺はいいや、と否定した。
「それも一つの解釈だろうな。それに水害の時に疫神が現れるっていうのはあながち間違いでもないし」
汚れた水を好むタイガーウルフの言い伝えは公衆衛生の徹底や、水害の後の感染症に警鐘を鳴らす意味合いも持っていたはずだ。
それはある意味では真実であり、それによって救われる命もあるはずだ。この世界の人々が科学の力によって正体を突き止めるまではそのままにしておいた方がいいかもしれない。
「よくわからないけど呪われてるわけじゃないんだよな。なら安心させるために持って帰ってどこかで売るってのは」
「ネズミ君部隊に半殺しにされるぞ」
「わ、わかったよ。じゃー正体もわかったし帰るか。餃子食いたいし」
「ふぅ、よかったでヤンス~。これで心置きなく食べられるでヤンスね!」
「ああ。じゃあ帰るついでに廃材置き場を回って約束通りガレキも貰っておくか」
最後にリアンが悪事を働かない様に釘を刺しクエストはすぐに完了する。怖がっていたサスケもすっかり安心しきって尻尾を振っていたし、思う存分メシを堪能しよう。




