3-32 マタンゴさんとウルトの樹の生態
源本市は元々緑豊かな場所として知られていたが、人類が滅亡した事でさらに自然の多い場所に変化していた。
というよりも最早ただの森だ。色鮮やかなキノコは廃屋を彩り、新緑の木々の葉っぱはエメラルドの様に輝いて、まるで童話の世界に迷い込んだかの様だ。
道路だった場所には透き通った清水が流れ、ミナモトは名に違わぬ美しさを取り戻している。結局のところ一番のエコは自然の営みに任せる事なのかもしれない。
「ぼくたちがおしごとしてるところにあんないしてあげるね! こっちこっちー!」
「ちょ、待てって」
ようやく物資が届けられる様になり、マタンゴさんはよほど嬉しかったのか木々の太い根っこの上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら移動する。
俺は山の奥深くを進む様に悪戦苦闘しながら追いかけ、燃料が貯蔵されているという場所に向かった。
「歩きにくいな……」
カラフルなキノコが生え黄緑色に輝く道なき林道を進み、ある程度進むと光の波長が水色とピンク色に変わる。はて、これは一体なんだろう。
「ここぼくたちのおうちー! ウルトがたくさんあるよ!」
「これは……」
マタンゴさんはキャッキャと飛び跳ねて我が家を自慢する。だけどそこには民家の類は一切無く、代わりに延々と海沿いに桜並木が連なっていた。
「ぽへーん」
「わーいわーい」
桜の樹にはマタンゴさんが群がり、昼寝やかけっこ、かくれんぼなど思い思いに過ごしていた。
あちらでは切り株をフィールドに、ベーゴマやメンコで遊んでいるマタンゴさんもいる。ムゲンパレスでも見かけたけど彼らにとっては人気の玩具なのだろうか。
またマタンゴさん以外にもリスや小鳥といった様々な動物が生息し、森に住む彼らにとってはメインストリート兼住宅街となっている様だ。
「きゃっきゃー」
光り輝く清らかな水面は桜の花びらを浮かべ、本来の美しさを取り戻していた。
命の息吹の様に温もりを感じる風は淡いピンクの花びらを散らし、マタンゴさんはかつての悲劇を知る由もなく桃源郷の様な場所で無邪気にはしゃぎ続ける。
だが人間がいないからこそなお美しいのだと退廃的に考えてしまう俺は、少し心が汚れているのだろう。
「ウルトってちゃんと見たのは初めてだけど、まんま桜の樹だったんだな」
「マタンゴさんはウルトの樹を好むんだ。マタンゴさんがいる所には大体ウルトの樹があるし、ウルトの樹がある所には大体マタンゴさんがいるんだよ」
「ほへー」
リアンはウルトの樹とマタンゴさんに関する小ネタを教えてくれた。普通のキノコも樹木によって生えるものが異なるし、生態の様なものなのだろう。
「ウルトはね、なんかぽかぽかでふわふわでおちつくのー」
「はは、そっか」
我が家を自慢するマタンゴさんの感覚は抽象的だったが、彼らにとっては最高のおうちらしく太い枝の上で仲良くじゃれ合っていた。
様々な使い道があり人々の生活に欠かせないウルトは、この世界にとってもマタンゴさんにとっても欠かせないものの様だ。




