3-30 クエスト・ミナモト地区の調査
ミナモト地区へ向かう道路はところどころが土砂や倒木で封鎖されていたが、空を飛べるザキラがルート案内をしてくれたおかげでさほど苦労する事は無かった。
さらにマップ機能も組み合わせれば移動に関しては楽勝だ。唯一のネックは今は仲間以外のボランティアスタッフがいるので、能力がバレない様に立ち回らなければならないという事か。
移動手段は例の如く疲れ知らずのピヨタンで、いつもの様にトコトコと元気よく走っている。
多少の段差はピョン、と難なく飛び越えてくれるし、むしろバイクとかよりも便利かもしれない。
『その先に大きな陥没が出来てる。迂回したほうがいいぞ』
「あいよ」
なお上空との連絡手段はにゃんにゃんバッジを使っている。結構離れた距離でも安定して会話が出来、俺達の世界でも普通に使える程度に便利な代物だけど、災害時はかなり役に立つアイテムだ。
「ところでミナモト地区って……やっぱり源本がモチーフなんですか? 俺達の世界じゃ人工太陽関連の施設がありましたけど」
「ああ、この世界でもそういうのに力を入れているよ。やっぱり人は絶滅して、今はもっぱらマタンゴさんの根城になってるねぇ」
源本は何がとは言わないが世界的に有名な場所であり、昔の教訓を生かして再生可能エネルギーやエコロジー関連の事業にこれでもかと力を入れているが、希典さんいわく同じ様な発展を遂げたらしい。
だけどマタンゴさんがたくさんいるのか。俺は絵本の中の様な楽し気な世界観をイメージしてほのぼのしてしまった。
「俺達の世界?」
「あ、何でもないっす。自分は思春期特有の病を患っているマミル族なんでお気になさらず」
「ああなるほど。僕も昔は魔王マーラの呪いでアンジョからグリードに変えられたって妄想をしたものさ。そういうのってよくあるよね」
「ハハ、よくありますよね」
ボランティアのキガン族の青年は奇妙な会話を不審がったが、俺は先ほどと同じ手段で誤魔化した。
この世界で異端扱いされて悪魔になった魔王マーラの話は前にも聞いたが、中二病の妄想の材料にされるタイプの神様らしい。
国によってはこういうのはタブーだけど、やはりここは宗教におおらかな日本をベースにした世界なんだな、と実感した。
「周りの人間はしばらくの間生暖かく見守ってくれたんだけど、勇者だって事をアピールするため畑を荒らしていた野生のシシブタと戦って大怪我をしてね。あ、これその時の傷だよ」
「うわお、こりゃまた。無茶をしましたね」
シシブタとは名前からしてイノシシみたいな生き物なのだろうか、キガン族の男性には人間なら数十針程度の大きな傷痕を自慢げに見せた。
男にとって多少の傷は勲章だ、なんて名言があったりするがこの世界では自慢出来る事なのだろう。
「あの頃は僕も若かったからねぇ。結局僕はキガン族だからどうあがいても勇者にはなれなかったけど、時々こうしてボランティアに出かけて勇者の真似事をしてるわけさ」
「そんな、立派だと思いますよ」
シシブタに喧嘩を挑んだ過去は彼にとっては黒歴史だったらしく恥ずかしそうにしていたが、俺は全くそう思わなかった。
「俺からすれば見ず知らずの人のために尽くす事が出来るあなたは勇者です。確かに痛々しい妄想だったのかもしれませんが、無駄じゃなかったとは思いますよ」
「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」
キガン族の青年はまさか中二病が受け入れられるのかと思っていなかったらしく恥ずかしそうに笑う。人はいつか夢から覚めるものだけど、彼はそれを上手く人生に生かしていた様だ。
ただおしゃべりを楽しんでいると、別のボランティアスタッフのナーゴ族の女性は耳をひくつかせ不安がってしまう。
「あのー、なんか静かじゃないですか?」
「ん? 確かにそうかもしれないけど。こんなもんじゃないかな」
猫っぽい彼女は第六感も鋭敏なのだろうか、得体の知れないものを感じ取った様だ。言われてみれば何となく妙なニオイがする様な……。
「……ええと、そもそも俺達は被害の確認も兼ねてミナモト地区に向かうわけですよね。支援物資が届かないとかそんな話もありましたが」
「う、うん。カルラ族の人にお願いして調べてもらうつもりだったけど、人手が足りなくて後回しにしてたんだ」
キガン族の青年いわく周辺の情報は全くないらしい。つまりどのような脅威があるのかも一切不明という事だ。
「オイラからもいいでヤンスか? そのぉ、なんか凄い獣臭いニオイがするっていうか……」
「リアンのニオイじゃないか?」
「オイコラ、オレは風呂にもちゃんと入るタイプのナーゴ族だぞ」
更にはサスケも不穏な事を言いだし、俺は冗談で誤魔化したがすぐに得物を取り出せるように身構えた。何故ならば俺も確かにそのニオイをようやく感知する事が出来たからだ。
『多分物資が届かなかった理由はアレだと思うぞ。トモキにもわかったよな』
「ああ、もちろんだ。来るぞ」
空から周囲を探っていたザキラは明確に脅威が存在する事を伝えた。ここには民間人もいるし、安全を確保する事も兼ねて戦わなければいけないだろう。
「ブゴォオ!」
「うわあッ!?」
「ニャー!?」
前方からは巨大なイノシシの群れが土埃を巻き上げながら現れ、不気味な地鳴りは否が応でも命の危機に瀕した状況に置かれた事を理解させる。
サンドワームやNAROと比べるがずっと格下の相手だが危険な事には変わらない。ビビりな俺は気が進まなかったが、名も無き勇者たちを護る為に戦う決意をした。




