3-28 民度が高過ぎるボランティアと、名君ナリー・キンデルの噂
モッコスの市街地は水害から避難してきた人々によって難民キャンプの様になっていたが、そこまで暗い雰囲気はなくむしろ和気あいあいとしていた。
こういう時俺達の世界では結構な頻度で略奪や暴動が発生し、デマで死人が出るのがいつものパターンだというのに、これは一体どういう事なのだろう。
「えっほ、えっほ」
「えっほ、えっほ」
「ちー」
ヘルメットを被ったもふもふ君部隊は大きな荷物を運び、その後ろをマタンゴさんやネズミ君が小さな体で一生懸命物資を運んでいた。
「ありがとうねぇ、本当に助かるわぁ」
「ありがとー」
「ちー!」
ゴーレムっぽい老婆は健気に頑張るマタンゴさん達を労い感謝を伝えた。確かにこんなものを見せつけられたら頑張らざるを得ないだろう。
「ライフラインも寸断されているだろうに民度がやべぇな。つーかぶっちゃけそんなに困ってないんじゃないか?」
「智樹ちゃんの世界とは事情が違うからねぇ。この世界は電気も水道も通ってない地域も多いし、基本的に魔石があれば何とかなるから。アシュラッドみたいに至れり尽くせりなほうが珍しいよぉ」
「それもそっか」
現代人の俺に希典先生は当たり前の事実を伝えた。ライフラインがなければ生きていけない現代人と違い、この世界の人々は随分とたくましい様だ。
「ついでに言えば水害なんかじゃ死なないグリードも普通にいる。水の中で生きる泥童族もそうだけど、この辺に多いゴーレムっぽい奴……鬼岩族は土砂崩れに巻き込まれたくらいじゃどうともならないだろうねぇ」
今までも何度か見かけたファンタジー作品におけるゴーレムに似たグリードはキガン族という名前らしいが、岩の肉体を持つ彼らはちょっとやそっとじゃ死ぬ事は無いだろう。
大柄な見た目通り力持ちなので数百キロはあるガレキも軽々と運んでいたし、一人一人が高性能な重機となって復興作業に大いに貢献していた。
見てくれはイカツイがもふもふ族と一緒にいればあら不思議、絵本の世界の登場人物に様変わりだ。強面だけど優しいとかそういう設定もあったりするのだろうか。
懸命に働く彼らの働きぶりを眺めていると、満足げな笑みを浮かべたザキラは現在の状況を教えてくれた。
「軽く聞いた話じゃ大水の影響で田畑や家屋は壊滅的な被害を受けたらしいが、ナジム自治区の領主の迅速な対応のおかげで被害は最小限に済んだらしい。さらにこうしていち早く救援要請をして必要な物資を送ったから上手くいってるってわけさ」
「ほへー、どこぞのポンコツ女王様も見習ってほしいものだ」
俺は名も知らぬナジム自治区の名君の手腕に感心してしまう。もちろん物資は十分という程でもないし、生活再建などする事はまだまだたくさんあるが現状では百点満点だと言えるだろう。
「善意だけじゃなく打算もあるんだろうけどな。ナジム自治区の領主のナリー・キンデルは良い噂も悪い噂も聞く。大方恩を売って勢力圏を拡大したいってのが本音だろ。アタシも何度か会った事があるが、気さくに見えて食えない人だよ」
「ナリー・キンデル……なんか成金っぽい名前だな」
続けて彼女は領主キンデルの素性について説明する。ただ国を跨ぐ復興支援なんて大体そんなものだし、俺としては別に咎めるつもりは無かった。
また話を聞いていたリアンは羨ましそうに彼の経歴を語る。
「実際庶民から一大で財を成した成金だよ。あいつのおかげで何もなかったナジム自治区は今じゃアシュラッドを凌ぐ大都会になってる。オレも一発当ててキンデルみたいに優雅な暮らしをしたいもんだ」
人間と魔族の格差はアシュラッドでまざまざと見せつけられたし、この世界でグリードが裸一貫の状態から成功するという事はとてつもない偉業に違いない。
きっと巨万の富を得たキンデルはこちらの世界におけるアメリカンドリームを体現した人なのだろう。現実のアメリカは終末戦争の真っただ中で夢もクソもないけど。
「商売人の多いもふもふ族とキンデルは特に関係が深いからねぇ。身バレ防止のために念のため笠を被っておきな。基本的にもふもふ族はアホだから大丈夫だとは思うけど、いざって時はサイコジャックや催淫銃で切り抜けるんだよぉ」
「はい」
ボランティアの詰め所に行く前に希典さんはそうアドバイスをし、俺は三角笠を被って顔を見えにくくした。タヌキの置物みたいでなんか嫌だがしばらくは我慢しよう。




