3-31 VS魔獣シシブタ
ミナモト地区への道中遭遇したイノシシ――ではなくシシブタは俺達の世界のイノシシとは違い、サイズが一回りも二回りも大きく軽トラ程度の大きさだった。
反り立つ牙もマンモスの様に巨大で、こんな凶悪なクリーチャーと遭遇してしまえば百獣の王であろうと全速力で逃げ出すだろう。
しかもそんなものが唸り声を上げながら大挙して押し寄せているわけで。俺も内心逃げ出したくて仕方がなかった。
「俺っちも援護する。好きな様にやってみな」
「はい、先生!」
「ピィ!」
こんなものに接近戦を挑もうとは思わない。指導役の希典先生に見守られながら、俺はピヨタンに乗ってひたすら睡眠弾をバラまいた。
「ブゴ!?」
現実のイノシシは麻酔銃を撃ってもすぐに効果が出る事は無く、むしろ逆に興奮して反撃される事もあるがシシブタは数発で昏倒してしまう。
「あらよっと!」
大きくても結局はイノシシなので基本的に突進攻撃しかしてこない。リアンは新しく作った義手を射出して廃墟の建物の上に移動し、ニードルガンを乱射してシシブタを攻撃する。
「ブゴッ!」
強化されたニードルガンは貫通性能が向上し、眼球に突き刺さりシシブタは行動を停止した。普通にエグイから直視出来なかったけど。
「駄目だよリアンちゃん。後で食べる時は傷をつけない様に仕留めないと」
「何をしてるんですか!? 危ないですって!」
希典先生はピヨタンから飛び降り、戦場で身一つになるという自殺行為にボランティアの人は悲鳴を上げてしまう。
「よいしょ」
だが彼はシシブタが突進すると同時に跳躍、空中で舌を槍の様に伸ばして延髄に突き刺し、獰猛な魔獣は悲鳴を上げる事無く一瞬で絶命し肉塊へと変わってしまう。
「な……っ!?」
希典先生は今何をしたんだ。どうやって攻撃したんだ。俺は一部始終を見ていたのに何も理解出来なかった。
「ひゃー、まれっちさんは暗器使いだったんでヤンスか? だけどオイラも負けてられないでヤンス! 全部やっつけて美味しくいただくでヤンス!」
サスケは理解不能な攻撃をトリックの類と認識し、素早くシシブタに接近して同じ様に急所を小刀で切り裂き瞬殺していく。
希典さんのせいで霞むが彼も結構な手練れだ。可愛らしいから忘れそうになるけどサスケもプロなんだよな。
「おや、頑張るねぇ。ならこれはどうだい?」
「え」
「ブモー!?」
しかし大人気ない希典先生は道路を強く踏みつけ、地面から無数の剣や槍が飛び出しシシブタを串刺しにした。
「ドヤァ」
そして再度道路を踏みつけると刃物はまた引っ込み、後にはシシブタの亡骸だけが残された。
サスケはしばらく呆気に取られていたが、次第に悔しさが沸き上がってきてしまったらしい。
「むー! なんかずるいでヤンス!」
「んじゃー智樹ちゃん、とっととシシブタを回収して。後で支援物資として届けておこう」
「は、はい……すごいですね。チートにも程があるじゃないですか」
希典先生は常に酔っぱらっていていい加減だがやはり化け物だ。俺は決して敵に回してはいけないと心に誓い、動かなくなったシシブタの死体を回収していく。
「た、助かったのか? っていうかそれ」
「後でお譲りしますので細かい事は気にしないでください」
希典先生のぶっ飛んだ攻撃もだが、俺のアイテムボックスもこの世界の人からすれば一種の奇跡だろう。けれど俺は強引にボランティアスタッフを言いくるめてその場を凌いだ。
「わーいわーい!」
「ありがとー!」
シシブタを回収しているとあちこちからマタンゴさんズがわらわらと現れきゃっきゃとはしゃいだ。どうやら襲われない様に身を隠していた様だ。
しかしそんな事よりもただでさえ可愛らしいマタンゴさんが集まればもっと可愛くなる。上空にいたザキラは頬を緩ませて彼らから話を聞くために降りてきた。
「ひょっとしてお前たちがミナモト地区のマタンゴさんか?」
「うん、やまにいたシシブタがたくさんやってきたせいでなにもできなかったんだ」
「こわかったよー。みんながこまっていたのになにもできなくてごめんねー」
「そっかそっか、だけどもう安心していいぞ」
「うん! ありがとー!」
偵察担当のザキラは一番美味しい役割を持っていく。俺も出来ればマタンゴさんにお礼を言われたかったが、感謝されたくてやったわけじゃないし別にいいか。
「こいつらも水害絡みで人里に降りてきたのかな」
推測だがシシブタは水害の影響で棲み処を追われ移動しただけで、決して害を為そうとしたわけではないのだろう。
しかし悪意がなくとも命や財産を護る為にはこうするより他ない。せめてもの償いに肉の一欠けらも残さず美味しくいただくとしよう。
「それじゃあこっちこっち! たべものとかねんりょうがたくさんあるよ!」
マタンゴさんは楽し気に俺達を案内してくれる。奪った命のためにもクエストを必ず完遂しないとな。




