3-33 世界を支える縁の下の力持ちなマタンゴさん
彼らの棲み処となっている海沿いの桜並木を散歩しながら、俺は案内役のマタンゴさんについていく。
でもこんな場所にガソリンみたいな燃料を蓄えるなんてイメージが湧かない。ただここがミナモトならひょっとすると……?
「ごろごろー、ごろごろー」
「わーいわーい」
「ああ、やっぱり」
そこは様々なものが置かれたゴミ捨て場だったが、こちらでもたくさんのマタンゴさんが遊んでいて、まるで幼稚園の様に騒がしく賑やかだった。
人間にとってはゴミでも彼らにとってはちょうどいい苗床らしく、遊び場にもなっていたゴミ捨て場はたくさんのキノコで埋め尽くされていた。どのくらいの期間がかかるかはわからないが、このペースだとすぐに分解されるだろう。
「ねんりょうはこっちだよー!」
しかしゴミ捨て場は一旦素通りし俺達はもう一つの区画に向かった。そこにもやはりキノコが繁殖していたが、こちらは主に壊れた木製の家具や丸太が置かれていた。
「えっほ、えっほ」
マタンゴさんは小さな体で一生懸命燃料を入れたタンクを運び一カ所に集めていたが、あれが何なのか現代人の俺にはすぐにわかってしまった。
「前にマタンゴさんの話をした時に木を魔力が籠った水に変えるとかそんな話をしたけど、バイオエタノールの事だったのか」
「バイオエタノール? アニキの世界でもマタンゴさんが作ってるんでヤンスか?」
「マタンゴさんはいないけどバイオエタノールはある。そこまで普及はしていないけど」
サスケは聞き慣れない単語を不思議に思っていたが、そこかしこに森が存在するこちらの世界では主要な燃料として用いられている様だ。
原価はタダ同然だし、この世界の人々がエネルギーの枯渇で困る事は無いのだろう。むしろ俺達の世界よりも進んでいるはずだ。
俺が感心していると、希典先生はマタンゴさんの脅威の能力についてさらに教えてくれた。
「マタンゴさんは可愛いだけの存在じゃない。植物をバイオエタノールに変えるだけじゃなく、ウルトの木を半導体の材料に加工する事も出来るのさ」
「植物由来の半導体って。俺達の世界でも研究されてはいましたけど」
なお植物由来の半導体は俺達の世界にも存在していたがおよそ使えるレベルではなく、地球寒冷化により安定して植物が手に入らなくなった事で見向きもされなくなってしまった。だがこの世界では独自に発展した結果技術が確立されたらしい。
軍事も含めてあらゆる電子機器に欠かせない半導体は国家の命運を左右する重要な資源であり、それを巡って争いも起きていたというのに、この世界の人々は簡単に作れるというのか。
「もう一つ、こいつらはどんなゴミでも分解する事が出来るのさ。有機物だけじゃなく、プラスチックや危険な薬品でもね。それこそ核のゴミでも無毒化出来るよぉ」
「マジですか」
しかしマタンゴさんの恐るべき能力はそれだけではなった。核のゴミについては俺達の世界でも深刻な問題になっていたが、それをこんな小さな生命体が解決してしまうだなんて。
特に核の恐ろしさを身をもって知っている俺からすれば、それはとても信じられない事だった。
「だが最大の強みは異常なまでの生命力と繁殖力だ。ナガエツルノゲイトウなんて目じゃない。今この世界で一番の覇権を握っているのは間違いなくこいつらだろう」
今更だが俺はどこでも、正確にはどのような環境下でもマタンゴさんを見かける事に思い至った。最強最悪の外来種とされるナガエツルノゲイトウを凌駕するなんて一体どれほどなのだろう。
「マタンゴさんは縁の下の力持ちなのさ。もしもこの世界からマタンゴさんがいなくなったらレムリアは数年で滅びるだろうねぇ」
「……お前ら凄かったんだな」
「えっへん、ぼくたちすごいんだ」
俺はただただ脱帽する事しか出来ず、自身がとんでもない存在だとちゃんと理解しないまま胸を張るマタンゴさんに敬意を払ってしまった。
確かにここまでぶっ飛んでいるならさん付けで呼ばれるのも当然だ。この世界で最強のチートキャラはマタンゴさんなのかもしれない。
「そんなに感心する程の事かねぇ。それよりボサッとしてないでお前も燃料を運べよ」
「だな」
しかしリアンはこれが当たり前の事と認識しなんとも思っていなかったらしい。マタンゴさんを何匹か持って帰って向こうの世界で繁殖させたら、ノーベル賞クラスの発明品がいくらでも量産出来るというのに。
ただ今はのんびり社会見学をしている場合ではないし、俺達はバイオエタノールを入れたタンクをアイテムボックスに入れて避難所に届ける事にした。




