3-36 モッコスに遺されたかけがえのない宝
もふもふ君達は調理道具があるアンジョの遺構に移動し、せわしなく動き回って料理を始めた。
「てい」
「うぉう」
ただ真っ先に始めたのはシシブタの解体だった。ここからはよく見えないが厨房からゴキゴキと関節をちぎる音が聞こえたので、俺は出来るだけ気にしない様に眼をそらした。
もちろん肉なんだから食べるためには解体しなければならない。わかってはいるけどやっぱりなあ……。
「どんぶりはどうしよう。もってきたやつじゃたりないよね」
「うーん、ここにあるやつをつかおうか。つかえるものはつかわないとね」
「いいのかな、ぶんかざいだよ。たしかにそのへんはなあなあだけど」
「ようのびっていうんだよ。みんながおなかいっぱいたべてくれればぼくはしあわせなんだ」
「そっかー」
リーダーのもふもふ君は店の奥からかつての人々が使っていたラーメン丼を引っ張り出す。しっかりと手入れされていたのだろう、すぐに使える程度に丼は綺麗だった。
「だけどラーメン丼が文化財ねぇ」
「別に不思議じゃないだろ。アンジョが使っていたものは何でも値打ちものになる。それこそ日用品でもな」
俺はどうにもしっくり来なかったが、ザキラはこの世界の常識を教えてくれた。
確かに俺達の世界でも昔の物はそれだけで価値があるし、機織り機や農機具の重要文化財とかもあったりするのでそこまで変ではないかもしれない。
それにこの場所自体どこからどう見てもただのフードコートで高級路線ではない。周辺にあるものからおそらくかつては観光の拠点であり、地元の名産品やお土産を売っていたのだろう。
「それになんかデザインがバラバラだし」
またラーメン丼は不思議な事に大きさもデザインも統一されていなかった。こだわりがあろうとなかろうと普通は同じ丼を使うはずなのに。
「その理由はアレだよ」
不思議に思っていると、希典先生は俺の疑問に対する答えを教えてくれた。
「アレ?」
彼の視線の先には額縁に入った状態で新聞記事が飾られており、長い年月で色褪せてはいたが辛うじて文字は判別出来た。
『復興――』
『――破損』
『全国――ラーメ――支援』
新聞記事の写真にはプレハブ小屋の仮設店舗を背景に、熊本の有名なゆるいキャラと全国から集まったラーメン店の店主が写っており、額縁の下の棚には美術館の展示品の様に様々なラーメン丼が大事そうに飾られていた。
「……なるほどな、確かにこりゃ国宝級の文化財に違いない」
どういう状況でこの写真が撮影され、日本中からラーメン丼がこの場所に集まったのかはなんとなく想像がつく。
今まで変なものか物騒な文化財しか見てこなかったが、お金では決して買えないこのラーメン丼に関しては間違いなく後世に残すべき宝のはずだ。
「いいにおいー」
「ラーメンが食えるって聞いて来たんだが」
噂を聞きつけた被災者兼ボランティアスタッフは続々と集まって来る。ただ豚骨ラーメンはそんなにすぐに出来るものではないし、すぐには食べられないだろう。
「まっててねー、とくべつなおなべでつくってるから、にじかんくらいでできるよ。そのあいだシシブタのギョウザでもたべてー。とりてんもつくるからー」
「そいつは楽しみだ!」
「わーいわーい」
「くっくっく、ヒムカのギョウザとどっちが美味いのか見せてもらおうじゃないか」
ただもちろんその辺は抜かりなく、もふもふ君はちゃっかり大量の餃子を焼き上げていた。
ジュージューと蒸気と共に美味しそうなニオイが漂い、猛烈に腹が減ってきて今から食べるのが楽しみだ。
どこぞの中華系の外食チェーン店からスカウトが来そうな程の手際の良さだけど、食生活の向上のため個人的に是非とも彼を仲間にしたいものである。




